タイムマシンができるなら未来人はもう来ているはず?――「誰も来ない」は不可能の証拠か

タイムマシンができるなら未来人はもう来ているはず?――「誰も来ない」は不可能の証拠か

タイムマシンの話になると、難しい相対性理論より先に、ずっと単純な疑問が浮かぶ。

「未来で本当にタイムマシンが発明されるなら、未来人がもう現在に来ていてもいいんじゃないか?」

西暦3000年でも1万年でもいい。過去旅行が観光旅行程度に普及した未来があるなら、恐竜絶滅、ピラミッド建設、歴史的事件、そして21世紀にも見物客が押し寄せそうなものだ。ところが現在まで、「未来から来た」と科学的に確認された人物はいない。これはタイムマシンが永遠に完成しない証拠なのだろうか。


現代の街に未来人らしき旅行者が紛れ込むイメージ

未来人が普通に旅行するなら、さすがに誰か捕まりそうだ

ここでは思考実験をしてみる。仮に西暦3000年から1万年まで過去旅行が利用され、その7000年間に「21世紀を見物する客」が1日たった1人いたとする。それだけでも延べ人数は約256万人になる。

もちろん架空の計算である。しかし数百万人規模で時間旅行者が来るなら、パスポートを落とす奴、交通事故を起こす奴、SNSに余計なことを書く奴くらい出そうだ。全員が完璧な秘密工作員とは考えにくい。

「未来人が誰も確認されていない」という事実は、自由な過去旅行を考えるうえでは確かに気味が悪い。

ホーキングは本当に「未来人だけのパーティー」を開いた

この発想を物理学者スティーヴン・ホーキングも実際に試している。2009年6月28日、ケンブリッジ大学で「タイムトラベラー歓迎パーティー」を開催した。料理やシャンパンを用意し、日時と場所まで指定した。

ただし招待状を公表したのはパーティーが終わった後だった。未来の人間なら後世で招待状を読み、時間を逆行して会場へ来られるはずだからだ。

結果、未来からの参加者は確認されなかった。さらに2013年にはRobert NemiroffとTeresa Wilsonが、Twitterなどインターネット上から「まだ公表されていない未来の情報を先に書いた人物」を探す研究まで行ったが、こちらも未来人は発見されなかった。

ただし研究者自身も認めている通り、これは時間旅行不可能の証明ではない。

誰も現れなかった未来人歓迎パーティーをイメージした無人の会場AI生成によるイメージです。実際のパーティー会場・時刻を再現したものではありません。

ところが「未来人が来ないタイムマシン」があり得る

ここで話がひっくり返る。

1988年、Michael Morris、Kip Thorne、Ulvi Yurtseverは、通過可能なワームホールが存在し維持できるという仮定のもとで、それを時間機械に変えられる可能性を論じた。ワームホールの二つの入口の一方を高速移動させるなどして時間の進み方に差を作れば、入口同士に時間差を持たせられるという考え方だ。

重要なのは、これはドラえもんのタイムマシンのような「西暦を入力すれば好きな年代へ飛べる装置」ではないことだ。

少なくともこの種の仕組みでは、ワームホールが存在し、二つの入口の間に時間差を作ったところから時間旅行経路が成立する。西暦3000年に初めて装置を作ったからといって、それだけで2026年や恐竜時代への入口が突然開くわけではない。

つまり「西暦1万年になっても未来人が2026年へ来ない」ことと、「未来で時間機械が一切作られない」ことは同じではない。

ワームホール型タイムマシンが装置成立以前には戻れない可能性を示す概念イメージワームホール型時間機械の考え方を簡略化した概念イメージです。実際の学術図を再現したものではありません。

アインシュタインの理論は、過去旅行を即座には追放していない

さらに厄介なのは、一般相対論の方程式には閉じた時間的曲線(CTC)と呼ばれる、自分自身の過去へ戻れるような時空構造を含む解が存在することだ。だから「相対性理論によれば過去旅行は絶対禁止」と言い切るのも正確ではない。

もちろん、数式上の解があることと、人間が装置を作れることは別問題である。ワームホールを開いたまま維持できるのか、必要とされる負のエネルギーを用意できるのか、量子効果が時間機械を破壊しないのか。未解決問題が山ほど残っている。

ホーキングは1992年、時間旅行が成立しそうになると量子的効果などがそれを阻止するのではないかという「時間順序保護仮説(Chronology Protection Conjecture)」を提唱した。要するに宇宙には「歴史を書き換えさせない安全装置」があるのではないか、という発想だ。

ただし名前の通り、これは現在も「仮説」である。量子重力が完全に理解されていない以上、最後の判決はまだ出ていない。

では「未来人がいない」は何の証拠なのか

調べる前は、「未来人を誰も見ていない。それで答えはほぼ出ている」と思いたくなる。

しかし実際には、未来人が来ない理由は複数考えられる。過去旅行そのものが不可能なのかもしれない。人類が発明する前に滅びるのかもしれない。装置が作れても巨大国家プロジェクト級で、観光客など利用できないのかもしれない。

そして物理学的に特に面白いのが、少なくともここで扱ったワームホール型の時間機械では、「作れるとしても、その時間機械が成立した時代より昔へは自由に行けない」という制約が出ることである。

未来人が来ないからタイムマシンは絶対に作れない――そう考えると簡単だが、物理学はもっと意地が悪い。「未来人が現代には来られないタイムマシン」なら、まだ逃げ道が残っている。

【編集者が思うこと】

最初は単純に「1万年後まで時間旅行ができるなら、一人くらい未来人が警察に捕まってるだろ」と思った。今でも、好きな年代へ自由に飛べる観光型タイムマシンなら、その疑問はかなり強いと思う。

ところが調べたら「タイムマシン完成以前には戻れないかもしれない」という、SFとしては地味なのに妙に納得できる逃げ道が出てきた。未来人が来ないことより、俺たちが“最初の入口がまだ作られていない時代に住んでいるだけ”だったら、その方がちょっと嫌である。

参考資料

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