運転席から助手席を倒せた!? 2代目プレリュード「ナンパ装備」の正体【第1回】

運転席から助手席を倒せた!? 2代目プレリュード「ナンパ装備」の正体【第1回】

1982年11月、ホンダから登場した2代目プレリュード。低いボンネットにリトラクタブルヘッドライト、流れるような2ドアボディ。昭和の若者を夢中にさせた、いわゆる「デートカー」の代表格である。

ところが、このクルマには妙な装備があった。運転席に座ったまま、助手席の運転席側に設けられたレバーで背もたれを操作できるという仕組みだ。

いつしか「スケベレバー」とまで呼ばれ、ナンパのための装備だったという伝説が広まった。しかし、ホンダは本当にそんな目的で作ったのだろうか。

2代目ホンダ・プレリュードを題材にした前席と後席のAI生成イラスト
2代目プレリュードの室内を題材にしたAI生成イメージ。シート形状などを参考資料から再構成したもので、レバーを含む部品配置や内装の細部は実車と一部異なります。

実在した「スケベレバー」。いったい何を操作したのか

まず、この装備は単なる都市伝説ではない。『Motor-Fan』が2022年に取材した1984年式プレリュードXXの実車写真には、助手席の運転席側に設けられた操作レバーが写っている。

助手席のサイドサポート部分、つまり運転席との間にあるレバーだ。ドライバーが助手席のドア側まで身を乗り出さなくても、背もたれを操作できる位置にある。

ここが重要で、レバーがあるのは助手席のドア側ではなく、前席2脚の間だ。実車の位置関係とレバーの形状は、Motor-Fanの1984年式プレリュードXXの実車取材記事で確認できる。

しかし、ここでひとつ引っかかった。

運転席から操作できることと、ナンパのために設計されたことは、まったく別の話ではないか。

旧車専門誌『Nostalgic Hero』も、運転席側から操作できる助手席リクライニングレバーを、このクルマの特徴的な装備として紹介している。

では、なぜわざわざ助手席の内側にレバーを設けたのか。

2ドアクーペで後席に人を乗せる場合、助手席の背もたれを前に倒せば、乗り降りのための空間を作れる。ドライバーが自分の席から助手席を操作できれば、助手席側から乗り込む人を手助けできるわけだ。

後席に置いた荷物の出し入れにも便利だったと考えられる。ただし、これが当時のホンダによる正式な開発目的だったかどうかは、今回確認した発売資料だけでは断定できない。

運転席の男性が助手席内側の操作レバーに手をかける場面を描いたAI生成イラスト
運転席から助手席の背もたれを操作する様子を描いたAI生成イメージ。実車のレバーの詳細位置・形状や、シートの可動角度・機構を正確に再現した説明図ではありません。

背もたれは前に倒す? 後ろに倒す?

さらに調べると、紹介記事によって説明に違いがあった。後席への乗降用として「前へ倒す」と説明する記事がある一方、運転席から助手席を「後ろへ倒す」という、デートカーらしい使い方を紹介する記事もある。

ここは混同したくない。確認できたのは、運転席側から助手席の背もたれを操作できるという事実だ。後席への乗降を助ける前倒し機能と、座っている人が背もたれを後方へ倒すリクライニング機能は、目的が異なる。

同じレバーで両方の操作がどこまで可能だったのか、1982年登場時の2代目全車に共通する詳細な機構については、今回確認できた資料だけでは断定できない。

興味深いことに、後年のオーナーによる取扱説明書・部品表の調査では、プレリュードの同種のレバーについて「後席への乗降」の説明があり、部品名が「ウォークイン・ノブ」と記載されていたという。

ただし、この報告で示された部品番号を1982年登場の2代目AB型へそのまま当てはめることはできない。似た装備でも、世代や車種が異なれば機構まで同一とは限らないからだ。

そして、今回確認したホンダの1982年発売資料にも、ナンパ目的を示す記述は見当たらなかった。もちろん、当時の社内開発資料すべてを調べたわけではないため、設計者の意図まで断定はできない。

実在したのは、運転席側から助手席を操作できる機構。ナンパ専用という解釈を、メーカーの設計意図として扱う根拠は確認できない。

ソアラやレパードではなく、なぜプレリュードだったのか

レバーの話も面白いが、俺が気になったのはもうひとつ。あの時代、豪華なソアラやレパードもあったのに、なぜプレリュードが若者の憧れになったのか。

まずは、2代目プレリュード登場前後の代表的な3車を、メーカー資料の寸法で比較してみた。

車種・仕様 全長 全高 駆動方式
プレリュード XX(1982年) 4,295mm 1,295mm FF
ソアラ 2000VX(1981年) 4,655mm 1,360mm FR
レパード ターボSGX(1982年) 4,630mm 1,345mm FR

