『サザエさん』に約39年ぶりの新キャラクターとして登場した星宮くん。
初登場は2024年12月1日の放送55周年記念スペシャル「カツオ、ライバル現る!」だった。ゲストや1話限りの人物を除けば、約39年ぶりの新キャラだとフジテレビ自身が発表している。
39年ぶりに現れたカツオの「本格的ライバル」
星宮くんはカツオと同年代の転校生で、スポーツができる。走り幅跳びではカツオが出した記録をあっさり更新。さらに女子からの評判もいい。
要するに、これまでカツオの周囲にほとんど存在しなかった「真正面から競わせられる同性のライバル」である。

では、なぜ今さらこんなキャラクターが必要だったのか。
かなり身もふたもない言い方をすれば、60年近く同じ小学生を使って毎週話を作っていれば、そりゃネタも苦しくなる。
カツオには中島という親友がいる。花沢さん、かおりちゃん、早川さんという女子もいる。しかし、中島は基本的にカツオ側の人間であり、本格的なライバルではない。
星宮くん一人で話のパターンが一気に増える
そこで星宮くんを一人入れるだけで、スポーツで競う。女子人気で競う。勉強で競う。カツオが嫉妬する。星宮の弱点を発見する。最後には妙な友情が生まれる。
これだけ話のパターンが増える。

つまり星宮くんは、サザエさんを令和風に刷新するための革命的キャラではない。むしろ逆である。
何も変えずに新しい話を作るための便利な部品として投入された可能性が高い。
スマホも持たせない。SNSもやらせない。髪型も服装も奇抜にしない。「令和の転校生」というより、昭和の学園漫画に放り込んでも普通に成立する少年だ。
ここが実に『サザエさん』らしい。
長谷川町子が生きていたら新キャラを許したのか
では、長谷川町子が存命だったら星宮くんを許したのか。
これは本人に聞けない以上、断定はできない。
ただし、「長谷川町子ならアニメオリジナルの新キャラなど絶対に許さなかった」という説も少々雑である。
アニメ版は1969年にスタートし、長谷川町子は1992年まで存命だった。その間にもアニメの人物構成は変更されている。
特に1985年には浜さん一家が退場し、三河屋には三郎さんが登場。さらに現在の伊佐坂家も隣へ引っ越してきた。
つまり、町子存命中のアニメ『サザエさん』も、石像のように一切変更禁止だったわけではない。
問題は「新キャラ」ではなく、その人物が必要なのか
ただし、ここで一つ問題がある。
長谷川町子は、自分の作品や権利に対してかなり厳しい姿勢を持っていた人物として知られている。
だから制作側が、「55周年なんでイケメン転校生を追加しちゃいました!」などと軽いノリで持っていったら、簡単に「いいですね」とはならなかっただろう。
おそらく問われたのは、「この子を出す必要があるの?」という一点ではないか。
そして星宮くんの場合、その審査には案外通った可能性がある。
なぜならサザエさんの世界そのものを壊していないからだ。
カツオが同級生に負けて悔しがる。たったそれだけの話である。

星宮くんは少し出来すぎている
むしろ気になるのは、星宮くんが少々出来すぎていることだ。
スポーツができる。感じもいい。女子にも人気。
長谷川町子作品の人物は、そんな完璧人間ばかりではない。
波平は威厳があるようで抜けている。マスオは常識人だが気が弱い。サザエは明るいがそそっかしい。カツオは悪知恵が働くが詰めが甘い。
欠点があるから人間になり、欠点があるから笑いになる。
もし町子本人が星宮くんを作ったなら、「爽やか万能少年」で終わらせず、とんでもなくケチだったり、虫が死ぬほど苦手だったり、方向音痴だったり、何か一発くだらない欠点を入れたのではないか。

結局、星宮くんは「面白い人」になれるのか
結論として、星宮くんの存在自体は長谷川町子が生きていても許された可能性がある。
ただし、「39年ぶりの新キャラ登場!」という宣伝文句には、本人は冷めた顔をしたかもしれない。
サザエさんで重要なのは新キャラが出ることではない。
普通の人間の、どうでもいい見栄、嫉妬、勘違い、失敗を笑いに変えることだ。
星宮くんが今後その役割を担えるなら、本当の意味でサザエさんの住人になれる。
逆に、ただの「カツオより優秀なイケメン枠」で終わるなら、39年ぶりだろうが何だろうが大した話ではない。
国民的アニメだから新キャラがニュースになる。
しかし長谷川町子なら、おそらくもっと単純に見る。
「で、この人は面白いの?」
最後に問われるのは、たぶんそこなのである。
【編集者が思うこと】
星宮くん、悪いキャラではない。でも、どこか「長谷川町子ISMの外から連れてきた優等生」に見える。
オフィシャルサイトのキャラ紹介にまだいないのも、単なる更新待ちなのか、それとも町子先生への敬意なのか。無理に本流へ入れず、少し距離を置くくらいが丁度いい気もする。
