排気量28%増で、たった5馬力!? スタリオンGSR-VRはなぜ2.6Lになったのか

排気量28%増で、たった5馬力!? スタリオンGSR-VRはなぜ2.6Lになったのか

1987年2月、三菱スタリオンにブリスターフェンダーを備えた「2000GSR-VR」が登場した。2.0Lターボ、170PS、限定50台。翌1988年4月には、同じGSR-VRの名で排気量2.6Lの最終型が発売される。

ところが、この2台を比べると妙な数字が出てくる。排気量は約28%も増えたのに、最高出力は170PSから175PSへ、たった5PSしか増えていない。

三菱はなぜ、あの200馬力DASHエンジンを持っていながら、最終型では2.6L直列4気筒を選んだのか? カタログを並べ、馬力、トルク、重量、そして当時の税金まで調べてみた。

同じGSR-VRでも、中身は別の車だった

まず整理したいのは、GSR-VRには2種類あることだ。

1987年2月の2000GSR-VRは、北米向けに採用されたワイドボディを国内へ持ち込んだ特別限定車。エンジンはそれまでのGSR-Vと同系統のG63B型「DASH 3×2」で、5速MTのみ。強化サスペンション、8段階調整式ショックアブソーバー、LSDなどを装備していた。

一方、1988年4月の2600GSR-VRは、北米仕様でも使われていたG54B型2.6Lターボへ変更。5速MTに加えて4速ATも選べるようになり、国内スタリオンはこのGSR-VRの単一グレードへ整理された。


1987年型スタリオン2000GSR-VRと1988年型2600GSR-VRをイメージした黒と赤のワイドボディ車の比較イラスト
1987年の2000GSR-VRと1988年の2600GSR-VRを題材にした創作比較イラスト。ボンネット、ホイール、スポイラーなどの細部は実車と異なります。正確な年式別仕様は本文の比較表をご覧ください。

当時のカタログと車両諸元を比較すると、違いがはっきりする。

項目 2000GSR-VR 2600GSR-VR
登場 1987年2月 1988年4月
型式 A184A A187A
エンジン G63B DASH G54B
排気量 1,997cc 2,555cc
最高出力 170PS/5,800rpm 175PS/5,000rpm
最大トルク 26.0kgm/3,000rpm 32.0kgm/3,000rpm
車両重量 1,240kg 1,320kg
全幅 1,745mm 1,745mm
前タイヤ 215/60R15 205/55R16
後タイヤ 215/60R15 225/50R16
変速機 5MT 5MT/4AT

※国内仕様、車重は5MT車で統一。出力・トルクはいずれもネット値。2000GSR-VRの限定50台は発売時の設定台数であり、実際の総生産台数を確定した数字ではない。

200馬力から170馬力へ。ここは勘違いしやすい

前回取り上げた1984年のスタリオンGSR-Vは200PSだった。それが1987年のGSR-VRでは170PS。数字だけを見れば30PSも失ったように見える。

しかし、1984年の200PSはグロス表示、1987年の170PSはネット表示だ。当時のカタログを調べた三樹書房の資料にも、GSR-VのDASHエンジンについて出力表示の変更が記録されている。

したがって、200PSから170PSへの変化を、そのままエンジンの性能低下とは解釈できない。

今回比較する1987年の170PSと1988年の175PSは、ともにネット値。この2台なら、同じ表示方式のメーカー公表値として比較できる。ただし、エンジンそのものはG63BからG54Bへ変更されている。

排気量28%増なのに5馬力増。その代わり何を得た?

実際に計算してみよう。排気量は1,997ccから2,555ccへ558cc増、約27.9%の増加。それに対して最高出力は約2.9%増にすぎない。

一方、最大トルクは26.0kgmから32.0kgmへ約23.1%も増加している。しかも最大トルクの発生回転数は、どちらも3,000rpmだ。

車両重量は80kg、約6.5%増加。ここで重量1トンあたりの最高出力を計算すると、2000GSR-VRが約137.1PS/t、2600GSR-VRが約132.6PS/tとなる。排気量を大きくしたのに、重量あたりの最高出力は約3.3%下がっている。

しかし重量あたりの最大トルクは、約15.6%向上する計算だ。

つまり2.6L化は、最高出力を大きく伸ばす変更というより、増えた車重を補って余りあるトルクを得る方向だった、と数字からは読める。ただし、これだけで実際の加速性能や乗りやすさの優劣が決まるわけではない。ギア比やトルク曲線、車体条件まで含めた比較が必要だ。

2.0Lなのに3ナンバー。あのフェンダーは高くついた

もう一つ面白いのが、1987年の2000GSR-VRも、すでに3ナンバーだったことだ。

当時の5ナンバー乗用車の全幅上限は1,700mm。GSR-VRは排気量が1,997ccでも、ブリスターフェンダーによって全幅が1,745mmとなったため、普通乗用車の3ナンバー登録になった。

