「高卒よりは、どんな大学でも出ておいた方が得」。本当にそうなのだろうか。
第1部では大卒の賃金が平均的に高いことを確認した。第2部では私立大学の学費と、高卒就職で得られたはずの給与を合わせ、約1,574万円という仮想的な進学コストを計算した。
ところが、就職後の統計を調べると、妙な数字が出てきた。
2026年10月23日公表の厚生労働省調査では、高卒と大卒の就職後3年以内離職率の差は5.7ポイント。しかし、高卒者だけで事業所の規模を比べると、その差は最大36.9ポイントにもなる。
学歴の違いより、就職先の違いの方が大きく表れる指標がある。では、18歳のときの大学偏差値だけで、40年後の人生を予想できるのか。
高卒就職は不利? 求人倍率は4.12倍だった
まず、高卒では就職先が少ないというイメージを疑ってみよう。
厚生労働省が2026年5月に公表した同年3月卒業者の調査では、学校・ハローワーク経由の紹介を希望した高校生に対し、求人数は約49万9,000人分、求職者数は約12万1,000人。求人倍率は4.12倍、就職内定率は98.9%だった。
つまり、統計上は求職者1人に対し約4.1人分の求人があった。ただし、希望する地域・職種に4社から自由に選べるという意味ではない。
一方、2026年3月の大学卒業者の就職率は98.0%。こちらは抽出調査の就職希望者を対象とするため、高卒の98.9%と直接比較して優劣は決められない。
少なくとも、「大学へ行けなければ仕事がない」という時代ではない。重要なのは、就職できるかだけでなく、どんな職場へ入るかである。
学歴差5.7ポイント。ところが職場の規模では36.9ポイント差!
厚生労働省が2026年10月23日に発表した、2023年3月卒業者の就職後3年以内離職率を見てみる。
高卒は36.9%、大卒は31.2%。確かに高卒の方が5.7ポイント高い。
ところが、同じ資料を事業所規模別に分解すると、意外な数字が現れる。
| 就職先の事業所規模 | 高卒の離職率 | 大卒の離職率 |
|---|---|---|
| 5人未満 | 61.3% | 58.2% |
| 1,000人以上 | 24.4% | 24.2% |
| 規模間の差 | 36.9ポイント | 34.0ポイント |
厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和5年3月卒業者)」を基に独自計算。最初の就職先を3年以内に離れた割合であり、離職後の失業率ではない。また、企業全体ではなく事業所の規模による分類。
高卒と大卒の全体差は5.7ポイントなのに、高卒者の事業所規模による差は36.9ポイント。大卒者でも34.0ポイントある。
この統計では、学歴だけでなく、最初に入る職場の条件によっても離職率が大きく違っていた。

厚生労働省が2026年10月23日に公表した、2023年3月卒業者の3年以内離職率を基に作成。高卒・大卒の全体差は5.7ポイント。5人未満と1,000人以上の事業所の差は高卒36.9ポイント、大卒34.0ポイントだった。事業所規模は企業全体の従業員数とは限らず、離職率の違いが事業所規模だけによって生じたことを示すものではない。離職率は失業率ではない。人物・職場はイメージ。
もちろん、これだけで「大企業へ行けば辞めない」とは言えない。仕事内容、労働条件、採用される人の特徴なども異なるからだ。また、退職は必ずしも失敗ではなく、より良い仕事への転職も含まれる。
それでも、大学の偏差値だけを気にして、就職先の労働条件を調べないのは、どう考えても片手落ちだろう。
高卒でも専門資格は取れる。転職で逆転する道もある
高卒から専門技能を身につける道もある。
例えば国家資格の第二種電気工事士は、学歴や実務経験による受験制限がない。試験に合格して免状を取得すれば、法令で定められた範囲の電気工事に従事できる。
これは、高校卒業後に実務経験や資格を積み重ねるキャリアが成立し得る具体例だ。ただし、資格を持つだけで高収入になるわけではないし、大学卒業や専門課程の修了が必要になる進路もある。
転職も人生の分岐点になる。厚生労働省の2025年雇用動向調査では、転職入職者のうち前職より賃金が増えた人は40.8%、減った人は31.0%、変わらなかった人は25.5%だった。
転職は昇給の機会にもなるが、必ず給料が増えるわけではない。しかも、この数字は高卒者だけの成績ではない。
つまり、18歳でどこに進んだかだけでなく、その後にどんな技能を獲得し、どんな仕事を選び直せるかも無視できないのである。
偏差値の低い大学でも、就職先によって結果は変わる
第1部で取り上げた島一則教授の2021年の研究では、偏差値60以上と40以下の大学について、それぞれ一つの文系学部の卒業生を分析していた。
平均期待収益率は高偏差値大学9.1%、低偏差値大学4.0%。一方、低偏差値大学の卒業生にも12.9%という高い期待収益率のケースがあった。
ただし、これは特定の2大学・2学部の就職先情報などを用いた推計であり、全国の大学を偏差値別に追跡した結果ではない。
なお、「Fラン大学」は公的な大学分類ではなく、偏差値40以下の大学と厳密に同じ意味でもない。
現時点で確認した公的資料だけでは、「Fラン大学卒と高卒の成績上位者」の40年間の平均年収や、大学ランク別の転職成功率を全国一律に示すことはできない。
偏差値だけで卒業後の収入順位を決めるのも、高卒なら実力で必ず逆転できると断言するのも、どちらも根拠不足だ。
18歳から58歳まで40年間。いくら稼げば逆転する?
