「どうせ三流大学にしか入れないなら、高卒で働いた方がマシ」。進路を考える高校生や親なら、一度は耳にしそうな話である。
ところが、厚生労働省の2025年調査では、高卒の平均月額賃金が29万7,200円、大卒は39万6,300円。その差は9万9,100円、約33.3%もあった。
では、偏差値の低い大学でも、4年間通って卒業すれば、この差を手に入れられるのか。
調べてみると、低偏差値大学でも進学の経済的効果は確認されていた。ただし、特定学部の卒業生36人を分析した同じ研究では、12人が経済的な「投資失敗」に相当すると推計されていた。
高卒29.7万円、大卒39.6万円。専門学校卒は?
厚生労働省が2026年3月24日に公表した「令和7年賃金構造基本統計調査」の確定結果を整理した。
| 最終学歴 | 平均月額賃金 |
|---|---|
| 高校卒 | 29万7,200円 |
| 専門学校卒 | 31万3,700円 |
| 高専・短大卒 | 32万1,200円 |
| 大学卒 | 39万6,300円 |
| 大学院卒 | 51万7,400円 |
2025年、男女計・年齢計。一般労働者の所定内給与額で、残業代・賞与は含まない。
大卒と専門学校卒の差も月8万2,600円。単純に12倍すれば約99万円だが、実際の年収差には賞与なども影響する。
ただし、ここが重要。この統計には有名大学も無名大学も含まれ、大学別の賃金は示されていない。大卒全体の平均39.6万円を、偏差値40以下の大学卒業者の平均給与として使うことはできない。
50代になると、学歴別の賃金差はさらに広がる
同じ統計から、今度は年齢をそろえて高卒と大卒を比較してみた。
| 年齢 | 高卒 | 大卒 | 大卒の上乗せ率 |
|---|---|---|---|
| 25~29歳 | 25.17万円 | 29.64万円 | +17.8% |
| 40~44歳 | 30.90万円 | 42.53万円 | +37.6% |
| 55~59歳 | 33.21万円 | 52.91万円 | +59.3% |
厚生労働省2025年調査を基に独自計算。男女計、所定内給与額。
25~29歳の賃金差は月4万4,700円だが、55~59歳では月19万7,000円。差額は約4.4倍に広がっている。
若いときの差だけで学歴の価値を判断すると、中高年になってからの格差を見落とす。

厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」を基に作成。異なる年齢層の比較であり、同一人物の賃金推移や学歴による因果関係を示すものではない。人物・職業はイメージ。
ただし、これは2025年の異なる年齢層を比べた数字であり、同じ人を30年間追跡した結果ではない。昇進、職種、企業規模、本人の能力なども影響する。学歴だけが原因だとは断定できない。
生涯賃金では6,000万円以上の差。しかし別の格差もある
労働政策研究・研修機構(JILPT)の『ユースフル労働統計2025』では、2024年の賃金などを用いた生涯賃金の推計がある。
学校卒業後から60歳まで正社員として働き、退職金を受け取り、その後も平均的な引退年齢まで非正社員で働くと仮定した場合、男性は高卒2億7,530万円、大卒3億3,950万円。差は6,420万円となる。女性でも大卒の方が6,720万円高い。
ところが、同じ資料で男性大卒者の60歳までの賃金を見ると、従業員1,000人以上の企業では約3億円、10~99人の企業では約2億1,000万円。企業規模別に見ても約9,000万円の差がある。
こちらは退職金を含まない別条件の推計なので、生涯賃金の差額と直接比較はできない。それでも、大卒か高卒かだけでなく、卒業後にどこで働くかが極めて大きいことは分かる。
偏差値40以下の大学でも、進学は得だったのか?
