まだ円を売る? 「円安は続く」と信じる投機筋に異変
1ドル160円前後まで進んだ円安を見て、「このまま165円、170円まで行くのでは」と考えた人も多かったはずだ。
ところが2026年9月3日から4日にかけて、為替市場では空気が急変した。ドル円だけでなく、ユーロ円、ポンド円、豪ドル円まで一斉に円高方向へ動き、ドル円は一時155円台まで急落した。
値動きだけ見れば、政府・日銀による為替介入を疑いたくなるほどの勢いだった。
しかし日銀の当座預金データなどから、9月3日の動きについては新たな為替介入ではなかった可能性が高いとみられている。市場が自力で円を買い始めたのである。

介入なしで「介入級」の円高が起きた
今回の円高を動かした大きな材料が、日銀の追加利上げ観測だった。
9月4日時点では、市場が9月の日銀会合で政策金利を1.25%へ引き上げる可能性をかなり高く織り込む状況となった。Reutersは、市場の織り込みが一時97%近くに達したと報じている。
一方で米国では、FRBがさらに利上げするのか、それとも様子を見るのか判断が揺れている。日米の金利差がすぐ消えるわけではないが、少なくとも「日本の金利はずっと低いまま」という前提は崩れ始めている。
これまで円売りを続けてきた側にとって、これは少々嫌な変化だ。
※金利水準は今後の政策変更をイメージした模式図で、現在の政策金利そのものを示すものではありません。
「円を売れば儲かる」が何年も続いた
円安を支えてきた代表的な取引が、円キャリートレードだ。
低金利の円を調達し、より金利の高いドルなどの資産へ移す。日米の金利差が大きく、さらに円安まで進めば、投資家にとって非常に都合がいい。
結果として、円を売る→円安になる→さらに円を売るという流れが成立してきた。
問題は、この取引が人気になりすぎることだ。
4月時点では、投機筋の円売りポジションが約2年ぶりの規模まで膨らんでいた。ところが9月になると、Citigroupのデータでは円に対するポジションが弱気から強気へ転換したとされる。
つまり市場参加者の一部が、すでに「円を売り続けるゲーム」の出口を探し始めている可能性がある。

円安を作った仕組みが逆回転すると怖い
相場で怖いのは、価格そのものより同じ方向に賭けている人が多すぎる状態なのかもしれない。
日銀が利上げを続け、海外との金利差が縮小すれば、円を売って海外資産を持つメリットは小さくなる。
すると円売りポジションを持っていた投資家は、それを決済するために円を買わなければならない。
円が上がる。
さらに別の投資家が損失を避けるために円を買い戻す。
さらに円が上がる。
これは円安を作ってきた仕組みの逆回転である。
JPMorganは、円ショートの巻き戻しが本格化した場合、ドル円が142~146円程度まで動く可能性を示している。
もちろん、これは予測の一つであり、その水準になることが保証されているわけではない。しかし160円台を見た直後だけに、数字としてはなかなか刺激的だ。
それでも170円説はまだ死んでいない
ここで「では円安は終わった」と考えるのも早い。
米国ではインフレ圧力が残り、強い雇用統計を受けて追加利上げ観測が再び強まる場面もある。原油高などによって世界的なインフレが続けば、海外金利が高止まりし、再び円安方向へ動く可能性も十分残っている。
つまり現在の為替市場は、170円へ向かう円安再加速と、140円台へ戻る円ショート解消の両方が見える場所にある。
以前との違いは、「どうせ円を売っておけばいい」と言い切りにくくなったことだ。

「どうせまた円安」が一番危ないのかもしれない
為替市場では、正しい予想よりも「みんなが何を信じているか」が価格を大きく動かすことがある。
長期間円安が続けば、「円は弱い」「日銀は利上げできない」「下がってもまた160円へ戻る」という考えが常識になっていく。
しかし相場で常識が一番危なくなるのは、誰も疑わなくなったときでもある。
9月3~4日の円高が単なる一時的な調整なのか、それとも円安相場の性格が変わり始めた合図なのかは、まだ分からない。
ただ一つ変わったのは、円を売り続ける側にも「逃げ道」を考える理由が出てきたことだ。
「円安はまだ続く」。そう信じる投機筋が多いほど、もし逆方向へ動いたときの反動は大きくなる。
円安を追いかけるゲームは、まだ終わっていない。だが以前ほど簡単なゲームでもなくなってきた。
【編集者が思うこと】
「まだ大丈夫だろう」。相場で一番怖いのは、この慣れなのかもしれない。リーマンショックでも、昨日までの勝ち組が一転した。歴史は形を変えて繰り返す。大金持ちの次が借金生活なんて笑えない。「危ない、危ない」。福田和子じゃないが、この言葉が妙に似合う相場になってきた。
