18か月で10万台生産。それでも駄作!? RX-8はなぜ失速したのか【完結編】

18か月で10万台生産。それでも駄作!? RX-8はなぜ失速したのか【完結編】

2004年9月29日、マツダRX-8の累計生産台数が10万台に達した。2003年4月の生産開始から、わずか18か月。初代ロードスターが17か月で達成した記録に迫る勢いだった。

ところが、そのRX-8は2012年6月に生産を終えている。しかも、2012年3月末時点の累計生産は19万2,094台。発売初期18か月で作った10万台が、その時点の累計生産の半分以上を占めていた。

出足は大ヒット級。それなのに約9年で生産終了。RX-8は、本当に失敗したロータリースポーツだったのか?

販売と生産の数字、エンジンの整備、欧州の排ガス規制、そして最後のSPIRIT Rを調べると、単純に「売れなかった駄作」と片付けられない事情が見えてきた。

まず「18か月で10万台売れた」は正しくない

2004年10月6日のマツダ公式発表を読むと、10万台という数字は販売台数ではなく、国内外向けを含む生産台数だった。

同じ発表には、2004年8月末までの国内累計販売約2万3,000台、海外向け累計輸出7万1,595台という数字もある。こちらも販売と輸出では集計基準が異なるため、単純に足して世界販売台数と呼ぶことはできない。

とはいえ、RX-8が発売当初から海外市場へ広く展開され、生産を伸ばしたことは確かだ。マツダによれば、当時の輸出先は20か国以上。RENESISは2003年のインターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤーも受賞している。

RX-8は発売直後から見向きもされなかったクルマではない。 問題は、その勢いがどこまで続いたかである。

最初の18か月と、その後90か月を計算してみた

マツダの2004年と2012年の発表を突き合わせると、生産ペースの違いがはっきりする。

比較項目 発売初期 その後
対象期間 2003年4月~2004年9月 2004年10月~2012年3月
期間 18か月 90か月
期間中の生産台数 100,000台 92,094台
月平均生産台数 約5,556台 約1,023台

※マツダ公表の2004年9月29日時点10万台、2012年3月末時点19万2,094台を使用。期間は暦月単位で区切った概算で、9月29日から月末までの数日間の差は補正していない。月平均は各期間の生産台数を月数で割った参考値であり、各月の実際の生産台数や販売台数ではない。2012年4~6月の生産分は含まない。

計算すると、最初の18か月は100,000÷18=月平均約5,556台。その後の90か月は92,094÷90=月平均約1,023台だった。

初期18か月の月平均生産ペースは、その後の約5.4倍。2012年3月末までの累計生産の約52.1%が、最初の18か月に集中していた。

もちろん、これだけで「販売が毎年減り続けた」とは言えない。在庫、生産計画、輸出先の事情も影響する。だが、初期の生産規模と、その後の平均的な規模が大きく違ったことは確認できる。


RX-8の最初の18か月の生産10万台・月平均5556台と、その後90か月の生産92094台・月平均1023台を比較するイラスト
RX-8の生産ペースを比較したAIイメージ。最初の18か月で10万台、その後約90か月で9万2,094台を生産。数値はマツダ公式発表に基づく独自計算。グラフの棒の高さは厳密な比例尺度ではないため、正確な比較は本文の表を参照してください。背景の生産ラインと車両は創作を含み、実際のマツダ工場を再現したものではありません。

RX-8は壊れやすかったのか? まず取扱書を読んでみる

RX-8の評価で避けて通れないのが、RENESISの耐久性と整備の問題だ。「オイルを食う」「エンジンがかからなくなる」といった話を耳にするが、噂だけで故障率を判断するのは危ない。

まずマツダの取扱書には、RENESISは構造上、少量のエンジンオイルを内部で消費すると明記されている。つまり、オイルが減ること自体は直ちに故障を意味しない。

ただし、放置してよいわけでもない。マツダはレベルゲージによる定期的な油量点検を推奨している。取扱書に示された交換時期の目安は、通常条件で1万kmまたは1年、シビアコンディションでは5,000kmまたは6か月だ。

さらに注目したいのは、2008年の北米向け対応である。マツダは2004~2008年型RX-8を対象に、ロータリーハウジングや内部シールなど、エンジンの主要内部部品の保証を8年間または10万マイルまで延長した。

これはメーカー自身がロータリーエンジンの主要内部部品について保証対応を拡充した事実であり、単なるネット上の故障談とは重みが違う。

もっとも、保証延長はリコールと同じではない。また、北米向けの制度を日本国内車へそのまま当てはめることもできない。保証制度が存在したからといって、全車が故障したという意味でもない。

今回確認した資料からは、RX-8全体のエンジン故障率や平均寿命を算出できない。「何万kmで必ず壊れる」といった断定は避けたい。

中古車として見るなら、整備記録、オイル管理、始動状態、点火系の状態を確認し、必要に応じてロータリーエンジンの専門的な圧縮測定を受けることが重要になる。


整備士が青いマツダRX-8のボンネットを開き、RENESISロータリーエンジンのオイルレベルゲージを点検するイメージイラスト
RX-8のRENESISロータリーエンジンにおけるオイル管理の重要性を表現したAIイメージ。エンジンルームの部品配置、レベルゲージの位置や作業動作は、実車の正確な整備手順を再現したものではありません。点検方法は車両の取扱説明書に従ってください。右側のロータリー模型も構造の概念表現です。

