スタリオンはなぜ吸気バルブを1本休ませた? 1984年「DASH 3×2」200馬力の仕掛け

スタリオンはなぜ吸気バルブを1本休ませた? 1984年「DASH 3×2」200馬力の仕掛け

1984年6月、三菱スタリオンに200馬力の「2000ターボGSR-V」が加わった。搭載されたのは、2.0L直列4気筒SOHCターボの「シリウスDASH 3×2」。最高出力200PS、最大トルク28.5kgm。当時の国産2リッター車ではトップクラスの数字だった。

しかし、妙なのはエンジンの仕組みだ。1気筒に吸気バルブが2本、排気バルブが1本。それなのに低回転では吸気バルブを1本休ませるという。

馬力を稼ぎたいなら、最初から全部のバルブを動かせばいいのではないか? 調べると、この一見回りくどい仕掛けこそ、DASHの狙いだった。

145馬力から200馬力へ。実は二段階の進化だった

まず、スタリオンの出力変化を当時のカタログと三菱の公式車史から整理してみる。

登場 主な仕様 最高出力
1982年5月 2.0Lターボ 145PS
1983年6月 インタークーラーターボ 175PS
1984年6月 DASH 3×2ターボ 200PS

※国内仕様のメーカー公表値。いずれも当時のグロス表示で比較。

1982年から1984年までに55PS、約37.9%の向上。ただし、これはDASHだけの成果ではない。1983年には既にインタークーラーの追加などで175PSへ到達していた。

翌1984年のDASH化では、そこから25PS、約14.3%の上乗せ。最大トルクも従来の25.0kgmから28.5kgmへ14.0%増加した。

つまりDASHは、インタークーラー付きターボという既存の土台に、さらに高出力と扱いやすさを求めたエンジンだった。

3×2とは、3バルブを2段階で動かすこと

DASHは「Dual Action Super Head」の略。3×2は、1気筒あたり3本のバルブを2段階で作動させることを意味する。6バルブという意味ではない。

G63B型のDASHエンジンは、吸気バルブが小径29mmと大径37mmの2本、排気バルブが1本という構成だった。

作動域 吸気バルブ 狙い
低回転域 小径側1本 吸気の流れを強め、燃焼を安定させる
中・高回転域 小径+大径の2本 吸入空気量を増やし、高出力を得る

切り替えの目安は約2,500rpm。低回転では油圧式の弁制御機構によって大径側を休止させ、小径側だけを開閉する。吸気の流速を確保し、燃焼室内にスワールと呼ばれる渦を作るためだ。

回転が上がると、大径側のバルブも作動。高回転向けの開閉タイミングを持つバルブが加わることで、大量の空気を取り込めるようになる。

低回転ではあえて吸気の通り道を絞り、高回転では広げる。2本の吸気バルブには、最初から別々の仕事が与えられていた。


三菱シリウスDASH 3×2の低回転・高回転における吸気制御の違いをイメージしたエンジン断面イラスト
DASH 3×2の吸気制御をイメージした創作断面図。実機のバルブ径・配置・油圧機構を正確に再現したものではありません。実際は低回転時に小径吸気バルブのみ、中高回転域で大小2本が作動します。

この仕掛け、実は燃費エンジンの技術が先だった

さらに三菱の公式社史を調べると、1982年2月に発表されたミラージュ用「MDエンジン」が出てくる。

MDは、低負荷時に4気筒のうち2気筒の吸排気バルブを休止させる可変排気量エンジン。狙いは燃費の改善だった。

専門資料によれば、DASHではこのバルブ休止技術を、高回転側の吸気バルブを切り替える機構へ応用している。

ただし両者は同じ方式ではない。MDは気筒そのものを休ませ、DASHは全4気筒を働かせたまま吸気バルブの使用本数を変える。

燃料を節約するためのバルブ休止技術が、今度は200馬力を狙うエンジンにも使われた。 この発想の転用が面白い。

200馬力の秘密は、バルブだけではない

DASHエンジンは1,997cc。排気量1リッターあたりの最高出力を計算すると、200÷1.997=約100.2PS/L。1983年型の175PSでは約87.6PS/Lだから、同じ排気量で約14.3%高まったことになる。

しかし、この差をすべて3×2バルブ機構のおかげとするのは正確ではない。

当時の専門資料では、ターボの過給圧を通常と高過給の2段階で制御する仕組みや、吸気量の変化に合わせた電子制御燃料噴射の工夫も紹介されている。1983年に採用された空冷式インタークーラーも引き続き使用された。

