280PSを目指したのに4ドア・250PS!? RX-8はRX-7を裏切ったのか【第5部】

280PSを目指したのに4ドア・250PS!? RX-8はRX-7を裏切ったのか【第5部】

1999年、マツダは東京モーターショーで「RX-EVOLV」を発表した。新開発の自然吸気ロータリーエンジン「RENESIS」を搭載し、目標最高出力は280PS。ターボに頼らず、9000rpmで280PSを発揮する構想だった。

ところが、2003年に発売された市販車RX-8のタイプSは250PS。そして2008年の改良型タイプSでは235PSになっていた。

280PSを目指していたのに、なぜ市販車は250PS、さらに235PSへと数字を下げたのか。しかもRX-7の後継を期待したファンの前に現れたのは、4ドアのスポーツカーだった。

これはロータリーの退化なのか。それとも、馬力以外の何かを守るためだったのか。1995年の試作車から2008年の改良型まで、マツダの公式資料を追ってみた。

1995年のRX-01から、4人乗り構想は始まっていた

話は1995年にさかのぼる。この年の東京モーターショーに登場した「RX-01」は、2ローターの試作エンジンを搭載したコンセプトカーだった。マツダの資料によれば最高出力は220PS、乗車定員は4名。

一方、1996年には経営再建の影響で新型ロータリースポーツの開発が凍結された。マツダの100周年公式記録には、技術者たちが訓練用のロードスターを改造し、非公式に試作ロータリーエンジンを載せて開発継続を訴えたエピソードが残っている。

そして1999年、RX-EVOLVが登場する。

驚くのは、その性能目標だ。自然吸気RENESISで280PS/9000rpm。さらにドライバーの技量に応じて、280PSのエキスパート用と240PSの非エキスパート用を使い分ける構想まで発表していた。

ただし、これはコンセプトカーの目標値であって、量産エンジンで280PSを達成したという記録ではない。


1995年のRX-01から1999年のRX-EVOLVへの商品企画の変化を示す、架空のコンセプトカー展示イラスト
1995年のRX-01と1999年のRX-EVOLV。ロータリースポーツの商品企画の変化を表現したAIイメージ。車名・年式は実際の発表に基づくが、車体の外観・ドア構造・展示会場は創作を含み、実車や実際のマツダ公式展示を再現したものではありません。

4ドア化は妥協? 実は車体構造まで作り直していた

2003年4月9日、マツダはRX-8を発表した。販売は5月上旬から。商品企画の狙いは明確だった。スポーツカーの走りを楽しみたいが、家族や友人のために購入をあきらめていた人にも乗ってもらうことだ。

特徴は前後観音開きのフリースタイルドア。センターピラーのない大きな開口部を実現したが、後ろのドアだけを単独で開くことはできない。前ドアを先に開ける必要がある。

さらに、ピラーをなくした分の側面衝突対策として、後部ドア内部に高張力鋼製の補強部材「ビルトインピラー」を組み込んだ。

つまり、普通の4ドアセダンにロータリーを積んだのではない。スポーツカーの車体に、大人4人が乗るための構造を一から作り込んだのである。

エンジン搭載位置も従来のRX-7と比べて40mm低く、60mm後方に移動。前席とエンジンの配置を工夫しながら、後席の空間まで確保した。トランク容量は290Lだった。


マツダRX-8の前後観音開きドアと、後部ドア内部のビルトインピラーを概念的に示すイラスト
RX-8のフリースタイルドアとビルトインピラーの構造イメージ。後部ドアの前縁に補強材を組み込み、センターピラーレス構造の側面衝突安全性を確保している。部品形状や取り付け位置の細部は簡略化しており、実車の正確な設計図ではありません。

