伊東市のメガソーラーは結局どうなった? 反対運動から市長が生まれ、計画だけが残った

伊東市のメガソーラーは結局どうなった? 反対運動から市長が生まれ、計画だけが残った

2025年7月31日、当時の伊東市長・田久保真紀氏は、辞職意向を撤回した会見で伊豆高原メガソーラー計画について「水面下で激しく動いている」と発言し、自身が計画阻止に取り組む姿勢を改めて示した。

ところが伊東市が同年10月27日に公表した公式説明は、ずいぶん温度が違う。事業者は開発に必要な許可をすべて取得しておらず、工事の進捗は見られず、近年は事業者から市への連絡もないというのである。

では、あれほど騒がれ、政治家まで生み出した伊東市のメガソーラーとは、結局何だったのか。田久保氏が市長になるための「カマセ」にされたのか。時系列を戻してみると、そんな単純な話ではなかった。

そもそもメガソーラー問題自体は「本物」だった

計画地は伊東市八幡野の伊豆高原。2017年の伊東市議会決議では、約50ヘクタールに及ぶ林地開発を伴う巨大太陽光発電計画として扱われている。市議会は土砂災害、海洋環境、景観などへの影響を懸念し、建設反対を全会一致で決議した。当時、反対署名は複数団体合計で約2万5000筆に達していた。

さらに2018年には市が太陽光発電設備に関する条例を施行。事業者が市長の同意を得ず造成などに着手したとして、市は中止と災害防止措置を勧告し、従わなかった事業者名まで公表している。

つまり「後から政治家が作った騒動」ではない。住民、市議会、市役所、県、国、事業者、裁判所まで巻き込んだ、実在する大型開発問題だった。

伊豆高原メガソーラー問題が住民運動や市議会、行政手続きへ広がる様子を描いたイメージAI生成による解説イメージです。実際の計画地・人物・市議会・工事状況を再現したものではありません。

では誰がメガソーラーを止めたのか

ここが妙なところだ。

田久保氏が伊東市議に初当選したのは2019年。それより前の2017年には市議会が全会一致で反対決議を出し、2018年には市が条例を施行している。さらに田久保氏の市議初当選より前、2019年2月13日には河川占用を不許可とし、その後は裁判にも発展した。

市の公式年表を見ると、行政側は一方ですべてを拒否していたわけでもない。県の林地開発許可、市の宅地造成関係の許可が出た時期もある。その一方で太陽光条例違反への対応や河川占用不許可も行われた。

昭和の怪獣映画なら「市長が巨大メガソーラーを一撃で撃退」と描けば簡単なのだが、現実の行政はそんなに分かりやすくない。複数の許認可と条例と裁判が絡み、結果として事業が動けなくなっていったのである。

メガソーラーは田久保氏の政治キャリアと深く結び付いた

一方で、田久保氏とメガソーラー問題の関係が薄かったわけでもない。田久保氏は反対運動に関わり、「伊豆高原メガソーラー訴訟を支援する会」の代表も務めた。同会によれば、市長就任直前の2025年5月27日に代表が交代している。

2019年に市議初当選、2023年に再選。そして2025年5月25日の市長選では、現職の小野達也氏を1万4684票対1万2902票、1782票差で破った。

だから、メガソーラー反対運動が田久保氏の政治家としての重要な原点だったと見ることには相応の根拠がある。

メガソーラー反対運動と新図書館問題が市長選へ合流する構図を描いたイメージAI生成による解説イメージです。実際の選挙会場・人物・市庁舎・図書館計画を再現したものではありません。

ただし「メガソーラーで市長になった」は話を盛りすぎる

2025年の市長選を報じた地元メディアを見ると、前面に出ていた争点は新図書館建設計画の中止だった。田久保氏自身もメガソーラー白紙撤回を掲げていたが、「メガソーラー一本で市長になった」と整理するのは正確ではない。

整理すると、メガソーラー問題が田久保氏を政治の世界へ押し上げた一因となり、その後の市政批判や図書館問題などを含む選挙で市長になった、という方が実態に近い。

ここを一緒くたにすると、「巨大開発と戦った人が、そのまま市長になった」という分かりやすすぎる物語が出来上がってしまう。

ではメガソーラーは「市長になるためのカマセ」だったのか?

調べる前は、この可能性も疑った。しかし資料を追う限り、メガソーラー問題そのものが選挙用に作られたと判断できる根拠はない。田久保氏が政治家になる以前から住民運動も議会の反対決議も行政対応も始まっているからだ。

ただし別の問題はある。

2025年7月、田久保氏は自身が市長職を続ける理由の一つとしてメガソーラーを挙げ、「水面下で激しく動いている」と説明した。しかし市幹部から説明を求められ、その表現は後に訂正された。さらに当時すでに市の担当部署は、工事自体に進展が見られない状態を把握していた。

したがって、確認できる事実から言えるのはここまでだ。メガソーラーは架空の危機ではなかった。しかし「自分がいなければ止められない問題」だったのかは別問題である。

そして田久保氏がいなくなっても、反対は消えなかった

この点が一番重要かもしれない。

田久保氏はその後、2025年10月31日に市議会で2度目の不信任決議が可決されたことにより失職し、同年12月14日の市長選に立候補したが4131票で落選。杉本憲也氏が1万3522票で新市長となった。

ところが同選挙でもメガソーラー問題は候補者アンケートの対象となり、杉本氏を含む複数の候補が反対を表明している。伊東市公式サイトも、大規模太陽光開発に反対する方針を掲載している。

そして2026年現在も、計画が正式に白紙撤回されたことは確認できない。伊東市が2025年10月に公表した情報では、工事の進捗は見られず、近年は事業者からの連絡もない。さらに伊豆高原メガソーラー訴訟を支援する会によれば、住民側は第二回宅地造成変更許可の取消しを求める訴訟を続けており、同会も支援を継続している。

停止状態のメガソーラー計画を許認可や裁判関係の書類とともに描いたイメージAI生成による解説イメージです。実際の計画地・庁舎・裁判所・人物・工事状況を再現したものではありません。

結局、この事件の妙なところはそこだ。

政治家は入れ替わった。市長選も二度行われた。それでもメガソーラー問題だけは、完成も撤回もせず残っている。

【編集者が思うこと】

俺が一番引っかかったのは、「田久保氏がメガソーラーを止めた」か「全部、市長になるためのカマセだった」かという二択にすると、どちらも違ってしまうことだ。資料を追えば、その前から住民が動き、市議会が反対し、市役所が条例を作り、行政処分と裁判が積み重なっている。つまり主役は一人ではない。伊東市民が10年近く関わってきた問題を、一人の政治家の英雄物語や選挙物語だけに縮めてしまう方が、よほど雑ではないかと思う。

参考資料

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