昔の若者雑誌には「女性にモテる会話術」「初デート必勝法」みたいな特集が山ほどあった。モテない男は本を読み、友人に聞き、それでも分からなければ玉砕するしかなかった。
ところが今は違う。プロフィールを見せれば直してくれる。送ろうとしている文章を見せれば「長い」「重い」「自慢っぽい」と指摘してくれる。モテない男に、24時間付き合う恋愛参謀がついた。生成AIである。
本当にAIで女性と付き合った男はいる
かなり極端な例がある。Forbesが2024年に報じたロシアのAleksandr Zhadanは、Tinderで数千件のプロフィールをふるいにかける仕組みを作り、ChatGPTにも女性との会話を担当させた。
そのAIが会話した相手の一人Karinaとは実際に会い、交際、同棲へ進み、Forbesが報じた時点では婚約していた。しかも彼女は交際初期の会話にAIが入っていたことを半年以上知らなかったという。
ただし、ここで「AIが非モテ男を救った!」と書いてしまうと雑である。Zhadanには以前にも約2年間の交際経験があった。彼がやったことは、恋愛経験ゼロの男をAIが改造したというより、相手探しと会話の一部を猛烈に効率化したと見るほうが正確だ。

もっと地味なところでAIは効いている
むしろ注目したいのはこちらだ。Reutersが2025年に紹介した35歳の男性は、女性との最初の会話が苦手で、AI恋愛支援サービス「Rizz」にプロフィールを読ませ、最初のメッセージを考える補助として利用していた。本人によれば、それによってチャットだけで終わらず、実際のデートへ進めるようになったという。
顔が変わったわけではない。年収が増えたわけでもない。急に話術の達人になったわけでもない。
「最初に何を書けばいいのか分からない」という、たった一つの詰まりをAIが外した。ここはモテないヲタク諸氏にとって、かなり重要ではないだろうか。
日本でも「AI恋愛相談」はすでに珍しくない
2026年4月にオーネットが25~34歳の独身男女436人を対象に行った調査では、異性への恋愛メッセージなどでAIを使った経験がある人は28.2%。ざっくり言えば3~4人に1人である。
さらにPairs運営会社エウレカが2025年11月にマッチングアプリ利用経験者1,022人を調査したところ、生成AIへ恋愛相談した経験者は53.1%。20代男性だけでは66.3%、つまりほぼ3人に2人だった。
対象条件が違うので単純比較はできないが、「AIに恋愛を相談する男」は、もはやSF世界の珍獣ではない。

ところが「AIに書かせた」と知ると冷める
ここから人間が急に面倒くさくなる。
先ほどのオーネット調査では、嬉しいと思った恋愛メッセージが実はAI製だったと知った場合、56.2%が「かなり冷める」「少し冷める」と回答した。AI利用経験28.2%に対し、AI製だと知って冷める割合は56.2%。質問の意味は違うので直接比較はできないが、割合だけならほぼ2倍である。
使う側には「俺が言いたかったことをAIに整理してもらっただけ」という感覚がある。一方、受け取った側には「それ、本当にあなたの言葉なの?」という疑問が出る。
2026年の研究「The Cyrano Effect」でも、AIで恋愛メッセージを作る側と受け取る側45人へのインタビューから、AI使用を知った際の信頼低下や、AIで整えたオンライン上の人物像と実際に会った本人との落差が指摘されている。

AIに「口説かせる」のと「鍛えてもらう」のは違う
ここまで調べると、「AIを使えばモテる」という言い方そのものが少し違って見えてくる。
AIにプロフィールも会話も全部任せれば、画面の中には本人より話の上手い別人格ができる。しかしデートにはAIではなく本人が行かなければならない。そこで化けの皮が剥がれれば意味がない。
一方、「この文章は重くないか」「自慢に見えないか」「相手の質問を無視していないか」と毎回AIに添削させれば、本人にもパターンが蓄積する。これは代筆ではなく練習になる。
実際、オンラインデートのプロフィール研究では、独自性が高いと評価されたプロフィール文ほど、書き手の知性やユーモアも高く評価され、それが魅力度や「会ってみたい」という意向にも結びつく傾向が確認されている。なお、この研究は高年齢層のオンラインデート利用者が中心であり、若年層へそのまま一般化できるものではない。とはいえ、AIに無個性なテンプレートを書かせるより、本人の材料を残したまま、伝え方だけ直させるほうが理にかなっている。
モテない男にAIは使えるのか
現時点で、「ChatGPTを使えば恋人ができる」と証明されたわけではない。しかし、プロフィール作成、最初の一言、返信、デートへの誘い方など、恋愛の入口にある苦手分野を補える実例と仕組みはすでに存在する。HingeやBumble自身も、AIによるプロフィール改善支援を導入している。
AIはモテ男製造機ではない。しかし「なぜ自分が毎回そこで失敗するのか」を一緒に調べてくれる補助輪にはなり得る。
昔のモテ本との最大の違いはそこだ。本は100万人に同じことを書く。AIは「お前のその文章、そこがマズい」と一人ずつ返してくる。
【編集者が思うこと】
俺ならAIに女性を口説かせるより、送信ボタンを押す前の添削係にする。ヲタクというのは妙なところで長文になったり、好きな分野になると急に講義を始めたりする。それを「そこ、いらない」と切ってくれるだけでも価値はある。結局、デートへ行くのはAIじゃない。本人なのだ。
参考資料
- Forbes「Is Your Tinder Date Actually An AI Chat Bot? Maybe.」(2024年2月14日)
- Reuters「’Perfection without the connection’: How AI is becoming a digital wingman」(2025年10月4日)
- オーネット「独身男女の『恋愛におけるAI利用』に関する実態調査」(2026年4月8日)
- 株式会社エウレカ/Pairs「『マッチングアプリの出戻り』および『生成AIへの恋愛相談』に関する実態調査」(2025年12月19日)
- Lennart Ante「The Cyrano effect: LLM-assisted impression management and authenticity in online dating」Telematics and Informatics(2026年)
- van der Zandenほか「Originality in online dating profile texts: How does perceived originality affect impression formation and what makes a text original?」PLOS ONE(2022年)
- Hinge「How Prompt Feedback Works」
- Bumble「Bumble Announces Two New Features For Confidence and Clarity in Dating」(2026年2月26日)
