1982年11月26日、ホンダの2代目プレリュードが発売された。リトラクタブルヘッドライトを備えた低いノーズに、伸びやかな2ドアクーペのスタイル。のちに「デートカー」の代表格となる一台である。
しかも発売時の東京地区価格は136万円から。高級スペシャリティカーのソアラやレパードとは、少し違う世界にいた。
ところが当時の価格表を調べると、妙な事実が見つかった。136万円の最廉価モデルは受注生産。装備の充実した最上級XXは171万8,000円だった。
それでも2代目の国内累計販売台数は、専門誌の集計で初代の約4倍。若者を魅了した理由は、単純な安さだけでは説明できそうにない。

初代(左)と2代目(右)のホンダ・プレリュードを比較したAI生成イラスト。デザインの変化を表現した創作画で、グリルやホイールなどの細部と車体の描画比率は実車の完全な再現ではない。
初代116万円、2代目136万円。それでも人気が4倍になった?
初代プレリュードは1978年11月25日に発売された。ホンダが提案したのは「スペシャル・プライベート・カー」。家族全員の実用車ではなく、自分の時間を楽しむためのクーペだった。
当時のホンダ公式価格表によると、初代の最廉価グレードXTは東京地区116万円(5MT)。一方、1982年の2代目XCは136万円(5MT)である。
つまり、最も安いグレード同士では20万円、約17.2%の値上がりだ。値下げして大衆化したわけではなかった。
両世代の発売時資料を並べてみよう。
| 比較項目 | 初代(1978年) | 2代目(1982年) |
|---|---|---|
| 最廉価価格・東京 | XT:116万円 | XC:136万円 |
| 上級車の代表価格・東京 | XE:140万円 | XX:171.8万円 |
| 全長 | 4,090mm | 4,295mm |
| 全幅 | 1,635mm | 1,690mm |
| 全高 | 1,290mm | 1,295mm |
| ホイールベース | 2,320mm | 2,450mm |
| 排気量 | 1,750cc | 1,829cc |
| 最高出力・5MT | 90PS | 125PS |
※ホンダ1978年11月24日・1982年11月25日発表資料から独自整理。価格は発売時の東京地区5MT車で、装備・グレードは同一条件ではない。最高出力も各発売時のメーカー公表値。
全長は205mm、全幅は55mm拡大し、最高出力は35PS増加。単に装備を豪華にしただけではなく、車格も走りの性能も引き上げていた。
さらに販売実績を見ると、『CAR and DRIVER』が2025年に掲載した国内累計販売台数は、初代4万1,190台、2代目16万6,904台。
2代目は初代の約4.05倍、台数にして12万5,714台も多く売れた計算になる。
両世代とも約4年間のモデルライフを持つが、年式別の販売推移や購入者の年齢構成までは、この数字だけでは分からない。とはいえ、国内での存在感が大きく変わったことは確かだ。
あれほど低いのに、全高は初代より5mm高かった
2代目プレリュードと聞けば、真っ先に思い浮かぶのは異様に低いボンネットだろう。リトラクタブルヘッドライトを閉じた姿は、初代とはまるで別のクルマだった。
ところが諸元表では、初代の全高1,290mmに対して2代目は1,295mm。実は5mm高くなっている。
これは面白い。車体全体を低くしたから、低く見えたわけではないのだ。
全幅は55mm拡大し、ホイールベースも130mm延長。そのうえでフロントフードを徹底的に低くし、薄いノーズと幅広いボディを組み合わせた。
ホンダの公式開発史によれば、低いボンネットにフロントのダブルウイッシュボーンサスペンションを収めるため、技術者たちは独自のアーム形状とレイアウトを開発している。
つまり2代目の魅力は、見た目だけのローダウンではない。低いボンネットを成立させる技術そのものが、あのデザインを生んでいた。
数字を並べると、初代から2代目への変化が単なるモデルチェンジではなかったことが分かる。
サンルーフは2代目の発明ではなかった
プレリュードの人気装備といえば、電動サンルーフも外せない。屋根を開けて風を感じる。当時のスペシャリティカーにとって、実用性よりも気分の良さを重視した装備だった。
しかし、これも初代からの伝統だった。
1978年の初代プレリュードは、国産車で初めて電動式サンルーフを標準装備した。ただし全車ではなく、Eタイプは除外されている。
さらに1980年1月には、従来のスチール製に加えて、電動スモークドガラス・サンルーフ仕様車を追加。ホンダ公式資料によると、価格はスチール製仕様より2万円高かった。
ガラスルーフなら閉めていても光が入り、スライド式サンシェードで日差しを調整できる。雨の日でも空を感じられるというわけだ。

2代目プレリュードの電動スモークドガラス・サンルーフを題材にしたAI生成イラスト。ガラスの形状や寸法、車体細部は実車の正確な機構図ではない。
2代目でも、この電動スモークドガラス・サンルーフは重要な装備として受け継がれた。ホンダの旧型車公式アーカイブにはXC、XZ、XXそれぞれの主要装備として掲載されている。
ただし、同アーカイブは1987年3月時点の仕様を示すため、1982年発売時の細かな装備差をすべて証明するものではない。
それでも、プレリュードが初代から一貫して「走るためだけではない快適さ」を大切にしていたことは、当時の公式資料から読み取れる。
136万円のXCは、本当に若者の味方だったのか
では、改めて1982年の価格表を見てみよう。
| 2代目・発売時グレード | 東京地区価格(5MT) |