バルブ機構だけを変更した比較試験の数値は今回確認できていない。したがって「3×2だけで25PS増えた」とは言えない。

最高出力200PSは、吸気バルブ、過給、燃料供給を組み合わせた結果と見るのが妥当だ。

スカイラインは205馬力。でもトルクでは逆転した

1984年といえば、日産スカイラインの「2000ターボインタークーラーRS」も忘れられない。こちらはFJ20ET型、2.0L直列4気筒DOHC4バルブターボで205PSを発揮した。

両車のメーカー公表値を比較すると、面白い違いが見えてくる。

項目 スタリオンGSR-V スカイラインRS
排気量 1,997cc 1,990cc
動弁機構 SOHC・3×2 DOHC・4バルブ
最高出力 200PS/6,000rpm 205PS/6,400rpm
最大トルク 28.5kgm/3,500rpm 25.0kgm/4,400rpm

※1984年型の国内メーカー公表値。最大トルクとその発生回転数は、それぞれのピーク値であり、全回転域の優劣を示すものではない。

スカイラインは最高出力で5PS上回る。一方、スタリオンは最大トルクが3.5kgm、率にして14%大きく、その発生回転数も900rpm低い。

DOHC4バルブの205PSに、SOHC3バルブの200PS。だが、トルクの数字を見ると立場が逆転する。

もちろん、これだけでスタリオンの方が加速に優れるとは言えない。車重やギア比、実際のトルク曲線が関係するためだ。ただ、DASHが最高出力の数字だけを追ったエンジンではなかったことは、この比較からもうかがえる。


1984年の三菱スタリオンGSR-Vと日産スカイラインDR30をイメージしてサーキットの駐車場に並べた創作イラスト
1984年の国産2Lターボ競争をイメージした創作比較イラスト。両車の外観には実車との相違があり、特に右側スカイラインのフロントは本来グリルレスの「鉄仮面」仕様とは異なります。実際の比較試乗場面ではありません。

1987年の170馬力を「性能低下」と呼べない理由

なお、後年のカタログには同系統のDASHエンジンが170PSと記載されている。しかし1984年の200PSはグロス表示、1987年の170PSはネット表示だ。測定条件が違う数値をそのまま引き算して、30PS失ったとは判断できない。

200PSのGSR-Vは5速MTを採用し、215/60R15のピレリP6を標準装備。三菱はエンジンだけでなく、足元にも当時の高性能GTらしい仕様を与えていた。

このDASHエンジンはスタリオン専用ではなく、ギャランΣなどにも採用されている。三菱が当時、この技術を単なる限定車の飛び道具ではなく、乗用車用の高性能エンジン技術として展開していたことが分かる。

【編集者が思うこと】

1984年のエンジンといえば、DOHC、4バルブ、ターボ。そんな言葉が並ぶだけで速そうに見えた時代だ。

そこで三菱が出してきたのが、SOHCで3バルブ、しかも低回転ではそのうち1本を休ませるという仕掛け。普通に考えたら、せっかく付けたバルブをなぜ使わないんだ? となる。

さらに面白いのは、同時代のスカイラインに5PS負けているのに、最大トルクでは14%勝っていることだ。馬力の数字ばかり見ていたら、この違いは見落としてしまう。

俺としては、むしろ1982年の燃費対策エンジンから、この高性能エンジンへの技術のつながりが気に入った。何でも新しくするのではなく、既に持っている仕掛けを別の目的に使う。こういう技術屋の発想こそ、昔の三菱らしいと思う。

次回は限定50台のGSR-VRと最終型2.6L。200馬力を達成したスタリオンが、その後なぜ排気量を増やす方向へ進んだのかを追ってみたい。


スタリオン 5部作

1982年の誕生と開発思想、200馬力のDASH、限定GSR-VRと最終型2.6L、幻の4WDラリー、そしてガルウイング仕様まで。本編4記事+特別編1記事で検証します。

ちょっと分かりにくい用語

インタークーラー
ターボで圧縮されて高温になった吸気を冷却する装置。空気の密度を高め、エンジンがより多くの空気を取り込む助けになる。
スワール
シリンダー内に発生する旋回する空気の流れ。燃料と空気を混ぜ、燃焼を安定させるために利用される。
グロス表示・ネット表示
エンジン出力の測定条件の違い。グロスは補機類などの負荷が少ない条件で測定し、ネットは実車搭載に近い状態で測定する。同じエンジンでも異なる数値となるため、単純比較はできない。

参考資料

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