1967年のコスモスポーツは、わずか1,176台しか生産されなかった2人乗りスポーツカーだった。
ところが1975年、コスモの名は真っ赤な高級クーペとして復活する。1981年には4ドアハードトップまで登場。そして1990年、ユーノスコスモは280PSの3ローターエンジンを積み、最上級仕様の発売時価格は530万円に達した。
しかも、この530万円のクルマには、当時としては驚異的なGPSナビゲーションまで用意されていた。
もともと小型・高性能が売りだったロータリーが、なぜ豪華なGTへ向かったのか? そしてコスモは、いつから高級車になったのか?

1975年登場のマツダ・コスモAPをイメージした昭和の街並み。初期型の車体デザインを参考にしているが、車両の細部や周囲の建物・人物・車両・看板などは創作を含む。(AI生成イラスト)
答えは1990年ではなく、1975年にあった
前回紹介した石油危機の経営危機。その最中、1975年10月に登場したのがコスモAPだった。
マツダ自身が公式車種史で「高級スペシャリティーカー」と位置付けている。つまり、コスモの高級車路線はユーノス時代に突然始まったわけではない。
アメリカ市場を意識した大柄な2ドアボディ、縦線基調のグリル、独特のセンターウインドウ。スポーツカーというより、洒落た大人のパーソナルカーである。
13Bロータリー搭載の1975年型リミテッドは135PS、5人乗りで、当時の価格は179万5,000円。高級装備も充実していた。
それでいてコスモAPは、発売後半年弱で累計販売2万台を突破。前回までのコスモスポーツとは、商品性も販売規模も大きく違っていた。
1977年には屋根にレザー調のランドウトップを採用したコスモLも追加され、高級感をさらに強調する。
コスモという名前は、ここで「ロータリーを積んだ夢のスポーツカー」から「ロータリーも選べる高級スペシャリティカー」へ変わっていた。
ただしコスモAPにはレシプロエンジン仕様も存在する。ロータリー専用の高級車だったわけではない。
1981年、コスモはとうとう4ドアになった
1981年、コスモは再び大きく変わる。ルーチェと基本構成を共有しながら、2ドアハードトップ、4ドアハードトップ、4ドアサルーンの3種類を展開したのだ。
ここでマツダの公式沿革を読み直すと、面白いことが分かる。
| 1981年 | 登場した仕様 |
|---|---|
| 9月 | 2ドアHT・2000ccレシプロ |
| 10月 | 4ドアHT・4ドアサルーン |
| 11月末 | 12Aロータリー搭載車 |
つまり、新型コスモは発売当初から全車ロータリーだったわけではない。4ドアハードトップも、まずレシプロエンジン仕様が発売され、ロータリー仕様は後から加わった。
ハードトップには4灯式のリトラクタブルヘッドライトを採用。低いボンネットと空気抵抗を意識したデザインも特徴だった。
マツダ公表による2ドアハードトップの空気抵抗係数はCd値0.32。ただし、この数値を4ドアの性能として紹介するのは正確ではない。

1981年登場のマツダ・コスモ4ドアハードトップをイメージ。初期HB型の格納式ヘッドライトと4ドアボディを参考にした再現画。装備や車体細部、周囲の風景には創作を含む。(AI生成イラスト)
さらに1982年には世界初の量産ロータリーターボがコスモに登場。12A型は160PSを発生した。
スポーツカーらしい技術を維持しながら、4ドアの高級車としても成立させようとした。1981年型は、コスモという車名の守備範囲を最も広げた世代だったともいえる。
1990年、コスモは再び2ドアに戻った
1990年4月、ユーノス販売店から登場したユーノスコスモは、再び2ドア専用の高級パーソナルクーペになった。
全長4,815mm、全幅1,795mm、全高1,305mm。長いノーズと低い車体に、4人乗りの室内を組み合わせた。
エンジンは2ローターの13B-REWと、量産車として世界初となる3ローターの20B-REW。どちらもシーケンシャルツインターボを備え、変速機は全車4速ATだった。
20Bは654cc×3ローターの計1,962ccで、最高出力280PS、最大トルク41.0kgf・m。1990年当時のマツダが、ロータリーの技術力を高級車で示そうとした象徴的なエンジンである。
では、3ローターに増やしたことで、実際にどれほど性能が変わったのか。
ローターは50%増。でも馬力は約22%増だった
1990年発売時の同じType S同士で比較すると、違いがはっきりする。
| 項目 | 13B Type S | 20B Type S |
|---|---|---|
| ローター数 | 2 | 3 |
| 総排気量 | 1,308cc | 1,962cc |
| 最高出力 | 230PS | 280PS |
| 最大トルク | 30.0kgf・m | 41.0kgf・m |
| 車両重量 | 1,490kg | 1,590kg |
| 10モード燃費 | 6.9km/L | 6.1km/L |
| 1990年発売時価格 | 330万円 | 420万円 |
独自計算では、排気量は50%増えたのに対し、最高出力は約21.7%増、最大トルクは約36.7%増。価格は90万円、約27.3%高くなっていた。
ローターを1個増やせば馬力も1.5倍、とはならない。過給圧やエンジンの設定なども異なるため、単純にローター数だけで性能差を説明することはできない。
一方、1PS当たりの重量は13Bの約6.48kgから20Bの約5.68kgへ改善。重量増100kgを考慮しても、動力性能に余裕を持たせた設計だった。
しかし燃費は逆だ。カタログ値から100km当たりの燃料消費量を計算すると、13Bは約14.49L、20Bは約16.39L。同距離を走る場合、20Bは約13.1%多く燃料を使う計算になる。
これは当時の10モード燃費を使った比較であり、実燃費ではない。それでも、3ローターの性能と引き換えに何を負担したのかは見えてくる。
最高級530万円。その65万円差は何だったのか?
ユーノスコスモの価格で、もう一つ気になるのが最上級の20B Type E CCSだ。
1990年発売時、20B Type Eは465万円。それに対してType E CCSは530万円。差額は65万円、約14.0%にもなる。
CCSとはカーコミュニケーションシステムのこと。GPSを利用するナビゲーションと、オーディオや空調などの操作機能を組み合わせた先進的な車載システムだった。
1981年には、GPSではない方式のカーナビゲーションもすでに存在した。ホンダの「エレクトロ・ジャイロケータ」である。したがってユーノスコスモを単純に「世界初のカーナビ搭載車」と呼ぶのは不正確。マツダが世界初と位置付けたのは、GPSを利用した車載システムである。
また65万円は、装備構成の異なるグレード同士の価格差だ。これをそのままGPSナビ単体の値段と断定することもできない。

