マツダのロータリー復活、今度は発電機!? 510PS構想の正体【特別編】

マツダのロータリー復活、今度は発電機!? 510PS構想の正体【特別後編】

2012年6月、マツダRX-8の生産が終了した。コスモスポーツから続いた、ロータリーエンジンを動力とする量産スポーツカーの歴史が、ここで途切れた。

ところが11年後の2023年、ロータリーは「MX-30 Rotary-EV」で量産復活する。ただし、その役目は車輪を回すことではなく、発電機を動かすことだった。

さらに2025年10月29日、マツダは2ローターターボを搭載した「MAZDA VISION X-COUPE」を発表。最高出力は510PSだという。

発電機になったロータリーが、今度は510PSで復活!? しかし調べてみると、この510PSはエンジン単体の出力ではなく、そもそも市販車の数字でもなかった。

何が実際に量産され、何がまだ夢の段階なのか。マツダの発表資料だけでなく、エンジン開発者が書いた技術論文まで調べてみた。

2012年に途絶えたロータリーは、2023年に本当に量産復活した

2023年6月22日、マツダは広島市の宇品第1工場で、欧州向け「MX-30 e-SKYACTIV R-EV」の量産を開始した。2012年6月のRX-8生産終了以来、ロータリー搭載車として約11年ぶりの量産再開である。

これは試作車でも、モーターショー用の展示車でもない。同年9月には日本向けの「MX-30 Rotary-EV」の予約受注も始まり、市販商品としてロータリーが戻ってきた。

ただし、RX-7やRX-8とは仕組みが大きく異なる。

MX-30 Rotary-EVはシリーズ式プラグインハイブリッドを採用。8C型ロータリーエンジンは発電専用で、車輪を駆動するのは常に電気モーターである。

ロータリーエンジンは確かに復活した。しかし、ロータリーの力を直接タイヤへ伝えるスポーツカーが復活したわけではない。

後期型RX-8とMX-30 Rotary-EV、中央のロータリー展示ユニットを並べた架空の比較展示イメージAI生成イラスト。実在の展示会場や展示写真ではなく、RX-8の駆動用ロータリーとMX-30 Rotary-EVの発電用ロータリーの違いを説明するための比較イメージです。

発電用ロータリーは約72PS。でもクルマを走らせるのは約170PS

ここで、妙な数字が出てくる。

MX-30 Rotary-EVに搭載された8C型は、830ccの1ローター。最高出力は53kW、約72PSしかない。

一方、走行用モーターは125kW、約170PSを発揮する。なぜ発電用エンジンより、駆動用モーターの出力が大きいのか。

項目 2023年型MX-30 Rotary-EV
ロータリーエンジン 8C型・830cc・1ローター
エンジン最高出力 53kW/4,500rpm(約72PS)
駆動モーター最高出力 125kW(約170PS)
バッテリー容量 17.8kWh
燃料タンク 50L
EV走行距離 107km(国内WLTC)
車輪の駆動 常にモーター

※2023年9月のマツダ国内仕様発表値。PS換算は1kW≒1.3596PS。エンジンとモーターは役割が異なり、両者の最高出力を足して車両出力とすることはできない。EV走行距離は試験条件下の値。

エンジンが発電した電力と、バッテリーに蓄えられた電力を使ってモーターを回す仕組みだからだ。モーターの瞬間的な最大出力を、エンジン単独の最高出力と一致させる必要はない。

また、発電用エンジンは車速と機械的に連動して回転数を変える必要がない。マツダは発電時の運転領域を工夫し、効率改善につなげている。

72PSだからRX-8より退化した、という比較は意味をなさない。エンジンに求められる仕事そのものが変わったのである。

1ローターなのに830cc。実は13Bの半分ではなかった

もう一つ、マツダ技報の諸元表で引っかかった。

RX-8の13B-MSP「RENESIS」は654cc×2ローターで合計1,308cc。一方、新しい8C型は1ローターで830ccだ。

ローターが2個から1個に減ったのだから、排気量も半分になると思いきや、そうではない。

  • RX-8の13B-MSP:654cc×2=1,308cc
  • MX-30の8C:830cc×1=830cc
  • 総排気量:1,308ccから約36.5%減少
  • ローター1個当たりの排気量:654ccから約26.9%増加

8C型は単に13Bのローターを1個取り去ったエンジンではない。1ローター当たりの排気量を増やし、発電用として基本設計を見直していた。

燃料供給はポート噴射から直噴へ変更。冷却EGRを採用し、サイドハウジングも鋳鉄からアルミへ変更した。

マツダ技報によれば、8C型は13B型との比較でエンジンユニット燃費を最大25%改善し、欧州のEuro 6d排出ガス規制にも適合したという。ただし、これは技術論文上の比較であり、RX-8とMX-30の実燃費が25%違うという意味ではない。

かつて燃費と排ガスに苦しんだロータリーが、今度は燃費と排ガスを改善するために根本から設計し直された。なかなか皮肉な話である。

13B-MSPの2ローターと8C型1ローター、モーターとジェネレーターの関係を示した概念的な機械比較イラストAI生成イラスト。実物写真やメーカー設計図ではなく、13B-MSPと8C型の構造・役割・同軸レイアウトの違いを説明するための概念図です。

2025年、510PSのVISION X-COUPEはロータリーだけで走るのか?

