日本には生活保護がある。
金がない。
仕事がない。
家もない。
それなら役所へ行って生活保護を申請すればいい。
理屈だけなら、そうなる。
しかも厚生労働省は現在、かなりはっきり案内している。
- 住むところがなくても生活保護は申請できる
- 必要な書類が揃っていなくても申請できる
- 施設に入ることへの同意は申請条件ではない
- 同居していない親族へ自分で相談してからでなければ申請できない、という制度ではない
それなのに、2026年になっても駅、公園、道路、河川敷などで暮らす人はいる。
制度があるのに、なぜ路上生活はなくならないのか。
調べてみると、「働かないから」「制度を知らないから」「プライドが高いから」という一言では、とても説明できない問題だった。

2026年、日本で確認されたホームレスは2,481人
厚生労働省は毎年、「ホームレスの実態に関する全国調査」を行っている。
2026年1月の調査で確認された人数は2,481人。
前年の2,591人から110人減少した。
内訳は男性2,190人、女性192人、性別不明99人。
都道府県別では大阪府803人、東京都507人、神奈川県391人で、東京都23区と政令指定都市だけで全国のおよそ8割を占めている。
長期的には減少している。
しかし、ゼロにはなっていない。
ただし「2,481人=家がない人の全員」ではない
ここは意外に重要だ。
厚労省のこの調査でいう「ホームレス」は、法律上、
公園、河川、道路、駅舎などを起居の場所として日常生活を送っている人を指す。
しかも調査方法は自治体職員などによる巡回・目視調査である。
つまり、
ネットカフェで寝ている。
24時間営業の店を転々としている。
知人宅を泊まり歩いている。
車中泊を繰り返している。
といった人は、この2,481人には基本的に含まれない。
厚生労働省自身も、路上生活者とは別に、終夜営業店舗や知人宅などで寝泊まりする人を「不安定居住者」として支援対象に挙げている。
つまり、街で見えるホームレスが減ったからといって、「住まいを失いかけている人」まで同じように減ったとは限らない。
ホームレスになる理由は「失業」だけではない
元の記事では、
仕事を失う。
貯金が減る。
家賃が払えなくなる。
ネットカフェへ行く。
最後に駅で寝る。
という流れを書いた。
こういうケースは確かに考えられる。
しかし、全員がこの一本道を通るわけではない。
厚労省が2023年にまとめたホームレス自立支援の基本方針では、2021年の生活実態調査をもとに、路上生活へ至った理由として、
- 仕事が減った:24.5%
- 倒産・失業:22.9%
- 職場の人間関係がうまくいかず仕事を辞めた:18.9%
などが挙げられている。
さらに病気やけが、家族関係、離別・死別など、複数の問題が重なっているケースがあると国自身が整理している。
「仕事を失ったからホームレスになった」というより、仕事、健康、家族、住居の問題が連鎖して最後に家まで失う。
そんなケースも多いわけだ。
健康を崩しているのに治療を受けていない人もいる
2021年の生活実態調査では、自分の健康状態を「あまりよくない・よくない」と答えた人が34.9%。
そのうち63.5%は治療を受けていなかった。
体調が悪い。
よく眠れない。
気分が落ち込む。
それでも仕事や住居、行政手続を同時に何とかしなければならない。
健康な状態で役所へ行き、書類を書き、説明を聞くのとは条件が違う。
制度を利用するためにも、ある程度の体力、判断力、行動力が必要になる。
ここが「制度がある」と「実際に制度へつながれる」の間にある壁の一つなのだろう。
住所がなくても生活保護は申請できる
ここは誤解が非常に多いところなので、はっきり書いておきたい。
住所がないから生活保護を申請できない、ということはない。
生活保護法では、居住地がない、または明らかでない人については、その人が現在いる場所を管轄する福祉事務所などが保護を実施する仕組みになっている。
厚生労働省も公式ページで、
「住むところがない人でも申請できます」
と明記している。
住民票を置く家がないから役所へ行けない、という制度ではない。
書類がないから申請できない、も違う
路上生活になると、身分証、通帳、健康保険関係の書類などを失っていることも考えられる。
すると本人は、
「書類が何もないから役所へ行っても無理だ」
と思うかもしれない。
しかし厚生労働省は、必要な書類が揃っていなくても生活保護の申請はできると案内している。
生活保護法施行規則でも、申請の意思を示している人について、実施機関は申請が速やかに行われるよう必要な援助を行わなければならないと定められている。
つまり、
「住所がない」「書類がない」だけで申請そのものを諦める必要はない。
「施設に入らないと生活保護を受けられない」わけでもない
これも重要なポイントだ。
路上生活者が生活保護を相談すると、必ず施設へ入れられる。
そう思っている人もいるかもしれない。
しかし厚労省は、
施設に入ることへ同意することが生活保護申請の条件ではない
と明記している。
もちろん、本人の健康状態や生活状況によって、一時的な宿泊施設や支援施設が提案される場合はある。
しかし、
「施設は嫌だ」=「生活保護そのものを申請できない」
ではない。
では、それでもなぜ申請しない人がいるのか
ここで「プライドが高いから」で終わらせるのは簡単だ。
確かに、
「まだ生活保護を受けるほどではない」
「自分は働いてきたのだから福祉に頼りたくない」
と考える人もいるだろう。
しかし、それだけではない。
考えられる理由は複数ある。
- 生活保護の制度を正しく知らない
- 住所がないと申請できないと思っている
- 書類がないと無理だと思っている
- 家族へ相談しなければならないと思っている
- 施設へ強制的に入れられると思っている
- 過去の行政や支援機関とのやり取りから相談を避けている
- 病気や疲労などで手続きを進める余力がない
- 長期間の路上生活で、生活を変えること自体への不安が強くなっている
もちろん、これが全員に当てはまるわけではない。
重要なのは、「生活保護があることを知っている=すぐ申請できる」ではないという点だ。

