金正恩死亡説の翌日、北朝鮮の42サイトが次々ダウン!?――「32時間停止」の真相【第2部】

金正恩死亡説の翌日、北朝鮮の42サイトが次々ダウン!?――「32時間停止」の真相【第2部】

2026年10月20日午前11時ごろ、北朝鮮の政府機関や国営メディアのウェブサイトが、次々と閲覧できなくなった。

外務省、朝鮮中央通信、労働新聞などが影響を受け、韓国メディアが確認した主要サイトは42。しかも、その前日には金正恩総書記の死亡説が海外で拡散していた。

最高指導者の死亡説。その直後に国家の情報発信サイトが一斉にダウン。まるで昭和のスパイ映画のような話である。

ところが、接続記録を追ってみると、見出しの「32時間停止」からして少し違っていた。

実際には32時間ずっと停止していたわけではない。そして米国企業の通信分析はサイバー攻撃説を強めたが、死亡説との関連や攻撃者の正体までは示していなかった。

一体、北朝鮮のネットで何が起きていたのか。


北朝鮮の主要ウェブサイトで発生した断続的な接続障害を象徴する、AI生成の通信監視室イラスト
AI生成によるイメージ。北朝鮮の海外公開サイトで発生した接続障害を象徴的に描いたもので、実際の監視室や職員、障害画面を再現したものではありません。

「32時間停止」は本当か? 接続記録から計算してみた

韓国の聯合ニュースは10月21~22日、北朝鮮の主要42サイトについて接続状況を報じた。

その記録を時刻順に並べ直すと、こうなる。時刻は日本と同じUTC+9である。

日時 確認された状態
10月20日 11時ごろ 複数サイトで障害発生
20日 19~20時ごろ 約8時間の不調後、一時復旧
20日 23時ごろ 再び接続障害
21日 日中 閲覧不能と短時間の復旧を反復
21日 19時ごろ 安定した接続に復旧
22日 17時30分 主要42サイトの安定状態を確認

20日午前11時から21日午後7時までを計算すると、24時間+8時間=32時間。

しかし、この間には一時復旧もあった。21日に正常なアクセスが確認されたのは11回で、1回あたり約1~18分だったという。

32時間とは障害発生から安定復旧までの経過時間であり、42サイトすべてが32時間連続で停止したという意味ではない。

接続確認は観測時点ごとの記録なので、各サイトの正確な累計停止時間までは算出できない。ここを混同すると、障害の規模を実際以上に大きく伝えてしまう。

ベトナム、フィリピン、ベネズエラから大量通信!?

10月23日、ロイター通信が新しい分析を報じた。

米国のネットワーク監視企業Kentikのダグ・マドリー氏によると、障害が始まった20日午前11時ごろ、北朝鮮へ向かう大量の異常な通信が同時に観測された。

通信の送信元として挙がったのは、ベトナム、フィリピン、ベネズエラなど。複数の場所から通信を大量に送り付け、接続先を利用しにくくするDDoS攻撃の特徴と一致していた。

Kentikはサイバー攻撃による障害とみている。ただし、同社が分析したのは北朝鮮に向かう通信の一部で、攻撃者そのものは特定できていない。

ここで一つ注意したい。

「ベトナムから通信が来た」と「ベトナム政府が攻撃した」は全く違う。

乗っ取られたパソコンやサーバーが攻撃に使われることもある。通信の出発点と、それを命令した人物・組織の所在地が同じとは限らないのだ。

障害発生当初には、北朝鮮の不安定な電力供給や通信設備の故障も原因候補として指摘されていた。23日の技術分析でDDoS説は強まったが、全設備の障害原因が解明されたわけではない。

42サイトが止まっても、北朝鮮という国家は止まらない


北朝鮮の海外向けインターネットと国内の情報ネットワークの違いを、青と赤の通信設備で表現したAI生成イメージ
AI生成による概念図。海外公開サイトと国内情報ネットワークの違いを象徴したもので、北朝鮮の実際の通信設備、配線、政府施設の配置を示すものではありません。

今回止まったのは、主に北朝鮮の国別ドメイン「.kp」を使う、海外から閲覧できるサイトだった。

一方、北朝鮮には「光明(クァンミョン)」と呼ばれる国内向けの情報ネットワークも存在する。一般国民が自由に世界のウェブサイトを閲覧できる仕組みではなく、国内情報と外部インターネットは厳しく区別されている。

さらに、党・軍・政府の機密通信が外部公開サイトと同じ設備で運用されているという証拠もない。

つまり、外から朝鮮中央通信のサイトを開けなくても、平壌の政府機関や軍の指揮系統まで停止したとは言えない。

逆に、42ものサイトが同時に影響を受けたのはなぜか。

聯合ニュースは、北朝鮮の海外向けサイトが共通の通信設備や回線に依存しており、一か所の問題が多数のサイトに波及する可能性を紹介している。

専門媒体NK Newsは、中国系通信事業者に加え、ロシア系事業者などを経由する接続経路も報告している。したがって「中国との一本の回線だけで、北朝鮮の全通信が動いている」と単純化するのも正確ではない。