2024年2月1日、マツダはロータリーエンジン開発グループを約6年ぶりに復活させた。36人の技術者によって、発電用途に加えて各国の規制対応やカーボンニュートラル燃料などの研究を進める体制である。

そして2025年10月29日、ジャパンモビリティショーに登場したのが「MAZDA VISION X-COUPE」だ。

2ローター・ロータリーターボエンジンとモーター、バッテリーを組み合わせたプラグインハイブリッド。最高出力510PS、モーターのみで160km、エンジン併用で800kmの航続距離を掲げた。

ただし、510PSはエンジンとモーターを組み合わせたシステム最高出力である。 RX-7の280PSなど、エンジン単体のカタログ馬力とそのまま比較することはできない。

さらにマツダ公式の開発者インタビューを調べると、注目すべき説明があった。

VISION X-COUPEのロータリーは、MX-30のような発電専用ではなく、直結駆動にも使う構想なのだ。

つまり、2023年に発電機として戻ってきたロータリーが、将来は再び車輪を直接駆動する役目も担う可能性を示したのである。

もっとも、VISION X-COUPEは2035年を見据えたビジョンモデルだ。510PSや航続距離はマツダが提示した構想上の性能であり、量産車として認証・販売された実績ではない。

MAZDA VISION X-COUPEをモチーフにした未来のロータリークーペのコンセプトイメージAI生成イラスト。実車写真や市販化確定イメージではなく、MAZDA VISION X-COUPEの公表内容をもとにした概念イメージです。

「走るほどCO₂が減る」は、すでに実現した技術なのか

VISION X-COUPEには、馬力以上に大胆な構想がある。微細藻類由来のカーボンニュートラル燃料と、排気ガス中のCO₂を回収する「Mazda Mobile Carbon Capture」の組み合わせだ。

マツダは、燃料由来のCO₂削減約90%に排気ガス中のCO₂回収20%を組み合わせ、合計110%、差し引き10%のカーボンネガティブを目指す考えを説明している。

ただし、これを「VISION X-COUPEはすでに走れば走るほどCO₂を減らす実用車だ」と受け取ってはいけない。

2025年の開発者インタビューによれば、CO₂吸着材で排気ガスからCO₂を分離できることは実験で確認した段階。実用化には技術面と事業面の課題が残っており、藻類燃料にも量産コストという問題がある。

量産済みなのはMX-30の発電用ロータリー。510PSのビジョンモデルとCO₂回収の実用化は、まだ別の話なのである。

2026年、日本では販売継続。それでも海外では楽な商売ではない

復活したロータリーの商売が順調かというと、ここにも難しい現実がある。

2026年1月14日、英国の自動車専門誌Autocarは、MX-30 R-EVが欧州市場で販売終了になったと報じた。この記事では、マツダ広報担当者の説明として、消費者の動向や生産上の優先順位など複数の事情が挙げられている。

英国でのR-EVの登録台数は678台と報じられた。ただし、これは英国市場の数字であって、世界全体の販売台数ではない。

一方、日本では状況が違う。2026年10月2日時点のマツダ公式「工場出荷時期目処」には、MX-30のe-SKYACTIV R-EVが引き続き掲載され、工場出荷まで3~4か月程度と案内されている。

少なくともAutocar報道ベースでは欧州で販売終了、日本では注文可能。2026年の時点で、ロータリー復活の商業的な評価は市場によって分かれていた可能性が高い。

技術として量産復活できたことと、世界中で売れ続ける商品になれることは別問題だ。RX-8の最終期に見た難しさが、別の形で顔を出しているとも言える。

ロータリーは生き残った。だがRX-7の復活はまだ確認できない

ここまでの動きを整理すると、ロータリーの役割は3段階で変化している。

時期 車両・計画 ロータリーの役割 確認できた段階
2012年 RX-8 車輪の駆動 量産終了
2023年 MX-30 Rotary-EV 発電専用 量産・販売
2025年 VISION X-COUPE 直結駆動も想定 将来構想
2026年 MX-30 Rotary-EV 発電専用 日本では販売継続

※2026年10月30日時点で確認できた公開情報に基づく整理。VISION X-COUPEについて、量産開始日や市販価格が確定したことは確認できない。

ロータリーをもう一度量産するという目標は実現した。そして、再び走行用の動力を担わせる構想も示された。

しかし、510PSという数字だけで、RX-7のようなロータリースポーツカーが市販復活すると決まったわけではない。

ロータリーは死ななかった。ただし、生き残るために仕事を変え、次はもう一度スポーツカーの心臓へ戻ろうとしている。その途中にいる。

【編集者が思うこと】

RX-8が終わったとき、次のロータリースポーツはいつ出るのか、と思った人は多かったはずだ。ところが11年後、復活したロータリーは発電機だった。なんだよ、タイヤを回さないのか、と言いたくもなる。

でも今回、個人的にいちばん面白かったのは830ccの1ローターだ。13Bの半分どころか、ローター1個当たりの排気量は大きくなっている。しかも直噴にして、燃費と排ガスを改善する。昔のロータリーをそのまま引っ張り出したわけではなかった。

そして510PS。おおっ、ついにロータリーもここまで来たかと思ったら、システム出力だった。こういう数字は、昔のカー雑誌でも小さな注釈を読まないと危ない。

さらに2026年には欧州でMX-30 R-EVが販売終了という報道まで出てきた。やっぱりロータリーは、作るのも大変なら売り続けるのも大変らしい。

ただ、VISION X-COUPEではロータリーを直結駆動にも使う構想だという。これはちょっと期待したい。個人的には、発電機として生き残るのも悪くないが、やはりロータリーの回転で走るクルマをもう一度見たいのだ。

1967年のコスモスポーツから始まったマツダのロータリー。2026年になっても、まだ結末が決まらない。これほどしぶといエンジンも、なかなかない。

ちょっと分かりにくい用語

シリーズ式プラグインハイブリッド
外部充電できるバッテリーと、発電用エンジンを組み合わせた方式。MX-30 Rotary-EVではエンジンが車輪を直接駆動せず、走行は常に電気モーターが担当する。

参考資料

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です