※各メーカー資料の代表仕様。年式・グレードを統一した比較ではない。

プレリュードはソアラより全長で360mm短く、全高は65mm低い。レパードと比べても335mm短く、50mm低い。

さらに価格を見よう。1982年発売時のプレリュードXXは東京地区で171万8,000円(5MT)。一方、1981年発売時の初代ソアラ2000VXは226万8,000円(5MT)だった。

その差は55万円。ソアラ2000VXに対し、プレリュードXXは約24.3%安い計算だ。

ただし、ソアラにも166万2,000円の廉価グレード2000VIが存在した。こちらは逆に、プレリュードXXより5万6,000円安い。すべてのソアラがプレリュードより高かったわけではない。発売年も装備も異なるため、単純な優劣比較にはできない。

それでも、装備の充実したグレード同士の価格差と車体寸法からは、両車の性格の違いが見える。直列6気筒を積む高級FRクーペに対し、プレリュードは軽快なFFレイアウトと低いスタイルで勝負したのだ。

低いボンネットは、見栄だけでは作れなかった

2代目プレリュードの全高はわずか1,295mm。しかもホンダは、単に屋根を低くしただけではない。開発時には、フロントフードをスーパースポーツ並みに低くするという社内目標があった。

FF車のエンジンルームにはエンジン、変速機、ステアリング機構などが集中する。そのうえホンダは、走りを重視してフロントにダブルウイッシュボーンサスペンションを採用した。

これらを低いボンネットの下に収めるため、エンジンとサスペンションの設計を徹底的に詰めた。結果として生まれたのが、リトラクタブルヘッドライトを備えた、あの薄く精悍なフロントマスクだった。

見た目は華やかなデートカーでも、中身にはホンダらしい技術屋の執念が詰まっていたのである。

若者が買ったのは馬力だけではなく、助手席のある未来だった

2代目プレリュードが発売された1982年は、まだ一般にいうバブル景気の始まる前。ホンダの国内月販計画は2,000台だった。

1987年には3代目へ進化し、流麗なスタイルを引き継ぎながら、操舵角に応じて後輪も曲がる4WS装備車まで設定する。こちらの国内月販計画は4,000台。ホンダがこのスペシャリティカーに寄せた期待も大きくなっていた。

ソアラの豪華さ、レパードの上級感。それとは異なるプレリュードの魅力は、普段の移動を特別な時間に変えそうなスタイルと、先進技術を備えたクルマを自分でも手に入れられるという期待だったのではないか。

あの助手席レバーは、そんな期待が少々妙な方向へ膨らんだ、昭和の自動車文化を象徴する装備だったのかもしれない。

【編集者が思うこと】

しかし、よく考えると妙な話だ。ホンダの技術者が苦労してボンネットを低くして、12バルブエンジンまで開発したというのに、何十年たっても語られるのは助手席を倒すレバーだったりする。

しかも、後席への乗降を助ける親切な装備だったという説明まである。そう聞くと、ますます可笑しい。

俺は、プレリュードに乗ったからモテた、という話を丸ごと信じる気はない。ソアラを買っても、レパードを買っても、モテない奴はモテないだろう。そこはクルマの性能表には載っていない。

ただ、あの薄いボンネットの向こうに助手席へ乗ってくれる誰かを思い描いた若者は、きっと少なくなかったと思う。

結局、プレリュードが売っていたのは、速さや装備だけではなく、そのクルマに乗れば自分の青春も少し格好よくなる、という期待だったのではないだろうか。

次回は、そんな2代目プレリュードが1982年にどのように登場し、なぜ若者を魅了したのか。初代との違い、価格、装備、販売実績から追いかけたい。

プレリュード――昭和のデートカー伝説・全4回

助手席の操作レバーにまつわる伝説から、2代目の人気、3代目の4WS、ソアラやレパードとの比較まで。4つの視点からホンダ・プレリュードの魅力と時代背景を検証します。

  • 第1回: 運転席から助手席を倒せた!? 2代目プレリュード「ナンパ装備」の正体【第1回】
  • 第2回: 136万円のプレリュードは受注生産だった!? 2代目が初代の約4倍売れた謎【第2回】 公開予定
  • 第3回: 準備中 公開予定
  • 完結編: 準備中 公開予定

参考資料

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