「生活保護を受けたことがある人」が再び路上へ戻る場合もある
もう一つ、「申請すれば全部解決する」とも言い切れない理由がある。
厚労省の基本方針では、一度路上生活を脱却したあと、再び路上生活へ戻る人がいることも課題として挙げられている。
住居を確保した。
生活保護につながった。
それで終わりではない。
健康、孤立、人間関係、家計管理、就労などの問題が残っていれば、再び住居を失う可能性がある。
だから現在の支援は、単に現金を渡すだけではなく、住居、就労、健康、家計、生活面を組み合わせて支援する方向になっている。
実は「生活保護になる前」に使える制度もある
ここは元記事より実用的にしておきたい。
家賃を払えなくなったからといって、いきなり
「生活保護か路上生活か」
の二択になるわけではない。
日本には生活困窮者自立支援制度がある。
厚労省によれば、仕事、住居、家計などに困っている人について、自立相談支援機関が相談を受け、状況に合わせた支援を行う。
たとえば、
住居確保給付金
離職などにより住居を失った人、または失うおそれが高い人について、一定の収入・資産などの要件を満たせば、一定期間、家賃相当額の支給を受けられる制度がある。
居住支援事業
すでに住む場所がない人や、ネットカフェなど不安定な住居で暮らしている人に、一定期間、宿泊場所や衣食を提供する支援もある。
家計・就労の支援
家計の立て直し、就労準備、仕事探しなども支援対象になる。
本当は駅で最初の一晩を過ごす前に、この段階でつながれる方がいい。
元記事で書いた「静かな転落」は、あくまで一つの例
それでも、元の記事で書いた場面は残しておきたい。
仕事を失う。
まだ貯金がある。
「来月には何とかなる」と思う。
しかし通帳の数字だけが減る。
家賃を滞納する。
友人にも親にも言えなくなる。
部屋を出て、最初はネットカフェへ行く。

そして財布の金が尽きた夜、駅で朝を待つ。
少し前まで自分も乗っていた始発電車から、会社員が次々と降りてくる。
一晩。
三日。
一週間。
そのうち雨を避ける場所、水道の場所、夜を過ごせる場所を覚える。
こうして「一時的な避難」が生活になっていく。
これは全員に共通する人生ではない。
しかし、普通の生活と路上生活の間に、巨大な壁が一本立っているわけではないという点は重要だと思う。
細かい問題が積み重なり、ある日気づけば住居まで失っている。

「安全網がある」ことと「自動的に助かる」ことは違う
ここまで調べると、最初の疑問への答えが少し見えてくる。
日本には生活保護がある。
生活困窮者自立支援制度もある。
住居確保給付金もある。
住む場所のない人への居住支援もある。
制度そのものは存在する。
しかし、安全網は人を自動的に拾い上げるエスカレーターではない。
本人が制度を知る。
相談窓口へつながる。
支援者が状況を把握する。
住居や医療など必要な支援を組み合わせる。
そこまでつながって初めて、安全網として機能する。
だから問題は、
「なぜ生活保護を受けないんだ?」
だけではない。
「なぜ生活保護や支援制度へつながる前に、家まで失ってしまうのか」
こちらを考えた方が本質に近い。
結論――ホームレスがいるのは「制度がないから」ではない
生活保護があるのにホームレスが存在する。
一見すると矛盾している。
しかし実際には、
- 失業
- 収入減
- 病気やけが
- 人間関係
- 家庭問題
- 住居喪失
- 制度への誤解
- 支援へつながる難しさ
などが重なって路上生活へ至る。
さらに、一度支援につながったあと再び路上へ戻るケースもある。
だから、
「生活保護があるのだからホームレスはいなくなるはず」
という考え方そのものが、少し単純すぎる。
むしろ大切なのは、家を失った人を救うことだけではない。
家を失う直前の人を、最初の一晩より前に見つけること。
ホームレス対策の本当の入口は、公園や駅ではなく、家賃を払えなくなった時点にあるのかもしれない。
【編集者が思うこと】
以前は私も、「生活保護があるんだから役所へ行けばいいのに」と単純に考えていた。
でも調べ直すと、住所がなくても申請できる。書類がなくても申請できる。施設へ入ることも申請条件ではない。
それでも路上生活が残っている。
となると問題は、制度の有無だけではない。
制度を知り、相談へ行き、支援につながる力まで失う前に、誰かが捕まえられるか。
ホームレス問題で一番怖いのは、「駅で寝る人」が突然生まれることではなく、そのかなり前から生活が壊れ始めているのに、外からはまだ普通に見えてしまうことなのだと思う。
