マクドナルドの肉はミミズだった?昭和の都市伝説が全国に広がった理由

昭和を代表する都市伝説「マックの肉はミミズ」

昭和50年代から昭和末期にかけて、子供や学生の間で妙に有名だった噂がある。

「マクドナルドのハンバーガーには、牛肉ではなくミミズの肉が使われている」

地域によっては「ネズミの肉」「猫の肉」といった亜種も存在した。もちろん、マクドナルドがミミズを原料として使用していた事実は確認されていない。完全に都市伝説の領域である。

それでも興味深いのは、当時にはSNSどころかインターネットすら一般家庭に存在しなかったことだ。それなのに、東京だけでなく地方の小中学生まで似た話を知っていた。
いったい、何がこのデマを全国へ運んだのか。

そもそもの発祥は日本ではなかった

この噂の源流をたどると、1970年代後半のアメリカに行き着く。

民俗学者Gary Alan Fineの研究では、ハンバーガーにミミズを使っているという噂は、もともと急成長していたウェンディーズに結びつけられていたものが、やがて最大手だったマクドナルドへ移動したとされている。

つまり「マクドナルドが何かをやらかしたから噂が生まれた」という順番ではない。

先に“怪しいハンバーガー屋の話”があり、あとから最も有名な会社の名前が貼り付けられたのである。

なぜ「ミミズ」だったのか

ここには当時のファストフードに対する心理も関係している。

大量生産された食品が、非常に短時間で提供される。しかも比較的安い。当時としては新しい食文化だったため、「こんなに安く大量に作れるのは何か裏があるのではないか」という疑念が入り込みやすかった。

日本でもマクドナルドは1971年に銀座へ1号店を出店。昭和50年代は、ファストフードが全国的な存在へ成長していった時期と重なる。

しかもハンバーガーは日本人にとって、まだ歴史の浅い「外国から来た食べ物」だった。

「安い」「大量生産」「中身が見えない挽肉」「外国企業」

都市伝説が育つ材料としては、かなり優秀だったのである。

最大の拡散装置は「友達の友達」だった

昭和の噂には特徴的な言い回しがある。

「俺の友達の兄貴がマックでバイトしていて見たらしい」
「知り合いの女子高生が工場で見たらしい」
「テレビで問題になったらしい」
本人が直接見たという人は、なぜかほとんど現れない。

ところが「知人の知人」という距離は、デマを広げるには絶妙である。完全な他人の話なら信用されない。しかし友人経由なら、ほんの少しだけ現実味が出る。

さらに学校、部活動、職場、塾、電話、旅行、親戚と、人間そのものが通信回線になっていた。

現代なら「シェア」ボタンを押すところを、昭和では休み時間や放課後に口でシェアしていたわけだ。

噂はコピーされるたびに「アップデート」される

そして口伝えには、ネットにはない厄介さがある。

証拠が残らないうえ、話す人が勝手に内容を追加できる。

単なる「ミミズを使っている」という話が、やがて「地下に巨大なミミズ養殖場がある」「アルバイトが見てしまった」「会社から口止め料をもらった」などと進化する。

都市伝説は保存される情報ではなく、人から人へ渡るたびに改造される情報なのである。

「テレビでやっていた」が昭和最強の証拠だった

さらに強かったのが「テレビで見た」という一言だ。

現在なら検索すれば数十秒で確認できる。しかし昭和では、「昨日テレビでやってたよ」と言われても確認する方法がほとんどない。

新聞の縮刷版でも探さない限り、真偽不明のままである。
つまり情報が少ない時代だからデマが広がらなかったのではない。

情報が少ないからこそ、デマを否定する手段も少なかった。

SNSがなくても、人間は昔から「拡散」していた

ミミズバーガー騒動を見ると、「デマはSNSが生み出した」という考え方が少し怪しくなってくる。

SNSが作ったのはデマそのものではない。拡散速度を猛烈に速くしただけだ。

昭和にも「友達から聞いた」「テレビで見たらしい」「業界の人が言っていた」という、現在の匿名投稿やリポストとほぼ同じ仕組みが存在していた。

しかもマクドナルドほど誰でも知っている企業なら、北海道で聞いても九州で聞いても話が成立する。都市伝説にとって、全国チェーンは非常に使いやすい舞台だった。

結局、ミミズより面白いのは「人間」のほうだった

マクドナルドの肉がミミズだったという証拠はない。経済的に考えても、大量のミミズを衛生管理しながら養殖・加工して牛肉の代用品にする合理性は乏しい。

だが、この話が何十年も生き残ったこと自体には価値がある。
人間は「普通の事実」より、「少し気持ち悪くて、誰かに話したくなる情報」を好んで運ぶ。

昭和にはスマホもSNSもなかった。
それでもデマは海を渡り、日本中の学校や職場へ届いた。

結局のところ、最強の拡散装置は昔から変わっていない。
インターネットではなく、人間そのものだったのである。

【編集者が思うこと】

小学生の頃、「親戚の兄ちゃんが“ミミズバーガーくれ”と言ったら裏に呼ばれて、口止め料に10個もらった」なんて話を本気で聞いていた。家で親に話したら「そんなわけねえだろ」で終了。今思えば、その雑な一言がいちばん正しかった。昭和の都市伝説、子供には妙に完成度が高かったんだよな。

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