「家族にも言えない仕事」は本当にある? 公安・国家情報局・特殊部隊の“秘密”を調べた

「家族にも言えない仕事」は本当にある? 公安・国家情報局・特殊部隊の“秘密”を調べた

スパイ映画を見て、一度くらい思ったことはないだろうか。

「俺も表向きは普通の会社員。しかし本当の仕事は国家機密――そんな人生、ないのか?」

残念ながら、黒いスーツの男が突然やって来て「君をスカウトしたい」と言う世界は確認できなかった。しかし調べてみると、もっと妙な現実があった。日本には、本当に家族へ仕事の中身を話せない人たちがいる。しかも一部は、現在も普通に採用募集しているのである。

公安警察は、本当に妻にも言わないことがある

まず映画に最も近かったのが公安警察だ。元警視庁公安部の勝丸円覚氏はJ-WAVEの取材で、公安への配属時は「基本的に家族に言わない」と証言している。法律で一律に家族への告知を禁じているという話ではなく、本人によれば一種の「暗黙の了解」だという。

ここで面白いのは、職業全部を偽るわけではない点だ。妻は夫が警察官であることを知っている。しかし、警察のどこで何をしているのか、その解像度が突然落ちる。

つまり映画の「昼はサラリーマン、夜は秘密工作員」と少し違う。

秘密なのは“職業”ではなく、“配属と任務”なのだ。

家族に仕事の詳細を話せない警察官を象徴した劇画風イメージAI生成によるイメージです。実在の公安警察官、警察施設、制服・装備を再現したものではありません。

ところが「公安調査官」は家族に普通に言う人もいる

名前だけなら、さらに怪しいのが公安調査庁である。

ところが現役公安調査官への取材では、「家族や子どもにも公安調査官だと隠していない」という回答がある。一方で、家族や恋人にも素性を明かさない調査官もいるという。

つまり「公安」という二文字だけで秘密レベルを判断すると外す。

公安調査庁そのものは所在地も採用情報も公開され、2026年度には高卒者、大卒程度の一般職採用情報まで出ている。秘密基地の地下三階へ拉致されて採用されるわけではない。

普通に募集している。

2026年、日本には本当に「国家情報局」ができた

さらに名前の破壊力がすごい。

2026年7月31日、従来の内閣情報調査室が発展的に解消され、内閣官房に「国家情報局」が設置された。分析部、国内部、国際第一部・第二部、経済部などを持つ、政府のインテリジェンス機関である。

こんな名前を聞けば、昭和の少年なら「入った瞬間、戸籍から消されるのでは」と妄想したくなる。

ところが現実には逆だ。

2026年9月28日には大学生・大学院生向けに「国家情報局の仕事体験」が開かれ、情報分析体験プログラムまで実施された。採用窓口の住所も電話番号も公開されている。

防衛省情報本部も同様で、公式サイトには「インテリジェンスを仕事にしよう!」という業務説明会が掲載されている。国家公務員一般職の大卒・高卒程度や防衛省専門職員から入るルートが存在する。

映画的な秘密工作員のイメージと官庁の採用説明会を対比した劇画風イラストAI生成によるイメージです。上部は映画的な秘密工作員像を誇張した表現で、実在する国家情報局・防衛省の任務や施設を再現したものではありません。

「秘密度」を5段階にすると妙なことが見えてくる

ここまで調べると、秘密の仕事は一種類ではない。

レベル1:勤務先まで公開――国立印刷局など。
レベル2:勤務先は言えるが内部情報は話せない――情報機関の多く。
レベル3:所属部署や担当を家族にも積極的に話さない――公安警察の一部。
レベル4:本人の身元そのものを外部から守る――特殊作戦群など。
レベル5:「その仕事をしている事実」自体が一定期間伏せられる――共通テスト問題作成委員など。

