知らない楽しみは、知らないままで幸せなのか?――50代の好奇心はもう手遅れ?【完結編】

知らない楽しみは、知らないままで幸せなのか?――50代の好奇心はもう手遅れ?【完結編】

「もう50歳だし、今さら新しいことを覚えてもなあ」。こんな台詞を聞くことがある。

まあ、好きにすればいい。知らなくても腹は減るし、テレビも面白い。世の中には、知らないほうが幸せなことだってある。

しかし、妙な疑問が残る。自分が知らない楽しみについて、どうやって「必要ない」と判断できるのだろう。

しかも、年を取れば好奇心も衰えるという話、本当にそうなのか。

調べてみると、2025年の心理学研究に、40代・50代には少々耳の痛い、しかし希望もある結果が見つかった。

中年になると好奇心が消える? 1,218人を調べたら意外な結果

2025年5月7日、学術誌『PLOS ONE』に、米国の20~84歳の成人1,218人を分析した研究が発表された。

研究者たちは、好奇心を二つに分けて調べている。

一つは、普段から新しいことを知りたがる「特性的好奇心」。もう一つは、目の前に面白そうな疑問が現れたとき、その答えを知りたくなる「状態的好奇心」だ。

参加者には好奇心に関する質問票に回答してもらい、さらに歴史、科学、動物などの雑学問題を63問提示した。答えをどれほど知りたいかも評価させている。

すると、年齢との相関係数は次のようになった。

好奇心の種類 年齢との相関 確認された傾向
特性的好奇心 -0.18 年齢が高いほど低い傾向
状態的好奇心 +0.16 年齢が高いほど高い傾向

この数字は減少率や増加率ではない。二つの指標が年齢に対して逆方向の関連を示した、という意味だ。

さらに探索的な分析では、具体的な問題に対する好奇心は中年期に低くなり、その後の高年齢層で再び高くなる曲線も見られた。

ただし、これは事前に予定された主要分析ではなく、追加で調べた結果。研究者自身も再検証が必要としている。

年齢とともに何でも知りたがる気持ちは弱まっても、具体的に興味を引かれたときの「知りたい!」まで衰えるとは限らない。

なお、この研究は同じ人を何十年も追跡したものではない。米国のオンライン調査であり、日本人の40代・50代が必ず同じ変化を経験するとは断定できない。


50代男性が古い車の資料を調べ、車体の図面や歴史へ好奇心を広げているイメージ
※AI生成のイメージ。特定の車種や実際の研究場面を再現したものではありません。

好奇心には「知らないことを知る」という奇妙な仕組みがある

では、なぜ興味のある話だけ急に面白くなるのか。

1994年、心理学者ジョージ・ローウェンスタインは「情報ギャップ理論」を提示した。自分の知識に足りない部分があると気づくことで、その隙間を埋めたくなるという考え方だ。

例えば、昭和の旧車について何も知らなければ、ただの古い車で終わる。しかし「この車は後輪まで曲がる」と聞いた途端、「なぜ?」「どうやって?」という疑問が生まれる。

知識が一つ増えると、知らない部分まで見えてくる。そこに次の好奇心が発生するわけだ。

もっとも、初めて見るものへの興味まで、この理論だけで説明できるわけではない。まったく知らないものが突然面白く感じられることもある。

ここで最初の疑問に戻る。

知らない楽しみがあることと、今の生活に満足していることは、別に矛盾しない。

だが、自分に合った楽しみかどうかは、一度その入口を覗いてみないと分からないこともある。

60代でも学び直せる。ただし「脳が若返る」は話が早い

それなら、50代からでも新しいことを覚えられるのか。

米カリフォルニア大学リバーサイド校などの研究では、高齢者がスペイン語、絵画、写真、音楽制作など、三つ以上の新しい技能を並行して学ぶ実験が行われた。

2019年にオンライン公開され、2023年に解析処理の誤りを修正して差し替えられた論文では、学習参加者6人の第1研究と27人の第2研究について報告している。認知機能の測定では改善が見られた。

さらに2023年の追跡研究でも、一部の認知機能について1年後まで改善が確認された。

ただし、参加人数は少なく、対照群の設定にも限界がある。誰でも同じ効果が得られる、まして認知症を防げると証明したものではない。

そして、見逃せない数字がある。

第1研究では、週15時間程度、15週間にわたって新しい技能を学ぶ取り組みだった。

単純計算なら15時間×15週間=約225時間。しかし、論文に記録された実際の学習時間は、授業が週平均約6.10時間、授業外の課題が約8.18時間。合わせて週約14.28時間だった。

