会社は脱炭素、役員は私用ジェット? SDGs時代の「言行一致」を調べた

Corporate Climate Pledges, Private Jets: Do Executives Practice What They Preach?

会社ではSDGs、脱炭素、環境への配慮。社員には節電や経費削減が求められる時代だ。では、立派な環境理念を掲げる企業のトップは、私生活でも同じように行動しているのだろうか。

米国企業の株主向け資料を調べると、意外な数字が見つかった。Appleの前CEO、ティム・クック氏の2025年度における私的な航空機利用に伴う会社負担の追加費用は約79万ドル。Metaのマーク・ザッカーバーグCEOは、2025年に約247万ドルだった。

環境対策を進める企業のトップが、私用でもプライベート航空機を利用している。ただし、そこには警備上の理由もあり、単純に「偽善」とは決めつけられない。

SDGsは企業に浸透した。では経営者自身は?

帝国データバンクが2026年7月23日に公表した調査によると、SDGsに前向きな日本企業は52.6%。すでに実践している企業は30.3%だった。

SDGsは環境だけでなく、労働、貧困、教育なども含む17の目標だ。とはいえ、環境対策は企業が社会的責任をアピールする代表的な分野である。

ところが、企業の環境報告書をいくら読んでも、役員が自宅でどれだけ節電しているか、私生活でどんな移動手段を選んでいるかまでは、通常わからない。

企業の環境対策と、経営者個人の生活態度は別々に語られている。 この隔たりが気になった。

AppleとMetaの株主資料にあった「私用ジェット」の費用

Appleは2030年までに事業活動から製品の使用までを含む全体でカーボンニュートラルを目指している。2026年の環境報告書では、温室効果ガス排出量を2015年比で60%以上削減したと説明している。

Metaも2030年までに事業と取引先を含む全体で温室効果ガスのネットゼロを目指す。

一方、両社が米国証券取引委員会(SEC)へ提出した2026年の株主向け資料には、経営トップの私的な航空機利用費用が記載されていた。

企業・対象者 私的航空機利用の費用
Apple
ティム・クック氏
2025年度
789,991ドル
Meta
マーク・ザッカーバーグ氏
2025年
2,467,562ドル

Appleのクック氏は2026年9月にCEOを退任し、現在は会長。上記はCEO在任中の費用だ。Metaでは、ザッカーバーグ氏が所有する航空機を会社がチャーターする取り決めも公表されている。

ただし、Appleでは取締役会が安全確保と業務効率を理由に、クック氏へ公私両方の移動でプライベート航空機の利用を求めていた。Metaも警備上の必要性を説明している。

また、金額には燃料費以外の運航関連費用なども含まれ、両社で算定範囲も異なる。金額の大小だけで環境負荷を比較することはできない。

つまり、航空機の私的利用は確認できたが、個人の環境意識が低いとまでは確認できなかった。



脱炭素の環境目標と経営トップの航空機利用について議論する架空の企業会議
企業の環境目標と経営トップの航空機利用をめぐる判断のイメージ。安全確保や業務効率などの事情も関係する。実際の企業・取締役会を再現したものではない(AI生成イラスト)。

ジェット機1回のCO₂は、家庭の年間排出量の約1.4倍

では、プライベート航空機は実際にどれほどCO₂を排出するのか。

2024年に学術誌『Communications Earth & Environment』に掲載された研究では、2023年のプライベート航空機による直接CO₂排出量は、平均1飛行当たり約3.6トンだった。飛行の47.4%は500km未満という結果も出ている。

一方、環境省が2026年10月22日に公表した2025年度の家庭CO₂統計の速報値では、日本の1世帯が電気・ガス・灯油の使用によって排出するCO₂は年間平均2.51トンだった。

この二つを独自に比較すると、

3.6トン ÷ 2.51トン = 約1.43倍

プライベート航空機の平均的な1飛行だけで、日本の一般家庭が電気・ガス・灯油から1年間に排出するCO₂の約1.4倍に相当する。

ただし、航空機は2023年の世界平均、家庭は2025年度の日本平均という比較だ。家庭側には自家用車などの排出量を含まず、航空機側は燃料燃焼による直接排出量である。また、この数値はAppleやMetaの経営者本人の飛行実績ではない。


プライベート航空機の平均1飛行3.6トンと日本の家庭1世帯年間2.51トンのCO2排出量比較
プライベート航空機の2023年の世界平均1飛行当たりCO₂排出量は約3.6トン。日本の家庭1世帯が電気・ガス・灯油の使用で排出する年間平均は2.51トン(2025年度速報値)。約1.43倍に相当する。家庭側には自家用車を含まず、対象年・算定範囲も異なる。住宅はイメージ、棒の高さは概略表現(出典:Gösslingほか、環境省/AI生成図解)。

偉くなるほど「自分だけは例外」でいいのか

ここで考えたいのは、金持ちが飛行機に乗ることの是非だけではない。

今回調べた2社は、航空機利用の理由として安全確保を挙げており、会社全体で進める環境対策も存在する。経営トップの私的な利用だけを理由に、企業の環境改善まで否定するのは不公平だ。

しかし、だからといって、経営者の行動が無条件に正当化されるわけでもない。

仮に、部下には経費節約や環境配慮を厳しく要求しながら、自分の特別待遇については説明しない上司がいたら、部下は納得できるだろうか。

安全確保に必要な特別待遇なら、その必要性を説明すればいい。削減できない環境負荷があるなら、それも認めればいい。重要なのは、立場によって道徳やルールの適用を都合よく変えないことだ。

環境省は2026年3月、企業による環境表示のガイドラインを改定し、曖昧な環境主張を避け、根拠を示すことを重視した。ただし、役員が航空機を私的に利用するだけで、直ちに不適切な環境表示になるわけではない。

会社として何を達成したか。そして、経営者自身がどんな責任を引き受けているか。この二つは、どちらも問われていいはずだ。

【編集者が思うこと】

昔から気になっていた。会社で偉くなると、なぜか人間としても偉くなったように振る舞う人がいる。給料が上がり、部下が増え、周囲から頭を下げられるうちに、自分の判断は何でも正しいと思ってしまうのだろうか。

今回調べて、プライベート航空機の利用には警備上の事情があることもわかった。だから、金持ちの贅沢を一律に責める気はない。

だが、部下に「会社のため」「社会のため」と説教するなら、自分にも同じ物差しを当ててほしい。都合が悪くなると「私は特別だから」では、そりゃ部下も白ける。

地位が高くなったからといって、人間の価値まで自動的に上がるわけじゃない。むしろ、偉くなった人ほど、自分の欲望と道徳を見直す必要があるんじゃないのか。

金も権力も、持つこと自体が悪いわけじゃない。問題は、それを手にした後でも、自分を律することができるかどうか。結局、人間の品格って、そこに出ると思う。

参考資料

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