では、条件を明示して計算してみよう。
第2部の私立大学モデルでは、4年間の納付金が約531万円、高卒就職による給与機会が約1,043万円。合計約1,574万円だった。
18歳で進路を分け、58歳になるまでの40年間を比較する。大卒者が働く22歳から57歳までの36年間に、高卒者より毎年いくら多く稼げば、この約1,574万円を取り戻せるのか。
1,574万円÷36年=年約43.7万円。
年間の賃金差を変えて、58歳時点の経済的な差額を計算した。
| 22歳以降の大卒側の年間賃金差 | 36年間の累積差 | 進学コスト差引後 |
|---|---|---|
| 高卒より30万円高い | +1,080万円 | 約494万円の不足 |
| 高卒より45万円高い | +1,620万円 | 約46万円のプラス |
| 高卒より80万円高い | +2,880万円 | 約1,306万円のプラス |
サイトB独自の仮想計算。両者が継続就業し、22歳以降の年間賃金差が36年間一定と仮定。第2部と同じく、在学中の給与機会には所定内給与を使用。追加賃金も賞与等を除く同条件の年額差を想定。税金・社会保険料、生活費差、失業、物価変動、割引率などは含まない。実在の高卒者や低偏差値大学卒業者の平均収入を示すものではない。
この計算は、実際の高卒の「優等生」を抽出して40年間追跡したものではない。進路による損益が逆転する条件を調べるための仮想モデルである。
このモデルでは、年間45万円程度の差が続けば、58歳時点で大卒側が経済的な比較コストを上回る。
逆に、高卒者が専門技能や昇進によって同じ年齢の大卒者以上の賃金を得るなら、大卒側が回収するための差は生まれない。

サイトB独自の仮想計算。私立大学4年間の納付金約531万円と、18~22歳の4年間に高卒就職なら得られた可能性のある給与約1,043万円を合計し、比較コストを約1,574万円とした。22~58歳の36年間、年間賃金差が30万円・45万円・80万円で一定と仮定すると、58歳時点ではそれぞれ約494万円不足、約46万円プラス、約1,306万円プラスとなる。税・社会保険料、生活費差、失業、物価変動、割引率などは考慮していない。実際の収入推移や卒業生の人生の成否を表すものではない。人物・背景はイメージ。
40年後の勝敗を分けるのは、大学の偏差値そのものではなく、実際に発生する収入差と、それが何年続くかである。
ただし、大卒者が有利な仕事に就きやすくなる可能性や、高卒では応募できない職種があることまで否定する計算ではない。学歴は、その後の収入を左右する条件の一つでもある。
大学も安心ではない。定員割れ46.2%と中退リスク
進学先の大学が安定しているかも確認したい。
日本私立学校振興・共済事業団の2026年度調査では、集計対象の私立大学595校のうち275校、46.2%が入学定員を満たしていなかった。前年の53.2%からは改善している。
ただし、定員に1人でも届かなければ未充足と数えられるため、定員割れが直ちに経営危機を意味するわけではない。低偏差値大学と定員割れ大学も同じ分類ではない。
また、文部科学省が2026年10月16日に公表した2025年度調査では、大学の中途退学者は5万1,029人、学生数に対する年間割合は1.97%だった。調査対象校の回答率は91.3%である。
この1.97%は4年間の累積中退率ではない。入学した学生のうち何割が卒業までに辞めるかを直接示しているわけでもない。
それでも、進学を考えるなら、入試偏差値だけでなく、各大学が公表する卒業率、就職先、資格取得実績、学生支援、財務情報も確認したい。
結局、40年後に笑うのは高卒か、Fラン大学卒か
今回の統計では、高卒就職の求人需要は強く、資格や転職を通じてキャリアを築く選択肢もある。一方、大卒資格が就職や昇進の選択肢を広げることも否定できない。
