ロータリーで会社が傾いた!? マツダの「燃費40%改善」は何を意味したのか【第2部】

ロータリーで会社が傾いた!? マツダの「燃費40%改善」は何を意味したのか【第2部】

1973年6月、東洋工業(現マツダ)のロータリーエンジン搭載車は累計生産50万台に到達した。1967年のコスモスポーツ発売から、わずか6年ほどである。

ところが同じ年の秋、第1次オイルショックが発生。燃費の悪さを指摘されていたロータリー車は、北米を中心に販売が急減した。

1975年、東洋工業は大幅な赤字を計上。だが、その年の10月には「燃費40%改善」を掲げたロータリー搭載車を発売し、1978年11月には累計生産100万台を達成している。

会社を経営危機に追い込んだはずのロータリーが、なぜ生き残ったのか? そもそも「燃費40%改善」とは、何をどれだけ改善した数字だったのか?


1970年代初頭のマツダ販売店に並ぶ初代サバンナと同時代の乗用車を描いたイラスト
1970年代初頭、サバンナを中心にロータリー車を展開していたマツダ販売店のイメージ。店舗・看板・周辺車両は当時の実物を忠実に再現したものではなく、年代の異なる意匠も含む。(AI生成イラスト)

コスモスポーツだけではない。ロータリーは大衆車へ広がった

前回紹介したコスモスポーツは、総生産1,176台の少量生産車だった。しかしマツダは、それで終わるつもりなどなかった。

1968年にはファミリアロータリークーペ、1970年にはカペラ、1971年にはサバンナ、1972年には2代目ルーチェへと展開。ロータリーを特別なスポーツカーだけの技術から、量販車の動力源へ広げようとしていた。

なかでもサバンナは強烈だった。1971年9月の発売月に5,406台を受注。1972年には12A型搭載車が登場し、レースではスカイラインGT-Rと激闘を繰り広げた。1976年5月には国内レース通算100勝も達成している。

しかもロータリーの用途は乗用車にとどまらない。1974年には北米向けロータリーピックアップ、国内ではロータリー搭載バス「パークウェイ ロータリー26」まで発売している。

小型で高出力。この長所を、マツダは実に多くの車種で生かそうとしたのだ。

米国EPAが推定した燃費は、約4.7~5.5km/Lだった

しかし、エンジンが小さいことと、ガソリンをあまり使わないことは別問題である。

1974年4月15日、米国環境保護庁(EPA)はロータリー搭載マツダ車の燃費について資料を公表した。1974年型の認証試験では、車重2,750ポンド級のマツダ車が10.7mpg(約4.55km/L)。同じ重量区分の他車は約15~25mpg超で、大きな差があった。

この結果にマツダ側は異議を唱え、EPAは特別試験も実施。その結果などを踏まえ、冷間始動・市街地走行での推定燃費は、エンジンの調整状態によって約11~13mpgと説明した。

米国のmpgをkm/Lへ換算すると、約4.7~5.5km/L。もちろん当時の米国試験条件による数値であり、日本仕様車の実燃費や全ロータリー車の平均ではない。

この数字には背景がある。ロータリーは燃焼室が細長く、燃焼で生まれた熱が壁面へ逃げやすい。さらに当時は排ガス浄化のためにサーマルリアクターを使用し、未燃焼成分を排気系で再燃焼させていた。

排ガスをきれいにする技術と、燃料を節約する技術が、必ずしも同じ方向を向いていなかったのである。

売れなくなっただけではない。在庫が経営を圧迫した

1973年秋の石油危機で原油価格が高騰すると、消費者の関心は動力性能から燃費へ移った。高性能を売りにしたロータリー車には厳しい時代だった。

マツダの公式社史は、北米を中心とする販売急減と在庫の増加が、1975年の大幅な赤字につながったと説明している。

在庫が増えれば、売れない車両にも製造費や保管費がかかり、資金回収も遅れる。東洋工業は減産、資産売却、経費削減に踏み切り、1975年1月には従業員を販売会社へ出向させる「AM派遣」も始めた。

ロータリーの燃費だけが会社を傾けたのではない。燃費に弱点のある車へ商品戦略を大きく傾けたことが、石油危機によって裏目に出たのである。

ただし、1975年の赤字額すべてをロータリー事業単独の損失とみなすことはできない。ここで確認できるのは、ロータリー偏重の戦略と販売・在庫問題が経営危機の重要な要因になったということだ。

フェニックス計画の「40%改善」を計算すると?