しかも1989年の税制改正前は、3ナンバーの税負担が今よりずっと重かった。

自家用の2.0L・5ナンバー車の自動車税は年額39,500円。一方、3.0L以下の3ナンバー車は年額81,500円。差は年間42,000円、約2.06倍になる。

2.0Lのままでも、フェンダーを広げて3ナンバーになれば、自動車税は倍以上。 ワイドボディを選ぶことには、見た目だけでは済まない代償があった。

それでも三菱は、1987年に2000GSR-VRを限定発売した。翌年の2.6L化より先に、国内市場へワイドボディを導入していたのである。


1987年の三菱車販売店でスタリオン2000GSR-VRの維持費を検討する男性を描いた昭和カー雑誌風イラスト
1987年の三菱車販売店をイメージした創作イラスト。人物と店舗は架空のもので、展示車のホイールやボンネットなどの細部は実際の2000GSR-VRと異なります。

最終型の価格が302万円と255万円、両方ある謎

2600GSR-VRの新車価格を調べると、5速MT車について302万5,000円という記録と、255万9,000円というカタログデータが見つかる。同じグレードなのに46万6,000円も違う。

カーセンサーでは新車時価格が約303万円と掲載され、当時価格を整理したオーナーの記録では1988年の価格を302万5,000円としている。一方、GAZOOのカタログデータには255万9,000円と記載されている。

オーナーの記録によれば、255万9,000円は1989年4月の税制改正後の価格だという。ただし、GAZOOでは1988年4月発売モデルの欄にこの数字が掲載されており、同一条件のメーカー価格表を改正前後で照合できていない。正確な価格改定日や、各資料の価格表示条件までは確認できない。

1989年4月、従来の物品税が廃止され、消費税が導入された。当時の普通乗用車には一般の3%とは別に6%の特例税率が適用され、それまでの普通乗用車の物品税率は23%だった。

二つの掲載価格の差額は46万6,000円、302万5,000円を基準にすると約15.4%。ただし、物品税と消費税では課税の仕組みが異なるため、この差額をそのまま税額の減少分とみなすことはできない。また、車両本体の価格改定がどれほど含まれていたかも断定できない。

それでも、スタリオンの価格を考えるときに1989年の税制改正を外せないことは確かだ。車両の性能だけを比較しても、当時の購入事情は見えてこない。

なぜ最後は北米系の2.6Lだったのか

最終型のG54B型2.6Lターボは、北米向けスタリオンでも使用されていたエンジンだ。三菱が1988年に突然、新しい大排気量4気筒を開発して載せたわけではない。

国内ではGSR-VRの単一グレードへ整理され、2.6Lターボ、ワイドボディ、16インチの前後異サイズタイヤ、LSDなどを組み合わせたスポーツGTとなった。

そこからは、既存の海外向け技術を利用した商品構成の整理や、ピーク出力よりもトルクを重視する方向転換が考えられる。

ただし、三菱が「なぜDASHではなくG54Bを選んだか」を説明した開発決裁資料や担当者の明確な証言は、今回確認できていない。コスト削減、海外仕様との共通化、走行性能上の狙いのどれが最大の理由だったかは、推測の域を出ない。

確かなのは、最後のスタリオンが「より高い馬力」より「より大きなトルク」を持つ車へ変わったことだ。 そして、その変更は日本の3ナンバー税制が大きく変わる直前に行われていた。

【編集者が思うこと】

スタリオンの最終型は2.6Lで175馬力。昔の雑誌で200馬力を誇っていた車が、最後は175馬力というのが、ずっと妙だった。

でも、数字をきちんと並べると印象が変わる。そもそも200馬力と175馬力は測定方式が違うし、同じネット値のGSR-VR同士なら、2.6Lは最大トルクが23%も大きい。

それ以上に引っかかったのが税金だ。たった50台の2.0Lワイドボディを出すために、わざわざ3ナンバーの税負担まで背負わせた。今なら排気量で税額が決まるけど、当時はボディの幅にも大きな意味があった。

俺としては、2.0LのDASHを積んだ限定GSR-VRの方が技術的には惹かれる。しかし、最終型2.6Lの方がトルクに余裕があることも、数字を見れば納得できる。

ただ、やっぱり聞いてみたい。三菱の開発陣は最後に何を優先したのか。速さなのか、売りやすさなのか、それとも北米仕様を国内へ持ってくる合理性なのか。そこは、まだ答えが出ていない。

次回は、さらに別方向へ突き進んだ350馬力のスタリオン4WDラリー。グループBを目指した試作車と、その実戦記録を追ってみたい。


スタリオン 5部作

1982年の誕生と開発思想、200馬力のDASH、限定GSR-VRと最終型2.6L、幻の4WDラリー、そしてガルウイング仕様まで。本編4記事+特別編1記事で検証します。

ちょっと分かりにくい用語

グロス表示・ネット表示
エンジン出力の測定条件の違い。グロスは補機類などの負荷を抑えた条件、ネットは実車搭載状態に近い条件で測定する。同じエンジンでも数値が変わるため、単純な大小比較はできない。

参考資料

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