そして、大学進学の費用を回収できるかは、卒業後の賃金差が実際にどれだけ続くかに左右される。
高校生や保護者に必要なのは、「高卒だから負け」「Fランだから無駄」という決めつけではない。
希望する仕事に就くために必要な資格と学歴、進学費用、卒業生の就職先、企業の労働条件。この4つを具体的に調べることだ。
大学進学には価値がある場合もある。しかし、大学へ行かなかった人生が必ず不利になるわけでもない。40年間の結果を、18歳の偏差値だけで予言することはできないのである。
【編集者が思うこと】
今回いちばん妙だと思ったのは、大学の名前や偏差値にはやたら詳しいのに、その大学を出た人がどんな会社へ就職しているのか、案外知らないまま進学先を決めてしまうことだ。
偏差値って、基本的には入学するときの成績の目安でしょ。それを40年後の人生の成績表みたいに扱うのは、ちょっと乱暴すぎないか。
もちろん、良い大学を出ることにも意味はある。でも高卒で技術を身につけ、現場で頼られる人間になる道だってある。逆に、大学を出ても、その後に何もしなければ卒業証書だけで食っていけるわけじゃない。
結局、18歳で人生の勝敗が決まるなんてことはないんだよね。ただし、最初の選択で使う金と時間は戻ってこない。だからこそ、大学の看板より、その先の仕事を見ておきたい。
「大学ぐらい出ておけ」も、「Fランなら行くな」も、言うのは簡単。だけど、他人の人生をそんな一言で片付けるのは、どうにも気に入らない。
三流大卒・全3回
偏差値の低い大学でも、卒業すれば得なのか。高卒・専門卒・大卒の賃金差から、大学4年間の本当の投資額、卒業後の就職と生涯の損得まで、公的統計と研究資料を基に全3回で検証します。
- 第1回: 「三流大学でも卒業すれば勝ち」は本当か? 大卒の給料に隠れた落とし穴【第1部】
- 第2回: 学費531万円の裏に「消える給料」1,043万円!? 大学進学は何歳で元が取れるのか【第2部】
- 完結編: Fラン大学卒と高卒の優等生、40年後に笑うのはどっちだ?【完結編】
ちょっと分かりにくい用語
- 求人倍率
- 求人数を求職者数で割った値。4.12倍なら求職者1人に対して求人数が約4.12人分あるという意味だが、全員に希望条件の求人が4件以上あるわけではない。
参考資料
- 厚生労働省「令和7年度 高校・中学新卒者の求人・求職・就職内定状況(令和8年3月末現在)」/2026年5月公表、高卒求人倍率4.12倍
- 文部科学省「令和7年度大学等卒業者の就職状況調査(4月1日現在)」/2026年5月22日公表
- 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和5年3月卒業者)」/2026年10月23日公表、学歴別・事業所規模別離職率
- 電気技術者試験センター「電気工事士の資格概要」/受験資格・業務範囲
- 厚生労働省「令和7(2025)年雇用動向調査結果の概要」/転職入職者の賃金変動
- 島一則「大学ランク・学部別の大学教育投資収益率についての実証的研究」『名古屋高等教育研究』第21号/2021年、大学ランク別の期待収益率
- 日本私立学校振興・共済事業団「令和8(2026)年度 私立大学・短期大学等入学志願動向」/2026年8月、入学定員充足率
- 文部科学省「令和7年度 学生の中途退学者・休学者数等の調査結果」/2026年10月16日公表、大学の年間中退者数と割合
- 文部科学省「令和7年度 私立大学等の学生納付金調査結果」/40年間の経済比較モデルに用いた学費の基礎資料
- 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」第3表/高卒者の年齢別賃金・機会費用の基礎資料
