オレオレ詐欺はなぜ昭和に流行らなかった?2003年に急増した理由を検証

オレオレ詐欺というと、携帯電話やネット社会が生んだ現代型犯罪のように見える。しかし、仕組みだけを抜き出すと驚くほど古典的だ。

電話をかける。息子や孫を名乗る。事故や借金など緊急事態を作る。そして金を出させる。この程度なら昭和の固定電話だけでも十分に実行できる。

では、なぜ昭和40年代、50年代に「オレオレ詐欺」が社会問題にならなかったのか。そこを調べると、この犯罪は単なるアイデア勝負ではなく、時代のインフラが完成して初めて大規模化できた詐欺だったことが見えてくる。

オレオレ詐欺が「発明」されたのは2003年とは限らない

まず整理しておきたい。オレオレ詐欺が2003年に突然発明された、と断定するのは正確ではない。

警察庁の資料では、2003年(平成15年)5月以降に「発生が目立ってきた」とされている。つまり、それ以前に似た詐欺が存在しなかったという意味ではなく、この頃から同種の手口が大量発生し、一つの犯罪類型として認識され始めたということだ。

しかも2003年は、現在のようなスマートフォン社会ではない。つまり、スマホはオレオレ詐欺の必須アイテムではなかった。

むしろ昭和のほうが騙しやすかった部分もある

昭和の固定電話には、犯人側に有利な条件もあった。

現在ほど特殊詐欺への警戒がなく、電話口で突然「俺だよ」と言われても、「詐欺ではないか」と疑う社会的な免疫がない。ナンバーディスプレイもなく、知らない番号を見て警戒することもできない。

電話帳には氏名、住所、電話番号まで掲載されていた。詐欺師からすれば、無作為に電話をかけるための名簿が一般家庭に置かれていたような時代でもある。

もし昭和50年代に巧妙な詐欺師がこの方法を思いついていたら、最初のうちはかなり高い成功率を出した可能性はある。

問題は「金の回収」が大きな壁だった

ところが、昭和版オレオレ詐欺には大きな壁がある。

電話で騙すところまでは簡単でも、最後に犯人が被害者の金を回収しなければならない。

現金を取りに行けば顔を見られる。郵送なら受取場所が必要になる。銀行振込を使ったとしても、犯人側には口座と現金化する人間が必要になる。

平成以降の特殊詐欺では、電話をかける役、指示する役、金を受け取る役、ATMから引き出す役などが分業され、他人名義などの口座や携帯電話も悪用されるようになった。

昭和にも詐欺はできた。しかし「大量生産」が難しかった。ここが大きな違いではないだろうか。

昭和の家族構成も、意外な防犯装置だった

もう一つ見逃せないのが家族構成だ。

1986年(昭和61年)、65歳以上の人がいる世帯では三世代世帯が44.8%を占めていた。ところが2001年には25.5%まで低下している。

同居家族が多ければ、怪しい電話が来ても「ちょっとお父さんに聞いてみよう」「本人の会社に電話してみよう」と確認されやすい。

反対に、高齢者だけの世帯が増えるほど、電話一本で相手を孤立させて判断を急がせる詐欺には都合がいい。

オレオレ詐欺の成立には通信技術だけでなく、日本の家族が離れて暮らすようになったことまで関係していた可能性がある。

そして2003年、一気に被害が拡大した

警察庁によれば、2003年のオレオレ詐欺は認知6,504件、被害総額約43億2,000万円。それが翌2004年には1万4,874件、被害総額約191億3,000万円まで急増した。

わずか一年で被害額が4倍以上になっている。

これは突然、日本人が騙されやすくなったという話ではない。

電話、銀行振込、携帯電話、犯罪グループの分業、離れて暮らす親子。それまでバラバラに存在していた条件が組み合わされ、「他人に会わずに大金を奪う」という仕組みが完成したと考えるほうが自然だ。

昭和にやっていたら大儲けできたのか?

結論としては、先駆者であれば一定の被害を生んだ可能性はある。しかし平成ほど巨大な犯罪ビジネスにはしにくかった、というところだろう。

昭和には警戒されていないという強烈なメリットがある。その一方で、金の回収、仲間との連絡、大量発信、逃走まで考えると効率が悪い。

つまりオレオレ詐欺は、誰も昭和に思いつかなかった天才的犯罪というより、アイデアだけは昔から成立したが、「大規模な犯罪システム」にするには時代が少し早かった犯罪なのかもしれない。

犯罪にも、発明されるのに適した時代がある。その意味では、2003年という時期そのものが、オレオレ詐欺最大の発明者だったとも言えそうだ。

【編集者が思うこと】

最後にひとつ。頭の良さって、善悪とは別物なんだよね。普通の人なら思いついてもやらない仕組みを、「これ、犯罪に使えば儲かる」と計算して実行する人間がいる。賢さの使い道を間違えると、かなり厄介だ。

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