「夫には出世してほしい」
そう願う妻は少なくない。
課長、部長、管理職。
名刺に立派な肩書が付けば、収入も増える。周囲にも「うちの主人は部長なの」と言える。子供だって「お父さんは会社で偉い」と少し誇らしい。
だが、その肩書を実際に背負って会社へ行くのは誰なのか。
旦那である。
本人に強い出世欲があり、仕事も管理職向きなら何の問題もない。
問題なのは、本人が「別に偉くなりたくない」と思っているのに、家族が後ろから出世レースへ押し込む場合だ。
管理職になれば給料だけが増えるわけではない。
部下のミス、上司からの数字、取引先からの苦情、人間関係、会議、評価、責任。
平社員なら「すみません」で済んだ問題に、今度は自分が頭を下げる側になる。
しかも最悪なのは、
「給料が少し増えたんだからいいじゃない」
と家族から言われることだ。
いや、その数万円のために毎日胃を痛めているかもしれない。
家族に必要なのは、本当に「部長の旦那」なのだろうか。
それとも、
普通に働き、普通に給料を持って帰り、休日には家にいて、機嫌よく飯を食っている旦那なのだろうか。
ここを間違えてはいけない。
家族のステータス欲を満たすために父親を出世させ、本人が疲弊して毎日不機嫌になったら、何のための出世なのか分からない。
高級車を買えても、旅行へ行けても、旦那が会社のことばかり考えている家庭が豊かだとは限らない。
むしろ家族がやるべきなのは、
「もっと偉くなれ」ではなく、「無理して偉くならなくていい」と言ってやることではないか。
仕事が得意ではない人間なら、なおさらである。
適性以上の役職へ押し上げることは、本人のためにも会社のためにもならない。
出世しなくてもいい。
ほどほどに働く。
大失敗をしない。
クビにならない。
給料を持って帰る。
そして仕事が終わったら会社のことを忘れる。
これも立派な会社員人生である。
世間に自慢できる肩書より、
家の中で穏やかに暮らせる父親の方が、家族にとってはよほど価値がある。
「うちの旦那は部長です」
そんな一言のために、本人へ十年分のストレスを背負わせる必要などない。
旦那を本当に大切にするなら、出世を求める前に、まず会社から無事に帰ってこられる働き方を認めてやれ。