ここで面白い研究が見つかった。東北大学の島一則教授が2021年に発表した「大学ランク・学部別の大学教育投資収益率についての実証的研究」である。
なお、「三流大学」は公的な分類ではない。また、知名度が低いことと偏差値が低いことも同じではない。ここでは、研究で比較された偏差値60以上と40以下の大学に注目する。
東北地方にある偏差値60以上と40以下の大学、それぞれ一つの文系学部について、2015年卒業の男子民間等就職者の就職先情報などから、大学進学の期待収益率を推計している。
| 比較項目 | 偏差値60以上 | 偏差値40以下 |
|---|---|---|
| 分析人数 | 20人 | 36人 |
| 平均期待収益率 | 9.1% | 4.0% |
| 最高期待収益率 | 13.0% | 12.9% |
| 投資失敗に該当 | 0人 | 12人 |
出典:島一則(2021)表3・表4。投資失敗は収益率がマイナス、または計算不能となったケース。平均期待収益率の算出では計算不能のケースを除く。4.0%は研究上の期待収益率であり、預金金利や給与上昇率ではない。
低偏差値大学の平均期待収益率は4.0%とプラスだった。最高値も12.9%で、高偏差値大学の最高値13.0%に迫る。
ところが、その36人のうち、期待収益率がマイナスだったのは9人、計算不能だったのが3人。合計12人、つまり33.3%に達した。
「低偏差値大学は行くだけ無駄」も間違いなら、「卒業さえすれば元が取れる」も間違い。この研究では、両方の現実が数字に表れている。

島一則(2021)の研究を基に作成。東北地方の偏差値40以下の大学にある特定の文系学部を対象とした推計で、24人がプラス、9人がマイナス、3人が計算不能だった。投資失敗相当12人(33.3%)は経済的な推計上の区分であり、全国の低偏差値大学の実態や個人の人生の成否を表すものではない。
ただし、全国の低偏差値大学の3分の1が失敗するという意味ではない。分析対象は特定の大学・学部の卒業後就職者であり、中退者や公務員などは含まれていない。また、将来の実収入ではなく、当時の賃金構造を使った予測である。
企業が買っているのは、大学の知識か、それとも卒業証書か
大学進学には、授業で専門知識を身につける価値だけでなく、学歴が能力や学習経験を示すというシグナリング効果があると考えられている。
2026年6月にリクルートワークス研究所が公表した調査では、従業員100人以上の企業・組織に属する経営者、管理職、人事担当者のうち、58.6%が「学歴別に初任給が異なる」と回答した。
つまり、大学名を問わず「大卒」という区分が給与制度に組み込まれている企業は存在する。一方、採用選考では大学名、学部、専攻、本人の能力や経験まで評価される場合もある。
大卒資格は応募条件を満たすための鍵にはなっても、採用と高収入を保証する万能の鍵ではない。
結局、低偏差値大学でも卒業する価値はあるのか
今回の資料から言えるのは、低偏差値大学でも進学の経済的効果が得られる場合はあるということだ。ただし、大学全体の平均給与を根拠に、どの大学でも有利とは言えない。
高校生と保護者が大学を選ぶなら、偏差値だけでなく、学部の教育内容、卒業後の就職先、取得できる資格、自宅からの通学可能性、学費負担、そして卒業できる見込みまで確認したい。
なお、専門学校卒の平均賃金が大卒より低いことも、特定の専門学校や職業が不利だという意味ではない。希望する仕事に必要な資格や技能を得られるかどうかも重要になる。
【編集者が思うこと】
昔から「大学ぐらい出ておけ」なんて言われるけど、ずいぶん雑な話だと思っていた。大学名を聞いただけで人間の値段が決まるわけでもないだろう、と。
ところが調べてみると、大卒というだけで給与制度上の区分が変わる企業がある。なんだかんだで、卒業証書には値札が付いているらしい。
それ以上に引っかかったのは、偏差値40以下の大学でも、高い投資効果を得る卒業生がいる一方、経済的には失敗したと推計される卒業生もいたことだ。
大学の偏差値ばかり気にするのも変だが、卒業さえすれば安心というのも、どうやら相当怪しい。
では、学費と4年間の時間を使って、その大卒資格を買うのは本当に得なのか。次回は大学進学の「本当の投資額」を計算してみたい。
ちょっと分かりにくい用語
- 期待収益率
- 進学にかかる学費や、進学せず働けば得られた収入と、卒業後に増えると見込まれる収入を比較した投資効果の指標。実際に毎年その割合だけ給料が増えるという意味ではない。
- シグナリング効果
- 採用する側が本人の能力を直接判断しにくいとき、学歴などの情報を能力や学習経験の手掛かりとして利用するという経済学上の考え方。
三流大卒・全3回
偏差値の低い大学でも、卒業すれば得なのか。高卒・専門卒・大卒の賃金差から、大学4年間の本当の投資額、卒業後の就職と生涯の損得まで、公的統計と研究資料を基に全3回で検証します。
- 第1回: 「三流大学でも卒業すれば勝ち」は本当か? 大卒の給料に隠れた落とし穴【第1部】
- 第2回: 準備中 公開予定
- 完結編: 準備中 公開予定
参考資料
- 厚生労働省「令和7(2025)年賃金構造基本統計調査」学歴別賃金・第3表/2026年3月24日公表
- 労働政策研究・研修機構『ユースフル労働統計2025』第21章「生涯賃金など生涯に関する指標」/2025年版、2024年データによる推計
- 島一則「大学ランク・学部別の大学教育投資収益率についての実証的研究」『名古屋高等教育研究』第21号、167~183ページ/2021年
- リクルートワークス研究所「企業から見た『過剰学歴』②:採用が難しいのは大学卒か高校卒か」/2026年6月4日
- 経済産業研究所「『大学教育無効説』をめぐる一考察――事務系総合職採用面接担当者への質問紙調査の分析から」/2016年