2010年、欧州では排ガス規制が壁になった

ロータリーの弱点は、整備の手間だけではなかった。

2010年5月、RX-8が欧州で販売を終了することが報じられた。理由は、新たな排出ガス基準「Euro 5」への対応問題である。在庫車を除き、欧州向けの販売継続が難しくなった。

ただし、この段階でRX-8の世界生産が終了したわけではない。日本などでは、その後も販売が続いた。

ここは重要だ。2010年の欧州販売終了と、2012年6月の全体の生産終了は、同じ出来事ではない。

厳しくなる排ガス規制への適合には、エンジンの改良や認証などが必要になる。販売規模が小さくなった車種では、そうした費用を回収できるかも商品継続の判断材料になるだろう。

ただし、RX-8の世界生産終了について、環境規制、販売台数、開発費のどれが決定的だったのか。その割合を示すマツダの公式資料は今回確認できていない。単一の原因に決めつけるべきではない。

最後のSPIRIT Rは、予定の1,000台では足りなかった

2011年10月7日、マツダはRX-8の生産を翌2012年6月で終了すると発表。同時に、最後の特別仕様車「SPIRIT R」を同年11月24日に発売すると告知した。

当初の販売計画は1,000台。ところが注文が計画を上回り、2012年4月26日には1,000台の追加生産が発表された。

つまり、生産終了を控えたRX-8に、最後は当初計画を超える注文が集まったのである。ただし、増産決定の2,000台を、そのまま最終販売実績と呼ぶことはできない。

SPIRIT Rには6速MTと6速ATが用意された。特に人気が高かったのは、Type RSをベースにした6MT仕様だ。マツダの発表では、SPIRIT Rの受注の66%を占めていた。

6MT車にはRECARO製バケットシート、ビルシュタイン製ダンパー、ブロンズ塗装の19インチ鍛造アルミホイールなどを装備。税込価格は325万円。AT車は312万円だった。

280PSに戻したわけではない。それでも、RX-8らしいロータリーの高回転と運動性能を好む人たちから、最後に支持が集まった。


夕焼けの展望スペースに停車する白いマツダRX-8 SPIRIT Rのイメージ。ブロンズ19インチホイールと赤いブレーキキャリパーを表現
2011年登場のRX-8最終特別仕様車「SPIRIT R」6MT仕様をイメージしたAIイラスト。実際に設定された白系ボディカラー、ブロンズ塗装19インチ鍛造ホイール、赤いブレーキキャリパーを表現。車体細部には簡略化や創作が含まれ、夕暮れの展望スペースも架空の風景です。

売れた。しかし、売れ続けることは難しかった

RX-8を失敗作と呼ぶかどうかは、何を基準にするかで変わってくる。

発売初期18か月で10万台生産したことは大きな実績だ。しかも、RX-7とは異なる4ドア・4人乗りという商品企画で、それを実現した。

一方、その後の生産規模は初期より小さくなり、整備面ではロータリー特有の管理が必要だった。環境規制への対応も商品寿命に影響する問題となった。

事業としてどれだけ利益を残したかは、RX-8単独の開発費、製造原価、収益を確認できない以上、断定できない。

RX-8は「まったく売れなかった駄作」ではない。しかし、最初の勢いを長期にわたって維持できた商品でもなかった。

そして2012年6月、RX-8の生産は終了した。マツダのロータリーエンジンを主動力とする量産スポーツカーの歴史は、ここでいったん途切れる。

RX-7の後継を期待した人にとって、RX-8は理想の答えではなかったかもしれない。それでも、4人が乗れる独創的な車体と自然吸気RENESISによって、ロータリーの市販スポーツカーを2012年まで残した役割は小さくない。

【編集者が思うこと】

最初は、RX-8は結局売れなくなって終わったんだろう、と思っていた。ところが調べたら、18か月で10万台。初代ロードスターに迫る勢いとは、ちょっと意外だった。

さらに面白いのが、その10万台が2012年3月末までの累計生産の半分以上だったこと。最初にドカンと作って、後は長い時間をかけて積み上げたわけだ。販売台数ではないとはいえ、なかなか極端な数字である。

一方で、ロータリーは乗る側にも少々面倒なことを要求する。オイルを確認して、調子を見て、異変があれば専門的に診てもらう。クルマ好きにはそれも楽しみかもしれないが、普通の乗用車と同じ感覚で扱えるかといえば、そう単純ではない。

それにしても、最後のSPIRIT Rが追加生産になったというのは面白い。終わるとなったら、欲しい人がまた出てくる。昔のクルマには、こういうことがある。

RX-8がRX-7の代わりになれたとは思わない。しかし、マツダが4ドアという妙な答えを出さなかったら、ロータリーのスポーツカーはもっと早く途絶えていたかもしれない。

駄作というには売れすぎた。成功作というには長続きしなかった。結局、そこがRX-8というクルマの面白いところなのだと思う。

ちょっと分かりにくい用語

シビアコンディション
短距離走行の繰り返しや渋滞、悪路走行など、エンジンオイルや車両に通常より厳しい負担がかかる使用条件。該当条件や整備時期は車両の取扱書・メンテナンスノートに従う。
Euro 5(ユーロ5)
欧州の自動車排出ガス規制の段階の一つ。排気中の有害物質などについて基準を設けている。燃費の良し悪しだけを判定する制度ではない。

マツダロータリー 7部作

1967年のコスモスポーツからコスモAP、ユーノスコスモ、RX-7、RX-8、そしてロータリーの復活まで。マツダが挑んだ夢と現実を、開発史、性能比較、販売実績、当時の記録、独自計算から全7部で検証します。

参考資料

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