アスワングの正体は生物ではない? フィリピンで数百年消えない怪物を調べた

フィリピンには、何百年も恐れられてきた怪物がいる。

その名はアスワング(Aswang)

吸血鬼のように血を吸う、人間の内臓を食べる、犬などの動物に姿を変える、普通の人間として村に紛れ込む――。話だけ聞けば、かなり強烈なUMAである。

ところが調べていくと、奇妙な問題にぶつかる。

アスワングには、そもそも「これがアスワングだ」という姿がない。

何百年もいるのに、姿が決まっていない

アスワングは最近ネットで生まれた都市伝説ではない。スペイン統治時代の17世紀には、すでにフィリピン各地でアスワングに相当する怪異への信仰が記録されている。
ここまではUMA好きには嬉しい話かもしれない。
しかし問題はその先だ。

地域によって、吸血型、死体を食べる型、魔女型、動物へ変身する型など性質がまるで違う。
つまり、未知生物を一種類探しているつもりが、最初から複数の怪異をひとまとめにしていた可能性が高い。

ビッグフットなら「巨大な類人猿らしきもの」という最低限の共通点がある。しかしアスワングには、それすらない。

目撃談はある。でも証拠が増えない

現代でも「アスワングを見た」「夜中に家の周囲にいた」といった証言は存在する。

ところが、長い歴史のわりに決定的な写真、遺体、骨格、DNA、捕獲個体などは確認されていない。

UMA好きなら「だから未知生物なんだ」と言いたくなるところだが、何百年も人間の生活圏に現れる大型生物なら、そろそろ何か一つくらい置き土産があってもよさそうである。

捕まらないというより、最初から捕まえる対象ではなかったのではないか。

夜の動物が怪物になった可能性

アスワング伝承には、夜中に「ティクティク」という不気味な音が聞こえるという話がある。

しかしフィリピンには当然ながら、夜間に活動する鳥、コウモリ、犬などがいる。

電灯も少なかった時代、暗闇から聞いたことのない声が聞こえ、動物らしき影が走れば、「何かいる」と考えても不思議ではない。

そこへ子どもの頃から聞いてきたアスワングの話が加わる。

先に怪物のイメージを知っているから、正体不明のものがアスワングに見える。

これは怪異の目撃談では珍しくない構造である。

病気まで怪物を作ったのか

さらに興味深いのが、アスワングの本場として知られるパナイ島周辺に、X連鎖ジストニア・パーキンソニズムという珍しい遺伝性神経疾患が多く確認されていることだ。

この病気では、筋肉のねじれや不随意運動などが現れることがある。

もちろん、この病気がアスワングの正体だと証明されたわけではない。

ただし医学知識のなかった時代に、突然身体を大きくねじらせたり、普通とは違う動きをする人を見れば、「何かに取り憑かれた」「人間ではない」と解釈された可能性はある。

一番怖いのは「普通の人間」だった

そしてアスワングが他のUMAと決定的に違うのがここだ。

伝承では、アスワングは昼間には普通の人間として生活している場合がある。

つまり山奥に怪物を探しに行く必要がない。

「隣に住んでいる人がアスワングかもしれない」のである。

実際、フィリピンでは特定の人物が地域社会からアスワングと呼ばれるケースまで研究対象になっている。

変わった生活をしている人、病気の人、孤立している人、よそ者。

そこに噂が加われば、「あの人は夜になると怪物になる」という物語が成立する。

これはUMAというより、魔女狩りや狐憑きに近い。

何が出てもアスワングにできてしまう

アスワングが数百年も生き残った最大の理由は、この曖昧さかもしれない。

空を飛べばアスワング。犬のような姿でもアスワング。血を吸ってもアスワング。人間の姿でもアスワング。

反証しようとすると設定が逃げる。

「犬だったのでは?」と言えば、「犬に変身したアスワングだ」。

「普通の人だった」と言えば、「昼間は人間に化けている」。

これでは生物学的に正体を特定するのはほぼ不可能である。

怪物は森ではなく、人間社会にいた

アスワングをUMAとして追いかけると、「証拠が出ない謎の怪物」という話になる。

しかし民俗や医学、地域社会まで含めて見ると、別の姿が浮かんでくる。

夜の動物、説明できなかった病気、人間への疑い、村の噂、古い伝承。そして映画やテレビによる再生産。

それらが何百年も積み重なり、一つの巨大な怪物像を作った可能性がある。

だから捕まらない。

捕まえるべき一匹の生物が、最初から存在しなかった可能性があるからだ。

UMAを探していたはずなのに、最後に見つかったのは未知動物ではなかった。

正体不明のものを怪物に変えてしまう、人間社会そのものだった。

そう考えるとアスワングは、「いる・いない」で終わるUMAより、少し厄介で、ずっと面白い。

【編集者が思うこと】

世界中が発展して、「先進国・発展途上国」なんて分け方も古く感じる。でも、アスワングを今も本気で恐れる文化を見ると、どこか昔の“発展途上国らしさ”を感じてしまう。ただ日本だって、お守りを買い、厄年を気にし、幽霊を怖がる。近代化しても迷信は消えない。案外、人間ってそこだけは進歩しないのかも。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です