スーパーのパート面接で、突然「簡単な計算問題を1分間で解いてください」と言われることがある。内容は足し算、引き算、掛け算など、小学生でも解ける程度。それだけに、「こんな問題で何を判断されるの?」「できなかったら落とされる?」と不安になる人もいる。
しかも現在のスーパーでは、商品の金額はPOSレジが計算し、セルフレジやセルフ精算機も珍しくない。昔のように店員が頭の中で商品の合計金額を計算する仕事ではない。それでも、なぜ採用前の人間には紙と鉛筆で計算をさせるのか。
調べていくと、このテストは「暗算が得意か」を調べるだけの試験とは考えにくい。 スーパーという仕事で必要になる数字への抵抗感を見ると同時に、単純な作業を限られた時間の中で、どの程度正確に処理できるかを見る簡易テストとしての意味があると考えると、その仕組みが見えてくる。
スーパーの計算テストは全国共通ではない
まず押さえておきたいのは、スーパー業界に「1分間計算試験」という統一された採用試験が存在するわけではないことだ。企業や店舗によって、1分程度の足し算・引き算、数分間の計算問題、釣り銭計算、漢字、一般常識、性格検査など内容は異なる。計算試験そのものを実施しない店舗もある。
実際、旧ヨークのパート・アルバイト面接については、「1分間に何問解けるかを見る簡単な足し算・引き算」があったという応募者の体験談も確認できる。ただし、これはあくまで特定企業・特定時期の個人の体験談であり、すべてのスーパーに当てはまるものではない。
したがって、ネット上で見かける「○問正解すれば合格」「計算が遅いと不採用」といった情報を、すべてのスーパーに当てはめることはできない。計算テストは採用判断に使われる材料の一つであって、スーパー全体に共通する資格試験のようなものではない。
※AI生成によるイメージです。実在する企業の面接や採用試験、問題用紙を再現したものではありません。
レジが自動計算なのに、なぜ算数をさせるのか
厚生労働省の職業情報サイト「job tag」では、現在のスーパーではバーコードを読み取るPOSシステムが主流となり、レジ業務そのものは簡素化していると説明されている。一方で、レジスターの操作には正確さとスピードが要求され、そのため集中力も求められるとしている。
さらにスーパーの仕事はレジだけではない。商品の入荷数を確認し、発注どおり納品されたかをチェックし、在庫を把握し、商品の補充や値引きを行う。部門によっては数量、価格、日付などを何度も確認することになる。
つまり、「レジが計算してくれるから数字が苦手でも一切関係ない」という仕事でもない。 高度な数学は必要なくても、「10個必要なのに8個しかない」「20%引きの商品」「発注数と納品数が違う」といった数字を日常的に扱う。
※AI生成によるイメージです。実際の業務内容や担当範囲は店舗・部門によって異なります。
難しい算数では意味がない
ここで重要なのが、なぜ問題が「小学生レベル」なのかという点だ。
仮に分数、方程式、複雑な文章題などを出せば、その試験は学校で習った数学を覚えているかどうかのテストになってしまう。スーパーのパート採用で知りたい能力とはズレてくる。
逆に「8+7」「15-6」のような問題なら、多くの成人が解き方を知っている。その状態で時間を短くすると、知識そのものよりも「分かっている作業を、どの程度の速度と正確さで処理するか」という差が表れやすくなる。
この考え方を理解するうえで参考になるのが、採用選考などにも使われている「内田クレペリン検査」だ。この検査では一桁の足し算を1分ごとに行を変えながら続け、作業量や誤答などを見る。公式説明でも、数学力そのものを測るために足し算を使っているわけではなく、誰でもできる程度の単純作業だからこそ使われていると説明されている。
もちろん、スーパーで行われる1分間の計算テストが内田クレペリン検査だという意味ではない。 正式な内田クレペリン検査は別の心理検査である。ただ、「簡単な計算をさせて、その作業の仕方を見る」という発想には共通する部分がある。
速ければ速いほど優秀、でもない
1分という時間を聞くと、「とにかく大量に解かなければ」と考えやすい。しかし実際のスーパー業務を考えれば、スピードだけが重要とは言いにくい。