特殊作戦群については、部隊の存在自体は陸上自衛隊が公開している。一方、創設に関わった元陸将・山下裕貴氏は、隊員本人だけでなく家族が標的になる恐れもあるため、隊員の身分を隠していると説明している。ただし、これは「隊員が家族にも所属を隠す」という意味ではない。

意外な大物が大学入学共通テストの問題作成委員だ。大学入試センターは、委員氏名を含む作問情報を厳重に管理し、退任後も職務上知った情報には守秘を求めている。委員だった事実も、離任後一定期間を経てから官報で公表される。

スパイ映画ではない。しかし考えてみれば、大学などで教育・研究に携わる人が普段の仕事を続けながら、全国の受験生が解く問題作成に関わっている。なかなかの極秘任務である。

ただし、大学入試センターの公開資料で確認できるのは、委員氏名などの問題作成情報を厳重に管理し、職務上知った情報を退任後も秘匿することまでである。「家族にも委員就任を知らせてはいけない」とするルールまでは確認できない。

紙幣工場とミッキーは、思ったほど秘密ではなかった

逆に期待を裏切ったのが紙幣工場だ。

国立印刷局は2026年現在、採用情報を公開しているうえ、東京工場などでは一般向け工場見学を実施。東京工場では、ガラス越しながら実際にお札を印刷する作業場まで見られる。

当然、セキュリティ上公開されない情報はある。しかし「紙幣を刷る仕事だから勤務先まで家族に秘密」というイメージは違う。

東京ディズニーリゾートでは、2026年のエンターテイナー募集で「キャラクター」という出演職種が公式に設けられていた。一方で、「特定キャラクターを誰が演じているかを家族にも絶対言ってはいけない」という有名な話については、今回確認した公式公開資料では裏付けられなかった。

覆面プロレスラーも同じだ。2025年に正体を明かしたタイガー・クイーン=VENYは、活動当時について正体が関係者にも極秘だったと語っている。ただし、家族にまで伏せていたかは別問題である。

紙幣印刷工場をガラス越しに見学する人々を描いた劇画風イメージAI生成による工場見学のイメージです。国立印刷局の実際の設備配置、印刷機、紙幣デザインを再現したものではありません。

映画の世界に憧れているなら、まだ諦めるな

ここで若い読者には、少し昭和の少年雑誌みたいなことを言いたい。

君はまだ遅くない。秘密任務の入口は、意外にも公開されている。

もちろん「国家情報局に入ればジェームズ・ボンドになれる」などとは言わない。実際の情報機関は、映画の銃撃戦よりも情報収集、語学、分析、通信、サイバー、文章作成など地味で高度な仕事の積み重ねだろう。

だが、公安調査庁は採用する。国家情報局も採用する。防衛省情報本部も採用する。警察にも採用試験がある。

しかも警察庁には高卒程度の採用区分や中途採用もあり、防衛省情報本部にも高卒程度を含む採用ルートがある。ただし、警察の採用試験に合格したからといって公安部門への配属が保証されるわけではない。映画のような世界へ行く方法が「謎のスカウトを待つこと」ではなく、人事院や官庁の採用ページを見ることだったというのは、何とも現実的で、そして妙にワクワクする話ではないか。

【編集者が思うこと】

俺は最初、「公安とか紙幣工場の人って、家で何の仕事をしていることになってるんだ?」という単純な疑問だった。

ところが調べてみると、秘密の仕事ほど全部を秘密にしているわけじゃない。国家情報局なんて名前は完全に昭和のスパイ映画なのに、採用ページがあって仕事体験までやっている。逆に、共通テストの問題作成委員は氏名まで厳重に管理される。こっちのほうがよほど意外だった。

そして若い頃、「ああいう仕事は特殊な人間だけの世界だ」と最初から諦めた人もいると思う。でも入口を調べもしないで諦めるのは、ちょっと早い。映画とは違っても、情報を集め、分析し、国を守る仕事は本当に存在する。憧れているなら、一度くらい採用ページを開いてから諦めても遅くない。

参考資料

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