|---|---|
| XC | 136万円 |
| XZ | 152万円 |
| XX | 171万8,000円 |
XCとXXの差額は35万8,000円。XCを基準にすると約26.3%も高い。
しかもホンダの発売資料には、XCは受注生産と明記されている。つまり136万円という価格は事実だが、それを当時の一般的な売れ筋価格と考えるのは早計だ。
さらに4速ホンダマチックは7万5,000円高、XZ・XXに設定された4輪アンチロックブレーキ装備車は13万円高。XXの液晶デジタルメーター装備車も4万円高だった。
憧れの装備を選べば、136万円からはずいぶん離れていく。
では高価なソアラやレパードでは駄目だったのか。
初代ソアラの1981年発売時価格には、166万2,000円の2000VIも存在する。これはプレリュードXXの171万8,000円より安い。
日産の初代レパードも、1800ccから2800ccまでを揃えた上級スペシャリティカーで、2ドアだけでなく4ドアハードトップまで用意していた。
つまり、プレリュードを選んだ人が、必ずしもソアラやレパードを買えなかったとは言えない。3車は価格帯が一部重なりながら、車格もスタイルも違っていた。
購入者への当時の調査がない以上、「若者はソアラを求めていなかった」と断定はできない。しかし、豪華で大きなFRクーペとは別の価値を、ホンダがFFのプレリュードで提示したことは、諸元と価格から見えてくる。
バブル前夜、若者が欲しかったのは別の種類の格好良さだった
2代目プレリュードが登場した1982年は、一般にいうバブル景気より前である。
ソアラが上級車としての豊かさを演出し、レパードが先進装備と高級感で勝負する一方、プレリュードは薄いノーズ、開放的なサンルーフ、軽快な走りを組み合わせた。
大排気量の6気筒でも、豪華な大型車でもない。1.8Lの直列4気筒とFFで、十分に特別なクルマを作れることを証明したのである。
その後、1987年の3代目プレリュードは4WSという新技術を投入し、専門誌集計では2代目を上回る国内累計17万5,634台を記録する。
しかし、プレリュードがデートカーとして認識される土台を作ったのは、やはり1982年の2代目だったのではないか。
初代が提案した「自分のためのクルマ」を、2代目はひと目で欲しくなる形に変えた。国内販売台数が約4倍になった背景には、その商品性の変化があったと考えられる。
【編集者が思うこと】
今回、俺が一番引っかかったのは136万円という価格だ。
安いじゃないか、と思って調べたら受注生産のXC。さらにXXになると171万8,000円。こりゃ「安く買えたから売れた」で片付けられない。
しかも、初代より全高は5mm高いのに、見た目は圧倒的に低い。こういう数字のひっくり返り方が、旧車を調べていて一番面白い。
俺は、当時の若者がみんなソアラやレパードに憧れて、その代用品としてプレリュードを買ったとは思えない。
そもそもソアラの大きなボディや豪華さと、プレリュードの薄っぺらいノーズでは、格好良さの方向が違う。
結局、若者が欲しかったのは、値段の高いクルマそのものではなく、自分が少し格好よく見えるクルマだったんじゃないか。
もちろん、プレリュードを買ったからモテるという保証はない。だけど、あの低いボンネットを見て、助手席に誰かを乗せて走りたくなる気持ちは分かる。
今となっては、そういうクルマの選び方自体が、ちょっと贅沢だったのかもしれない。
次回は、1987年登場の3代目プレリュード。機械式4WSを中心に、ホンダがデートカーへ投入した本気の技術を追いかける。
プレリュード――昭和のデートカー伝説・全4回
助手席の操作レバーにまつわる伝説から、2代目の人気、3代目の4WS、ソアラやレパードとの比較まで。4つの視点からホンダ・プレリュードの魅力と時代背景を検証します。
- 第1回: 運転席から助手席を倒せた!? 2代目プレリュード「ナンパ装備」の正体【第1回】
- 第2回: 136万円のプレリュードは受注生産だった!? 2代目が初代の約4倍売れた謎【第2回】
- 第3回: 準備中 公開予定
- 完結編: 準備中 公開予定
参考資料
- Honda(1978年11月24日)初代プレリュード発売資料 — 発売日、グレード別価格、電動サンルーフ、諸元。
- Honda「PRELUDE 1978.11」プレスインフォメーション — 初代の開発コンセプト「スペシャル・プライベート・カー」に関する当時の一次資料。
- Honda(1982年11月25日)2代目プレリュード発売資料 — XC・XZ・XXの価格、受注生産条件、車体寸法、装備、出力。
- Honda(1980年1月9日)プレリュードのガラス製サンルーフ仕様車追加 — スモークドガラスの構造、発売時期、2万円の価格差。
- Honda 旧型車アーカイブ・2代目プレリュード主要装備 — XC・XZ・XXなどの装備。1987年3月時点の資料。
- Honda「時代を先駆けてきたスペシャリティクーペ、PRELUDE」 — 初代・2代目の設計思想、低ボンネットとサスペンション開発史。
- Honda(1987年4月9日)3代目プレリュード発売資料 — 機械式4WSの採用と設定グレード。
- CAR and DRIVER(2025年10月5日)歴代プレリュード一気乗り — 初代から3代目までの国内累計販売台数と世代ごとの評価。
- トヨタ自動車75年史・初代ソアラ発売時資料(PDF) — 1981年のグレード別価格。
- 日産ヘリテージコレクション・レパード ターボSGX — 初代レパードの開発目的、車格と装備。