1990年登場のユーノスコスモをイメージした高級GTの再現画。20B Type E CCSを題材としているが、外観だけでグレードを特定できるものではなく、車体細部や装備、展示施設は実車・実際の店舗を忠実に再現したものではない。(AI生成イラスト)
内装にも本革や天然木を使い、マツダは単に速いクーペではなく、技術と贅沢さを組み合わせた高級GTを目指していた。
1975年の179万5,000円から、1990年の530万円へ
ここで最初のコスモAPに戻ってみる。
1975年型13Bリミテッドの179万5,000円に対し、1990年の20B Type E CCSは発売時価格530万円。額面上は約2.95倍になる。
ただし15年間の物価変化や装備差を調整しておらず、同じグレード同士の比較でもない。これをコスモの実質価格が約3倍になったという意味に使うことはできない。
むしろ重要なのは、コスモの役割が変化していたことだ。
1975年は、高級クーペとしてロータリーの魅力を広める役割。1981年は、4ドアやレシプロ仕様を含む幅広い高級車への展開。そして1990年は、3ローターと先端装備を組み合わせたロータリー専用の高級パーソナルクーペ。
コスモの高級化は1975年に始まり、1990年には高級車としての独自性を極限まで追求した。単なる値上がりではなく、クルマに与えられた役割そのものが変わっていたのである。
ただし、こうした高級路線が事業としてどれほど利益を生んだかは、車種別の採算資料なしに断定できない。
【編集者が思うこと】
俺が妙だと思ったのは、530万円という値段よりも、1981年にコスモが4ドアになっていたことだ。
あの宇宙船みたいなコスモスポーツの名前が、4ドアの高級車にまで使われている。しかもレシプロもディーゼルも選べるとは、なかなか節操がないようにも見える。
ところが1990年になると、また2ドアに戻して、今度は3ローターで280PS。しかも全車AT。速さだけ欲しいならRX-7があるのに、革張りの室内で豪華に走らせようというのだから、何とも贅沢な話だ。
でも、そこがコスモの面白さなのかもしれない。マツダはこの名前を、単なるロータリースポーツではなく、その時代に造りたい特別なクルマへ与えていたように思う。
それにしても、3ローターで280PS、燃費6.1km/L、価格530万円。バブル期の高級車とはいえ、なかなか豪快である。
次回は、その反対側にいたRX-7。豪華なコスモとは違い、走ることを突き詰めたロータリースポーツの歴史を追っていく。
ちょっと分かりにくい用語
- Cd値
- 自動車が空気を切り裂いて進む際の抵抗の受けやすさを表す係数。数値が小さいほど空気抵抗を受けにくい形状だが、実際の抵抗の大きさは車体前面の面積などにも左右される。
- カーコミュニケーションシステム(CCS)
- ユーノスコスモに設定された先進車載システム。GPSを利用したナビゲーションに加え、オーディオや空調などの操作機能を統合した。
マツダロータリー 7部作
1967年のコスモスポーツからコスモAP、ユーノスコスモ、RX-7、RX-8、そしてロータリーの復活まで。マツダが挑んだ夢と現実を、開発史、性能比較、販売実績、当時の記録、独自計算から全7部で検証します。
- 第1回: たった1,176台の宇宙船!? コスモスポーツが「悪魔の爪痕」に挑んだ理由【第1部】
- 第2回: ロータリーで会社が傾いた!? マツダの「燃費40%改善」は何を意味したのか【第2部】
- 第3回: コスモはいつ高級車になった!? 真っ赤なAPから530万円の3ローターまで【第3部】
- 第4回: 準備中 公開予定
- 第5回: 準備中 公開予定
- 完結編: 準備中 公開予定
- 特別編: 準備中 公開予定
参考資料
- マツダ公式「コスモ(1975年~)」 ― コスモAPの高級車路線、1981年型の空力設計、ユーノスコスモの3ローターとGPS技術
- マツダ公式「沿革(1980年~1989年)」 ― 1981年の車体別発売時期と12A搭載車の追加、1982年のロータリーターボ
- マツダ公式「沿革(1990年~1999年)」 ― 1990年4月のユーノスコスモ発売、足回りとGPSナビゲーション
- マツダ100周年「ユーノスコスモ」 ― 3ローターエンジンと高級パーソナルクーペとしての設計思想
- マツダ100周年・百年史 第8話 ― 1990年代のマツダの高級車開発、内装素材と先進技術
- トヨタ GAZOO「ユーノスコスモ 1990年型カタログ」 ― 13B・20Bの価格、出力、燃費、グレード別比較。発売年の区分はマツダ公式沿革に合わせた
- Nostalgic Hero「1975年式 マツダ コスモAP リミテッド」 ― 13B型の性能、装備、発売当時価格179万5,000円
- Honda公式「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ」 ― 1981年に実用化されたGPSを使用しないカーナビゲーションシステム