42サイトの同時障害から分かるのは、海外向け情報発信に共通の弱点がある可能性であって、国家の内部通信網が丸ごと停止したという事実ではない。

2014年にもネットが止まった。あの時は9時間31分だった

北朝鮮の大規模ネット障害は今回が初めてではない。

2014年12月22~23日、ソニー・ピクチャーズへのサイバー攻撃をめぐる米朝間の緊張が高まるなか、北朝鮮のインターネット接続が大規模に途絶えた。

当時、ネットワーク監視企業Dynが報告した停止時間は9時間31分。外部からの攻撃も疑われたが、誰が障害を引き起こしたのかは確定しなかった。

単純に32時間と9時間31分を比べれば、今回の方が約3.4倍長い。

だが、この比較には落とし穴がある。2014年の9時間31分は連続した大規模な接続停止時間。2026年の32時間は、障害と復旧を繰り返した期間なのだ。

数字は比較できても、同じ意味の数字ではない。今回の障害が2014年より3.4倍深刻だったとは言えない。

金正恩死亡説との関係は? 妹や娘が国を動かしていたのか

死亡説は10月19日ごろから拡散し、ネット障害は翌20日午前11時ごろに始まった。時系列上は隣り合っている。

しかし、障害が死亡説を隠す目的で起こされたとか、指導部の権力争いと関係していたという証拠はない。

しかも10月23日、韓国の国家情報院は死亡説を虚偽と判断した。

妹の金与正氏は、障害と同じ時期に軍事境界線付近の要塞化工事を視察していた。一方、娘のジュエ氏は、19日の衣料品・履物展示会に金正恩氏と同行したと報じられている。

ただし、こうした活動は、妹や娘が最高指導者の権限を引き継いだ証拠ではない。韓国の国家情報院も、金与正氏の国境視察だけで政治的地位が変わったとは判断していない。

さらに10月25日、北朝鮮の朝鮮中央通信は、金正恩氏が前日の24日に中国・丹東を訪問したと報じた。金与正氏も同行しており、金正恩氏本人による外交活動が継続していることを示す新たな材料となった。

外国が北朝鮮の通信障害を見て、直ちに強い外交要求を突き付けられる立場になったとも言えない。海外公開サイトの障害と、軍事力・核戦力・外交交渉力は別の問題だからだ。

結局、死亡説と通信障害が同じ週に起きたことは確認できる。しかし、両者を結び付ける証拠は現時点で見つかっていない。

本当に妙なのは、障害の説明が外からしか出てこないこと

北朝鮮は衣料品展示会の展示数を細かく公表する一方、今回の大規模なウェブ接続障害について、少なくとも10月23日までに確認した報道では、原因を説明する公式発表を行っていない。

ただし、説明がないことをもって、政府が何かを隠していると証明できるわけではない。

今回の原因究明を進めたのは、国外の通信監視企業や韓国の報道機関だった。北朝鮮の発表を待つだけでは、通信の実態が分からなかったのである。

ちょっと分かりにくい用語

DDoS攻撃
多数の端末などから大量の通信を集中させ、ウェブサイトや通信設備を利用しにくくする攻撃。情報の盗み取りやシステム内部への侵入とは別の現象。

【編集者が思うこと】

金正恩死亡説の翌日に42サイトがダウン。こんな話を聞けば、そりゃ何か裏があるんじゃないかと思う。昭和の怪しい雑誌なら、間違いなく表紙を飾る話だ。

だが、俺が今回引っかかったのは「32時間」という数字だった。詳しく追えば、つながったり切れたりしている。32時間まるまる真っ暗だったわけじゃない。それだけでも印象が変わる。

それに、外向けのサイトが止まったからといって、妹や娘が司令室で大騒ぎしていたとは限らない。むしろ外から見える窓口と、本当に権力を動かす場所がどれだけ離れているのか。その方が気になる。

国家の情報は厳しく管理しているのに、その国家のネット障害を調べているのは外国企業。何とも皮肉な構図である。

結局、ネットが止まったことより、何が止まり、何が止まっていないのかを外部から確かめにくい仕組みの方が、よほど厄介なのかもしれない。

※本記事は2026年10月24日までの通信障害に関する公開情報を基礎とし、25日に確認された金正恩氏の外交動静を追記した。DDoS攻撃を示す観測、死亡説、後継問題をそれぞれ区別して記述した。攻撃者や死亡説との因果関係は確認されていない。

金正恩死亡説・全3回

世界に拡散した金正恩死亡説。その発信源と海外報道、北朝鮮の42サイトに発生した通信障害、そして海外と日本のメディアの報道姿勢まで。3つの視点から死亡説の裏側を検証します。

参考資料

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