ドラマ『VIVANT』で強烈な存在感を放った「別班」。表向きは普通の社会人として生活しながら、裏では国家のために情報を集める――そんな組織が本当に日本にあったら面白い。
もちろん、ドラマで描かれた別班をそのまま現実だと考えるのは無理がある。しかし調べていくと、この話は「全部フィクションでした」で簡単に片付けられない妙な部分を持っている。
※掲載画像は記事内容をもとにAIで生成したイメージです。
政府は13年たっても「そんな組織はない」
2013年、国会で「陸上幕僚監部運用支援・情報部別班」とされる組織について質問が出された。
政府の答えは非常に明確だった。そのような組織はこれまで自衛隊に存在したことはなく、現在も存在していないというものだ。
そして面白いのは、その話が昔の都市伝説で終わっていないこと。
2026年7月28日の防衛大臣記者会見でも、『VIVANT』に関連して別班の存在を質問された際、防衛省側は再び、これまで存在しておらず現在も存在していないという立場を示している。
つまり少なくとも公式世界では、2013年から2026年まで一貫して「別班は存在しない」。

ところが「いた」とする取材も消えていない
ここから、この話がおかしくなる。
別班について長年取材してきた共同通信の記者は、防衛省・自衛隊関係者や元班員とされる人物など多数に取材し、別班に相当する組織が存在すると確信したと説明している。
政府は「いない」。取材した側は「いる」。
陰謀論好きには、これほど都合のいい構図もない。
秘密組織が存在しなければ、政府は当然「存在しない」と答える。では、本当に秘密組織が存在した場合、政府は「はい、あります」と答えるのだろうか。
ここを考え始めると、話は永久に終わらない。
否定が証拠にはならない。しかし、否定されたから存在の証拠になるわけでもない。別班の面白さは、まさにこの抜け出せない構造にある。
現実の別班は乃木憂助ほど派手ではなさそう
ただし、ここで『VIVANT』と現実を混ぜすぎると話がおかしくなる。
これまで報じられている別班像は、海外で銃撃戦を繰り広げたり、独自判断で敵を排除したりするような特殊部隊とはかなり違う。
中心とされるのは、人間から情報を得る「人的情報収集」。海外で協力者との関係を作り、話を聞き、情報を集める。映画的に言えばスパイだが、現実には拳銃より名刺、爆発より人間関係という世界に近いらしい。

そもそも日本に情報組織がないわけではない
日本には防衛省の「情報本部」が正式に存在する。各種情報を収集・分析し、政策判断や自衛隊の部隊運用に必要な情報を提供する組織だ。
つまり、日本政府が海外の情報をまったく集めていないわけではない。
問題は、その公開された組織の外側に「表に名前を出さない人的情報収集チームまで存在するのか」という部分である。
ここについて公開情報だけで断定できる材料はない。
だが逆に、国家安全保障に関わる活動がすべてホームページの組織図に載っている、と考えるのも少々素直すぎる気はする。
『VIVANT』が妙にリアルに感じる理由
『VIVANT』がうまかったのは、完全な空想世界ではなく、現実に存在する情報機関や過去の報道の延長線上に「別班」を置いたところだろう。
怪獣や宇宙人なら、現実とは簡単に切り離せる。
しかし別班は違う。
政府は存在を否定する。一方で、元関係者への取材を根拠に存在を主張する報道もある。そして本当に非公然組織なら、我々一般人が直接確認できる可能性はほとんどない。
この「ありそうなのに確認できない距離」が、『VIVANT』と現実を妙につなげてしまう。

隣のサラリーマンが別班だったら面白い
実際には、通勤電車で隣に立っているサラリーマンのほぼ全員が、本当にただのサラリーマンだろう。
だが、もし非公然の情報活動をする人間が存在するとしたら、一番それらしい姿とは迷彩服でも黒ずくめでもない。
誰から見ても普通の人。
そう考えると、『VIVANT』を見たあと、駅ですれ違う無表情の会社員がほんの少しだけ怪しく見えてくる。
政府公式では、別班は存在しない。
しかし、その一言だけでは完全に消えてくれない過去の証言と報道がある。
ドラマはドラマ。現実は現実。
その境界線に、ほんの少しだけ正体不明の空白が残っている。
たぶん別班という話がこれほど人をワクワクさせる理由は、その空白そのものなのだ。
※本記事は政府公表資料、国会答弁、報道機関による取材内容をもとに構成しています。ドラマ『VIVANT』の描写や、非公然組織の存在を事実として断定するものではありません。
【編集者が思うこと】
公安がある以上、「表に出ない情報組織もあるだろ」と俺は思ってしまう。まあ乃木みたいな超人が商社で働きながら世界を救ってるとは思わないけどね。現実の別班があるなら、たぶんドラマよりずっと地味で、だからこそ見つからないんじゃないか。