この実測平均から計算し直すと、14.28時間×15週間=約214時間になる。

毎日10分間なら、同じ214時間を確保するのに約1,285日。約3年6か月かかる計算だ。

もちろん、学習時間が同じなら効果も同じという意味ではない。

しかし、「年を取っても脳は若返る!」という景気のいい見出しだけでは、この相当な学習量は伝わらない。

年齢だけで学習を諦める根拠はない。ただし、努力なしに何でも身につくという話でもない。


60代前後の成人たちが学習室で絵画、写真撮影、ノート学習、パソコンを使った学習に取り組むイメージ
※AI生成のイメージ。実際の研究参加者や学習施設を再現したものではありません。

知りたがりも考えもの? 好奇心が人を困らせる実験

さて、ここまで読むと「やっぱり好奇心は素晴らしい」と言いたくなる。しかし、そう単純でもない。

2016年、米国の研究者たちは「パンドラ効果」と呼ぶ現象を調べた。

結果が分からない物事に直面すると、人は不快な結果になる可能性を予想していても、確かめたい衝動に負けることがあるという。

研究では、押すと電気刺激を受ける可能性があるペンなどを使い、不確実な結果に対して人がどう行動するかを検証。四つの実験を通じて、好奇心が不快な経験へ人を向かわせる場合があると報告した。

つまり、知りたい気持ちは、必ずしも自分の利益になる情報だけに働くわけではない。

これはネットでも思い当たる。怪しい噂、どうでもいい炎上、腹が立つだけのゴシップ。知らなければ平和だったのに、つい最後まで読んでしまう。

もちろん、こうしたネット上の行動が先ほどの実験で直接測定されたわけではない。ここは編集者の例え話だ。

知識には価値がある。しかし、知りたいという衝動のすべてに付き合う必要はない。

知らないままでも幸せ。それでも、一度くらい覗いてみないか

結局、40代・50代になってから、何でも勉強する必要はあるのだろうか。

今回の研究から「全員が学び続けなければ不幸になる」という結論は出ない。

むしろ年齢を重ねるほど、自分にとって意味のある情報を選ぶことも大切なのだろう。

ただ、興味がないと思っていたものでも、少し知った途端に面白くなる場合がある。その可能性まで最初から切り捨てるのは、少々もったいない。

知らないままでも幸せにはなれる。だが、知ったらもっと面白かったかどうかは、知らないままでは分からない。

これが、3回にわたって「知識と人生の面白さ」を調べてきた、今のところの答えである。

【編集者が思うこと】

俺が昔から引っかかっていたのは、勉強が嫌いな人より、「もう新しいことなんか知る必要がない」と決めてしまう人だ。

そりゃ、興味のないものを無理に覚える必要はない。俺だって知らないことだらけだし、どうでもいい話には付き合いたくない。

でも今回、年を取ると好奇心が全部衰えるわけではないという研究を見て、少し嬉しくなった。しかも、好奇心が災いを招く実験まである。人間ってのは、実に面倒くさい。

50を過ぎても、知らないことに出くわして「なんだ、それ?」と思う瞬間がある。そこから調べ始めると、気づけば何時間も経っている。

まあ、そんな時間の使い方を無駄だと思う人もいるだろう。

だが俺は、知らないことがまだ山ほどある人生のほうが、退屈しなくて済みそうだ。

結局、何歳になっても「なんでだ?」と思えるうちは、世の中もそう簡単には飽きさせてくれないのである。

知るほど面白い人生――大人の好奇心・全3回

勉強しないと人生はつまらないのか。旧車が宝物に見える理由、50代からの好奇心。同じ世界なのに人によって面白さが違う謎を、統計・趣味・心理学の3つの視点から追います。

参考資料

  • Whatley, M. C. ほか(2025)「Curiosity across the adult lifespan: Age-related differences in state and trait curiosity」『PLOS ONE』20(5)。原著論文・調査方法・結果
  • Loewenstein, G.(1994)「The Psychology of Curiosity: A Review and Reinterpretation」『Psychological Bulletin』116(1), 75–98。原著論文・全文PDF
  • Leanos, S. ほか(2023)「The Impact of Learning Multiple Real-World Skills on Cognitive Abilities and Functional Independence in Healthy Older Adults」『The Journals of Gerontology: Series B』78(8), 1305–1317。2019年公開論文の解析を修正した差し替え版。訂正版原著論文
  • 『The Journals of Gerontology: Series B』(2023)「Retraction and replacement of: The Impact of Learning Multiple Real-World Skills on Cognitive Abilities and Functional Independence in Healthy Older Adults」。撤回・差し替えの公式通知
  • Ferguson, L. ほか(2023)「One-year cognitive outcomes from a multiple real-world skill learning intervention with older adults」『Aging & Mental Health』27(11), 2134–2143。1年後の追跡研究
  • Hsee, C. K. & Ruan, B.(2016)「The Pandora Effect: The Power and Peril of Curiosity」『Psychological Science』27(5), 659–666。原著論文

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