たかがドラマに中国外務省まで!? 『VIVANT』騒動と『ランボー4』禁止の18年差

たかがドラマに中国外務省まで!? 『VIVANT』騒動と『ランボー4』禁止の18年差

日本のテレビドラマに中国政府が反応する。そんな妙な騒動が、2026年10月に起きた。

問題になったのは、TBS日曜劇場『VIVANT』第2シーズン。中国系の秘密情報組織が日本人諜報員を拷問する場面に、中国の国営メディアなどが猛反発したのである。

そして10月29日、中国外務省の郭嘉昆報道官までが、このドラマを批判した。

たかがフィクションの悪役描写が、国家の外交会見に登場するほどの問題なのか?

しかも調べると、18年前にはミャンマー軍事政権が映画『ランボー4』のDVD販売を禁止したという、さらに強烈な事件があった。

『VIVANT』の拷問描写に中国が猛反発

問題となったのは、2026年10月4日放送の第19話。架空の中国系情報組織「シンシー」が、自衛隊の非公認情報組織「別班」のメンバーを拘束し、指を切断するなどの拷問を行う場面だ。

10月25日、中国中央テレビ(CCTV)系の報道は、旧日本軍が中国人に行った拷問を現代の中国側に置き換えたと批判。26日の『環球時報』も、中国への脅威論をあおる描写だと主張した。

これに対し、TBSの龍宝正峰社長は28日、作品は完全なフィクションであり、特定の国家をおとしめる意図はないと説明している。

ところが翌29日、中国外務省の定例会見では、ロイター通信の記者から質問を受けた郭報道官が、日本国内には文化作品を通じて中国をおとしめ、反中感情を広めようとする勢力が存在するという趣旨の発言をした。

ただし、中国外交部の公式記録を確認すると、発言は記者への回答であり、日本政府に放送停止を要求したものではない。正式な外交抗議が行われたという資料も確認できなかった。

さらに11月1日には中国国防省も公式SNSで批判。同省は、劇中の拷問描写について、旧日本軍による行為を現代の中国側になすりつけ、侵略の歴史を美化しようとしていると主張した。中国側の反応は、メディアの批判から外交部、国防省にまで広がったのである。


2026年10月4日のドラマ放送、25日の中国メディア批判、28日のサンリオ中国法人の発表、29日の中国外交部発言を整理した時系列イラスト
2026年10月の出来事を整理したイメージ図。10月28日は中国現地時間。人物・商品・会見場は実際のものを再現していない。

中国外務省より先に、サンリオが動いていた

ここで妙なのが、実際に企業活動が止まった順序だ。

中国のSNSや国営メディアで批判が拡大するなか、サンリオ中国法人は10月28日夜、『VIVANT』とのコラボレーション中止を発表。翌29日には日本のサンリオ本社も、企業理念にそぐわない表現が含まれているとして、関連する企画や宣伝活動の終了を公表した。

つまり、サンリオ中国法人の発表は、中国外務省報道官の発言より前だった。政府が中止を命じたという証拠はなく、批判を受けた企業側の判断として区別する必要がある。

経済的な背景も無視できない。ロイター通信によると、サンリオの中国での第1四半期売上高は約98億円。同社の2027年3月期第1四半期の連結売上高520億3,500万円と単純比較すると、98÷520.35×100=約18.8%に相当する。

これは公表数値を使った参考計算であり、地域別売上高と連結売上高の集計・調整条件が完全に一致するとは限らない。それでも中国市場が大きな事業規模を持つことは分かる。ただし、今回の中止が売上維持を目的としたものかどうかは不明だ。

一方、日本国内でも9月29日のBPO(放送倫理・番組向上機構)青少年委員会で、『VIVANT』とみられるドラマの過激な暴力表現が議論されていた。こちらは中国の描かれ方ではなく、子どもへの影響を心配する意見である。正式な放送倫理違反の認定には至っていない。

18年前、ミャンマーでは『ランボー4』が販売禁止に

映画の悪役に国家が反応した例として思い出すのが、シルベスター・スタローン主演の2008年作品『ランボー/最後の戦場』だ。シリーズ第4作で、ミャンマー軍による少数民族への迫害を背景に、ランボーが軍の兵士たちと戦う。

当時のミャンマー軍事政権下では、警察がDVD販売業者にこの映画を売らないよう指示した。

2008年2月18日の豪ABC報道によれば、ある販売業者は、販売すれば最長7年の禁錮刑になると警告されたと証言している。別の業者には、1日に少なくとも20人がDVDの在庫を尋ねていたという。

販売を禁止しても、映画を見たいという人々の関心までは消せなかったわけだ。

なお、スタローン本人がミャンマーへの入国を禁止されたと語った報道もあるが、政府の正式な入国禁止命令までは確認できていない。


2008年ミャンマーのDVD販売規制と2026年のドラマ関連コラボ中止を対比した劇画イラスト
2008年のDVD販売規制と2026年のコラボ中止を対比したイメージ図。実際の店舗・人物・商品を再現したものではない。2008年の販売禁止の警告は警察によるものと報じられている。

18年で変わったのは、作品を止める仕組みか?

『ランボー4』では、軍事政権下で警察がDVDの販売を規制した。一方、『VIVANT』では、中国側のメディアやSNSによる批判が広がり、企業が関連商品の展開を中止した。

一方は国内での販売規制、もう一方は企業のコラボ中止。同じ映像作品を巡る騒動でも、実際に起きたことは大きく異なる。

もちろん、『VIVANT』が中国への印象をどの程度悪化させたのか、あるいは『ランボー4』が軍事政権への反発を何%強めたのかを示すデータは確認できない。

それでも、ドラマの設定が外交会見の議題となり、関連商品の展開まで中止される。映像作品が娯楽の枠を越えて現実の企業活動に波及したことだけは確かだ。

【編集者が思うこと】

『VIVANT』はドラマである。中国系の悪役が登場したからといって、中国人全員が悪人になるわけでもない。それくらい視聴者だって分かっていると思うのだが。

もちろん、実在する国を悪役側に据えた表現への批判はあっていい。ただ、そこに政府の報道官まで登場してしまうと、どうにも話が大きくなりすぎた気がする。

さらに妙なのは、批判によって『VIVANT』を知らなかった海外の人まで作品名を知ることになる点だ。政府が批判すること自体が、宣伝になってしまう可能性もある。

18年前はランボーのDVDを禁止し、2026年はキティちゃんのコラボが消える。フィクションの中の悪役より、現実世界でそれに反応する人間たちの方が、よほど予想外の展開を見せてくれる。

参考資料

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