40問解いて10問間違える人と、28問しか進まなかったが28問すべて正解した人がいた場合、単純に前者の方が仕事に向いているとは判断できない。レジで商品を一つ余計に登録したり、値引きを間違えたり、発注数を間違えたりすれば、その修正には余計な時間がかかる。
少なくともスーパーの実務では、単純な速さだけではなく、「一定の速度で、間違いを少なく処理すること」も重要になる。
※AI生成による概念イメージです。実際のスーパーの採点方法や合否基準を示したものではありません。
計算が遅かったら、それだけで落ちるのか
ここは面接を受ける前に一番気になるところだろう。しかし、「1分間で○問以下なら不採用」というスーパー業界共通の基準は確認できない。
そもそも厚生労働省は、企業が採用選考で適性検査などを利用する場合、検査結果を絶対視せず、その結果だけで採否を決定しないようにすることを求めている。
スーパーのパート採用なら、勤務可能な曜日や時間帯、土日勤務の可否、接客時の受け答え、継続して勤務できるかなど、計算問題以外にも確認すべき項目は多い。計算テストで少し手間取っただけで「もう落ちた」と決めつける必要はない。
一方で、計算問題を実施すると分かっている店を受けるなら、前日に一桁・二桁の足し算や引き算を数分やっておく程度の準備は無駄ではない。難しい勉強をする必要はない。問題を最後まで終わらせることより、慌てて簡単な問題を間違えないことを意識した方が、実際の仕事にも近い。
あの1分間で見られているのは「算数」だけではない
では、この計算テストにはどんな意味があるのか。本記事で確認したスーパーの職務内容や、単純計算を使う作業検査の考え方から見ると、大きく二つの目的が考えられる。
一つは、仕事で数量や金額を扱うための最低限の数的処理能力を見ること。もう一つは、誰でも解ける単純な問題を使い、時間を区切ったときの処理速度、正確性、集中の仕方を見ることだ。ただし、実際の採点方法や評価基準は企業ごとに異なり、すべてのスーパーがこの目的を明示しているわけではない。
その意味では、小学生レベルの問題であることにも理由がある。難しい問題を解ける人を探しているのではない。簡単な仕事を簡単だからと雑に扱わず、同じ作業をきちんと続けられるか。 スーパーという仕事との相性を見る方法の一つとして考えれば、意外に合理的な試験なのかもしれない。
【編集者が思うこと】
俺も最初は、「今どきレジが全部計算するのに、なんで面接で小学生の算数なんかやらせるんだ?」と思った。でも、スーパーの仕事を見ていくと、九九ができるかどうかより、簡単なことを焦って雑にしないかを見る方に意味がありそうだ。ただし逆に、たった1分の計算だけで人間の仕事適性が全部分かるとも思わない。厚労省だって適性検査の結果だけで採否を決めるなと言っている。だから受ける側も必要以上に怖がらず、分かる問題を落ち着いてやればいい。面接って、紙1枚の点数だけで決まるほど単純でもないと思う。
参考資料
- 厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「スーパーレジ係」
POSシステム、セルフレジの普及や、レジ操作に正確さ・スピード・集中力が求められることなどを確認。 - 厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「スーパー店員」
発注、納品確認、商品補充、値引きなど、スーパー店員が行う実際の業務内容を確認。 - 厚生労働省「採用選考の具体的な方法」
学力試験・適性検査の考え方や、検査結果を絶対視せず、その結果のみで採否を決定しないよう求めている指針を参照。 - 日本・精神技術研究所「内田クレペリン検査とは」
一桁の足し算を用いて、作業量、作業量の変化、誤答などを見る作業検査法について参照。 - 日本・精神技術研究所「内田クレペリン検査・受検者向け解説」
一桁の足し算を使う理由や、数学能力そのものを測る検査ではないことについて参照。 - 転職会議「ヨークの面接・試験・選考情報」
スーパーのパート面接で1分間の簡単な足し算・引き算が行われた事例として参照。個人の面接体験談であり、全店舗共通の選考方法を示すものではありません。
