「こんなに優しくしたのに」は通用しない――恋愛に“親切ポイントカード”は存在しない

「いい人なんだけど」で止まる人は、何を取り違えているのか

恋愛でよくあるのが、「こんなに優しくしたのに、なぜ報われないのか」という不満だ。食事をおごった。夜中まで相談に乗った。送り迎えもした。誕生日も覚えていた。それなのに返ってきたのは、「いい人なんだけどね」という、やけに聞き覚えのある一言だったりする。

このとき多くの人は、自分の優しさが足りなかったのではなく、むしろ優しさが足りすぎたのだと思いがちだ。だが、そこに少し誤解がある。恋愛で損をしやすいのは、優しい人そのものではない。親切を積み上げれば、好意が返ってくるはずだと考えてしまう人である。

人は「返してほしい生き物」だが、恋愛はそこがややこしい

人間には、親切に対して何かを返したくなる性質がある。いわゆる返報性だ。だから「これだけやったのに」と感じること自体は、別に異常でも性格の悪さでもない。人間の脳は、貸し借りや損得にかなり敏感にできている。世話をしたら覚えているし、相手が何も返さなければ不公平にも感じる。ここまでは、ごく普通の人間のサガだ。

ただし恋愛は、コンビニのポイント制度ではない。研究でも、親密な関係は「与えたから返せ」という交換型より、「相手に必要だからする」という共同体型でうまく回りやすいとされる。つまり、優しさにレシートを付け始めた瞬間、恋愛は急にぎこちなくなる。相手は恋人候補として見られているのではなく、未回収の債権の相手として扱われている気配を感じるからだ。

お礼は返っても、好意は返済されない

ここでさらに厄介なのは、親切がまったく無意味という話ではないことだ。親切にされれば、相手は感謝するかもしれない。お礼を言うかもしれない。食事を返してくれるかもしれない。連絡頻度が増えることもある。だが、それは必ずしも恋愛感情の発生を意味しない。返ってきた反応が、感謝なのか、義理なのか、好意なのかは、見た目だけでは案外わからない。

このズレが、「脈ありだと思ったのに違った」という事故を生む。本人は“関係が進んでいる”と思っているが、相手は“親切にしてくれる人だから失礼のないように返している”だけ、ということがある。お礼は返ってくる。しかし恋愛感情は、借金の返済のようには返ってこない。ここを取り違えると、親切はいつの間にか善意ではなく請求書になる。

「何でもいいよ」が優しさではなくなる瞬間

もう一つ、いい人が損をしやすい理由がある。それは、優しさと自己消去を混同してしまうことだ。嫌われたくない。波風を立てたくない。断って気まずくなりたくない。そうして「どこでもいいよ」「君に合わせるよ」「俺は大丈夫」を繰り返していくと、たしかに摩擦は減る。しかしその一方で、相手には意思のない人、本音の見えない人にも映りやすい。

恋愛で求められるのは、やさしさだけではない。安心感と同時に、その人自身の輪郭も必要になる。自分の希望も言わず、不満も出さず、ひたすら相手に合わせる人は、親切というより“都合のいい人”へと滑っていく。優しい人が魅力を失うのではなく、自分を消した人が存在感を失うのである。

恋愛で効く優しさと、空回りする優しさの違い

結局のところ、恋愛で効く優しさは、見返りの請求を前提にしていない。相手のために動きつつも、自分の意思や境界線は残っている。逆に空回りする優しさは、「これだけしたのだから、そろそろ報われてもいいはずだ」という無言の契約を内蔵している。前者は関係を育てるが、後者は関係を採点表にしてしまう。

「こんなに優しくしたのに」が苦く響くのは、その言葉の中に、人間の本能が丸出しになっているからだ。与えれば返ってきてほしい。損はしたくない。努力は報われてほしい。どれも自然な感情だ。だが恋愛は、そこだけは妙に不公平で、妙に不合理だ。親切は人間関係を温める。だが、親切だけで相手の心を“交換”することはできない。恋愛に“親切ポイントカード”が存在しない理由は、そこにある。

【編集者が思うこと】

これ、男でも女でも同じだと思うんですよ。人はどうしても「これだけ尽くしたんだから、何か返ってきて当然だろ」と思ってしまう。でも恋愛って、そこが一番ケチくさい発想を嫌う。優しいのは大事だが、その優しさに値札を付けた瞬間、もう別の商売になってる。報われない原因は、優しさ不足じゃなくて、“回収モード”に入ってることなのかもしれませんね。

参考資料

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