東洋工業はロータリーを諦めず、燃費を40%改善する「フェニックス計画」を進めた。

対策は単なるキャブレター調整ではない。エンジン内部の気密性向上、サーマルリアクターの改良、二次空気供給の制御、エンジン本体の効率改善、駆動系の設定変更など、複数の技術を積み重ねた。

そして1975年10月、マツダの公式年表には「燃費を40%改善したロータリーエンジン搭載車を一斉発売」と記録されている。

ただ、ここで引っかかった。燃費が40%良くなることと、ガソリンの使用量が40%減ることは、同じではない。

例えば、従来の燃費を仮に5km/Lとし、同じ条件で燃費距離が40%向上したとする。

項目 改良前 40%向上後
燃費 5.0km/L 7.0km/L
100km走行の燃料 20.0L 約14.3L
1万km走行の燃料 2,000L 約1,429L

この仮定では、1万km走れば約571Lの節約となる。しかし燃料消費量の削減率は40%ではなく、約28.6%だ。

逆に「100km当たりの燃料消費量を40%削減」という意味なら、20Lは12Lになり、燃費は約8.33km/L。こちらはkm/Lで約66.7%の向上になる。

マツダが40%改善車を発売した事実は公式資料で確認できる。しかし、公開年表だけでは比較対象車、測定条件、改善率の算出方法まで特定できない。

上の5km/Lという数字は計算例であって、フェニックス計画の実測値ではない。米EPAの1974年の試験値とも直接つなげてはいない。


1970年代の技術者たちがエンジンと排気系の装置を調査する開発施設のイメージイラスト
1970年代半ば、ロータリーエンジンの燃費改善に取り組む技術開発現場をイメージ。人物・設備・エンジンの外観や補機類は創作を含み、実際の12A・13B型エンジンやフェニックス計画の装置を忠実に再現したものではない。(AI生成イラスト)

大赤字の年に、真っ赤なコスモAPが登場した

そして1975年10月、マツダはコスモAPを発売する。あの低い宇宙船のようなコスモスポーツとは違い、こちらは豪華な2ドアのスペシャリティカーだった。

「AP」はAnti Pollution、公害対策を意味する。ロータリー仕様は排ガス規制への対応と燃費改善を進め、コスモAPは発売後半年弱で累計販売2万台を突破した。

前回のコスモスポーツが生涯で1,176台だったことを考えると、2万台はその約17倍。ただしコスモAPにはレシプロエンジン仕様もあり、この2万台をすべてロータリー車の販売とみなすことはできない。

その後、1978年3月にはロータリーの小型・軽量という特徴を生かした初代サバンナRX-7が登場。同年11月、ロータリー搭載車の累計生産は100万台に達した。


1975年登場の赤いマツダ・コスモAPが昭和の街を走るイメージイラスト
1975年に登場したマツダ・コスモAPをイメージした昭和の街並み。初期型の特徴を参考にした創作画であり、車両の細部や周囲の風景は実際の記録とは異なる。(AI生成イラスト)

ロータリーを救ったのは、エンジン改良だけではなかった

1973年6月の累計50万台から、1978年11月の100万台まで、マツダはさらに50万台のロータリー搭載車を生産したことになる。

ただし累計生産は販売台数や利益ではない。途中の販売不振がなかったことを意味する数字でもない。

それでも、1975年の経営危機がロータリー事業の終わりではなかったことは確かだ。

マツダが変えたのはエンジンだけではない。何にでもロータリーを載せる方向から、コンパクトで高出力という長所が生きる車種へ搭載対象を絞っていった。

燃費改善と商品戦略の転換。この両方があって、ロータリーは生き残ったのである。

【編集者が思うこと】

俺が一番引っかかったのは、「燃費40%改善」という数字だった。

旧車の記事だと、フェニックス計画で40%改善、大成功、めでたしめでたしとなりがちだ。でも40%って、いったい何を基準にしているのか。そこを調べずに数字だけ褒めても仕方がない。

それより妙だと思うのは、会社が経営危機に陥るほどの状況で、ロータリーを諦めなかったことだ。しかも一時期は乗用車どころか、ピックアップやバスにまで載せていたのだから、技術への入れ込みようは相当なものだ。

ただ、最後に生き残った方向は、何にでもロータリーを載せることではなかった。ロータリーでなければ面白くない車を造ることだったんじゃないか。

その象徴が1978年のRX-7だと思う。

次回はコスモAPからユーノスコスモまで。ロータリーが今度は高級車の世界で、どんな夢を見たのかを追いかけたい。

ちょっと分かりにくい用語

サーマルリアクター
排気ガス中に残った一酸化炭素や炭化水素を、追加の空気を使って高温の排気系で再燃焼させる排ガス浄化装置。1970年代のロータリー車の排出ガス対策に使われた。

マツダロータリー 7部作

1967年のコスモスポーツからコスモAP、ユーノスコスモ、RX-7、RX-8、そしてロータリーの復活まで。マツダが挑んだ夢と現実を、開発史、性能比較、販売実績、当時の記録、独自計算から全7部で検証します。

参考資料

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