2007年に登場したR35 NISSAN GT-Rを見て、「これはスカイラインGT-Rではない」と感じた人は少なくなかった。実際、その通りである。R35にはスカイラインの名前がなく、RB26DETTも6速MTもない。車体もスカイラインから派生したものではなく、GT-R専用に設計された。
では、スカイラインではないR35は、本当にGT-Rなのか。歴代GT-Rをさかのぼると、この疑問はむしろ「GT-Rとは何なのか」を考え直す話になる。
スカイラインGT-Rを追う・全5回
GT-Rは一直線に進化したクルマではありません。誕生、消滅、復活、神格化、そしてスカイラインからの独立まで、5つの視点からその歴史を検証します。
- 第1回: スカイラインGT-Rは、なぜ“伝説”になったのか?――実は16年間も存在しなかった名車
- 第2回: R32 GT-Rは、なぜ伝説になったのか?――レースで勝つために作られた名車
- 第3回: R33 GT-Rはなぜ不人気扱いされ、R34 GT-Rは神格化されたのか?
- 完結編: R35 GT-Rは、本当にGT-Rなのか?――スカイラインを捨てた理由を検証
- 番外編: GT-Rが消えた16年間、スカイラインは何をしていたのか?――R30「4気筒RS」からR32復活まで 公開予定
R34が終わる前から、次のGT-Rは「NISSAN」だった
重要なのは、R35がR34終了後に突然スカイラインを捨てたわけではないことだ。2001年の東京モーターショーで日産が公開した次世代モデルは、すでに「NISSAN GT-R Concept」を名乗っていた。当時まだR34 GT-Rは販売中である。
さらに2005年のGT-R PROTOでは、日産は次期GT-Rを歴代で初めてセダン派生ではない専用ボディとして設計すると説明した。その一方、丸型4灯テールなどには過去のGT-Rとのつながりを残した。スカイラインとの構造的な関係は切る。しかしGT-Rの歴史までは切らない。最初から、その方向だった。
R34スカイラインGT-RからNISSAN GT-Rへ独立していく流れを表現したAI生成イメージ。中央の車両は2001年GT-R Concept/2005年GT-R PROTOの実車を忠実に再現したものではありません。
RB26もMTも捨てた。それでも「GT-R」なのか
R34までのGT-Rを知る人ほど、R35には違和感があっただろう。R34は2.6L直6ツインターボのRB26DETTと6速MT。対してR35は3.8L V6ツインターボのVR38DETTと6速デュアルクラッチを採用し、トランスミッションを後方へ置く独自の4WDパッケージまで導入した。
ただし、ここで「RB26だからGT-R」「4WDだからGT-R」と定義すると困ったことになる。初代ハコスカGT-RはS20型2.0L直6自然吸気で、4WDでもない。RB26、ツインターボ、ATTESA、MTは“ある時代のGT-Rらしさ”ではあっても、GT-R全世代に共通する条件ではない。
S20、RB26DETT、VR38DETTという歴代GT-Rのエンジン変化を象徴的に表現したAI生成イメージ。実際のエンジン構造や補機配置を正確に再現した技術図ではありません。
R35が作り直したのは「GT」と「R」の意味だった
初代GT-Rはツーリングカーレースを強く意識した高性能車として誕生し、R32はグループAで勝つために作り込まれた。しかしR35では、市販車とレーシングカーの関係そのものが変わった。SUPER GT仕様は市販VR38とは異なるエンジンを使い、GT3仕様も競技規則に合わせてFR化されている。
その代わり市販R35が狙ったのは、「誰でも、どこでも、どんな時でも」高性能を楽しめるスーパーカーだった。4人が乗れ、荷物も積め、雨でも高速道路でもサーキットでも速い。R35は「Racing」だけを尖らせたのではなく、「Grand Tourer」と「Racing」を同時に成立させようとしたGT-Rだった。
サーキット、高速道路、雨天路という異なる環境でのR35 GT-Rの性能を一枚にまとめたAI生成イメージ。
スカイラインから独立し、GT-Rは世界へ出た
R35は最初から世界販売を前提とし、GT-Rをスカイラインの最上級グレードではなく、NISSANブランドそのものを象徴するモデルへ押し上げた。ニュルブルクリンクで性能を磨き、SUPER GTやGT3でも結果を残しながら、2007年から2025年まで約18年間にわたって改良を続けた。
そして2025年8月、R35は生産を終了した。約4万8000台が生産され、現在は再び新車として販売される現行GT-Rが存在しない期間に入っている。日産は「永遠の別れではない」としているものの、具体的な次期GT-Rはまだ確定していない。
R35はスカイラインGT-Rではない。しかし、GT-Rという名前をスカイラインという車種から独立させ、その時代の日産が考える最高性能車として作り直したクルマだった。そう考えると、R35はGT-Rから外れた存在というより、「GT-Rとは何か」を最も大胆に問い直した世代だったと言える。
歴代GT-Rの系譜と、R35生産終了後の“空白”を表現したAI生成イメージ。右奥の道路と光は特定の次期GT-Rを示すものではありません。
【編集者が思うこと】
俺もGT-Rと言われたら、やっぱりR32とかR34の直6、MT、あの形を思い浮かべるんですよ。だからR35が出た時は「これGT-Rなのか?」という気持ちは分かる。でもハコスカまで戻ると、RB26も4WDもないんですよね。そうなるとGT-Rって部品の名前じゃない。日産がその時代に本気で作った、実用性も捨てない最強クラスのクルマ、という考え方の方がしっくりくる。R35はスカイラインを捨てたというより、GT-Rをスカイラインから独立させた。俺は今なら、そう見ます。
