勉強しないまま大人になると、人生はつまらないのか?――「知らなくても困らない」の落とし穴

勉強しないまま大人になると、人生はつまらないのか?――「知らなくても困らない」の落とし穴

いい歳をして、世の中のことを何も知らない。それでも毎日が楽しいという人は、別に珍しくない。

だが、ふと思う。同じ車を見ても、同じ神社へ行っても、そこから何十もの話を広げられる人と、「ふーん」で終わる人がいる。いったい何が違うのか。

勉強しないまま大人になると、人生の面白い部分を知らずに終わるのではないか?

少々意地の悪い疑問だが、内閣府の調査と海外の心理学研究を調べてみた。すると、学歴の話では片付かない、妙な仕組みが見えてきた。

「勉強する必要がない」と答えた人は、実際には何%?

内閣府が2022年7月に実施した「生涯学習に関する世論調査」。全国の18歳以上1,557人のうち、過去1年ほどの間に月1日以上の学習を「していない」と答えた人は24.3%だった。

さらに、この378人に理由を尋ねると、最多は「特に必要がない」の45.5%。次いで「きっかけがつかめない」29.1%、「仕事が忙しい」27.5%だった。複数回答である。

ここで注意したい。45.5%は日本人全体の数字ではない。学習していない378人の割合だ。

計算し直すと、378人×45.5%≒172人。回答者全体1,557人に対しては約11.0%となる。

つまり、この調査で「学習していないうえ、特に必要も感じない」と答えたのは、およそ9人に1人。世の中の半分近くが勉強不要論者という話ではなかった。

一方、何らかの学習をした1,165人では、53.8%が、その成果によって自分の人生を豊かにしている、または豊かにできると回答している。

ただし、この二つは質問内容も回答対象も異なる。学ばない人が不幸だと証明した数字ではない。

古い車が「鉄の塊」に見えるか、「歴史」に見えるか

例えば、昭和のスポーツカー。興味のない人には、燃費が悪くて古いだけの車かもしれない。

ところが、エンジン設計、排ガス規制、ライバル車、メーカーの経営事情まで知っている人には、一台の車が当時の産業史に見えてくる。

神社でも同じだ。立派な建物として眺めるのも楽しい。しかし祭神や地域の歴史を知れば、何百年前の政治や人間関係まで話が広がる。


同じ昭和のスポーツカーを眺める2人の男性と、車の内部構造や開発資料をイメージした挿絵

これは気分だけの問題でもない。

2023年、米ペンシルベニア大学の研究者が学術誌『Scientific Reports』に発表した研究では、絵画に作者や技法などの説明を添えると、情報の組み合わせや作品の種類によっては、作品への好意や関心が高まることが確認された。

特に美術経験の少ない人では、背景情報による評価の変化が見られた。一方、経験豊富な人では同じ効果が明確でない条件もあり、効果自体が小さい場合もあった。

知識は、同じものを見たときの面白さそのものを変える場合がある。ただし、知れば必ず好きになるわけでもない。

知らない人は、何を知らないかも分からない?

1994年、心理学者ジョージ・ローウェンスタインは、人が知識の不足や理解の隙間を意識すると好奇心が生まれる、という理論を示した。

これを旧車趣味に置き換えてみよう。

車名すら知らなければ、疑問も浮かばない。ところが「この車には珍しい限定モデルがあった」と知れば、「なぜ限定だった?」「何が違った?」と調べたくなる。

2014年の神経科学研究では、好奇心が高い状態の人は、知りたかった情報だけでなく、その間に偶然見た情報も記憶しやすくなることが確認されている。

つまり、興味を持つ、調べる、覚える、さらに疑問が増える――そんな循環が起こり得る。

逆に、最初の疑問が生まれなければ、その先の面白さに出会う機会も少なくなるのではないか。ここから先は編集者の推測だが、案外、大きな差だと思う。

知識のある人は、本当に幸せなのか?

では、能力が高い人ほど幸福なのか。OECDの2023年成人スキル調査に基づき、学校教育在学中を除く25〜65歳の日本の成人データを確認した。

数的思考力が低い層(レベル1以下)では、生活満足度を10点満点の7点以上と答えた人が36%。高い層(レベル4以上)では63%だった。

差は27ポイント。割合では約1.75倍になる。

もっとも、数的思考力は知識量や勉強時間そのものではない。収入、仕事、健康などの違いも関係し得るし、生活満足度と趣味の面白さも別物だ。この数字だけで「勉強すれば幸せになれる」とは言えない。

そもそも、学校の勉強が苦手でも、釣り、料理、機械整備などに驚くほど詳しい人はいる。学歴がないことと、学んでこなかったことは同じではない。

逆に知識があるせいで、映画の編集ミスや車の設計上の欠点が気になり、素直に楽しめないことだってあるだろう。

40代、50代で「今さら勉強」なんて必要か

資格試験の参考書を開け、という話ではない。中古車を見て「なんでこんな形なんだ?」と思う。スーパーの値札を見て「なぜこの店だけ安い?」と疑う。それも調べ始めれば立派な学習だ。

勉強とは、学校の机に戻ることだけではない。

では、勉強しない人生はつまらないのか。

調査でそこまでは証明できなかった。ただ、知識が新しい楽しみを生むことには、実験的な根拠がある。

知らなくても幸せには暮らせる。だが、知っていれば面白がれたものが、目の前を素通りしている可能性はある。


古い車の写真を手に、エンジン構造や歴史資料を調べる50代男性の挿絵

【編集者が思うこと】

昔から気になっていた。こっちが面白いと思って話しても、「へえ」で終わる人がいる。いや、そこからが面白いんだろう、と。

だが、今回調べて少し考えが変わった。相手に知識がないから面白さが伝わらない場合もあれば、そもそも興味の方向が違うだけかもしれない。車に詳しくない人が、植物や料理には恐ろしく詳しいなんてこともある。

それでも、「知らなくても困らない」と「知らなくても損しない」は別だと思う。

俺だって知らないことだらけだ。だからこそ、50を過ぎても新しい疑問が出てくる。調べた結果、昨日まで何でもなかったものが急に面白くなる。

結局、そこなんだよな。大人になって本当に惜しいのは、勉強ができなかったことより、「なんでだ?」と思わなくなることじゃないか。

知るほど面白い人生――大人の好奇心・全3回

勉強しないと人生はつまらないのか。旧車が宝物に見える理由、50代からの好奇心。同じ世界なのに人によって面白さが違う謎を、統計・趣味・心理学の3つの視点から追います。

  • 第1回: 勉強しないまま大人になると、人生はつまらないのか?――「知らなくても困らない」の落とし穴
  • 第2回: 準備中 公開予定
  • 完結編: 準備中 公開予定

参考資料

  • 内閣府『生涯学習に関する世論調査』(2022年7月調査、同年11月公表)調査票・回答割合
  • OECD『成人スキル調査2023:日本』(2024年)数的思考力と生活満足度・図7
  • Darda, K. M. & Chatterjee, A. (2023), “The impact of contextual information on aesthetic engagement of artworks”, Scientific Reports. 原著論文
  • Loewenstein, G. (1994), “The psychology of curiosity: A review and reinterpretation”, Psychological Bulletin. 原著論文
  • Gruber, M. J.ほか (2014), “States of curiosity modulate hippocampus-dependent learning via the dopaminergic circuit”, Neuron. 原著論文

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