RENESISはなぜターボを捨てたのか

RX-7の13B-REWはシーケンシャルツインターボで280PSに到達した。一方、RX-8の13B-MSP「RENESIS」は自然吸気である。

最大の特徴は、排気口をローターハウジング外周から側面へ移したサイド排気方式。吸気側も見直し、マツダの発表では吸気ポート面積が従来比で約30%拡大したという。

これによって吸排気の仕組みを改善し、燃費や排出ガス性能の向上を狙った。2003年の量産車では、6速MTのタイプSが250PS/8500rpm、標準仕様が210PS/7200rpmだった。

興味深いのは最大トルクだ。250PS仕様は216N・mなのに、210PS仕様は222N・m。最高出力の大きいエンジンが、最大トルクでも上回るとは限らない。

RENESISは、ターボの過給圧で出力を稼ぐRX-7とは違い、自然吸気で高回転まで回すことを重視したロータリーだった。

250PSから235PSへ。2008年型は本当に遅くなったのか

2008年3月10日、RX-8は大幅な改良を受けた。新たにタイプRSが登場したが、その最高出力も235PS。従来のタイプSより15PS低くなっていた。

マツダの2003年型・2008年型公式諸元表などを突き合わせ、タイプSの6速MT同士で比較した。

項目 2003年型 2008年型
最高出力 250PS/8500rpm 235PS/8200rpm
最大トルク 216N・m 216N・m
車両重量 1310kg 1350kg
新車価格・税抜 275万円 280万円
重量÷最高出力 5.24kg/PS 約5.74kg/PS

※日本国内仕様のタイプS・6MTを比較。重量・価格は当時の公表諸元・カタログ値。2008年型の車重はメーカーオプションにより変動する。年式による標準装備差は補正していない。

最高出力は6.0%減、車重は約3.1%増。サイトBで計算すると、1PS当たりの車重は約9.6%増加した。

少なくともカタログ上のパワーウェイトレシオでは、2008年型タイプSは2003年型より不利になっていた。

ただし、これだけで加速性能や運転感覚まで悪化したとは断定できない。

マツダは2008年の改良でウォーターポンプやオイルポンプを見直し、6速MTのギア比と最終減速比を変更。低中速域の加速感や性能の安定性を改善したと説明している。足回りやボディ剛性、空力にも手が入った。

しかも標準仕様の最高出力は、2003年型の210PSから2008年型では215PSへ上がっている。全グレードが一律に出力低下したわけではない。

なお、タイプSの最高出力を15PS引き下げた直接の理由や、改良による実際の加速タイムの変化までは、今回確認した公式資料だけでは断定できない。


2003年型RX-8タイプSの250PS・1310kgと2008年型タイプSの235PS・1350kgを比較する技術解説イラスト
2003年型RX-8タイプS(250PS・1,310kg)と2008年改良型タイプS(235PS・1,350kg)を比較したAIイメージ。数値は当時の日本国内仕様に基づく。車両の外観やホイール、整備部品には実物と異なる部分があり、各年式の純正仕様や実際の整備現場を正確に再現したものではありません。

RX-7の399.8万円からRX-8の275万円へ――価格も別路線だった

価格にも商品企画の変化が表れている。

2002年のRX-7最終限定車「スピリットR・タイプB」は、4人乗り5速MTで280PS、税抜399.8万円。一方、翌2003年のRX-8・タイプSは4人乗り6速MTで250PS、税抜275万円だった。

差額は124.8万円。RX-8の方が約31.2%安い計算になる。

もっとも、RX-7は高性能装備を備えた最終限定車であり、RX-8は通常販売モデル。同等装備・同条件の価格比較ではない。

それでも、マツダがRX-8をRX-7の高価格路線の延長ではなく、より広い購入層を想定したスポーツカーとして企画したことは読み取れる。

実際、マツダは2003年の発表時に、月販目標1000台に対して約5000台の事前予約があったと公表している。

RX-8はRX-7の後継ではなく、ロータリーを残すための別解だった

RX-7は2ドア、ツインターボ、280PS。一方、RX-8は4ドア、自然吸気、発売時250PS。数字と外観だけを並べれば、RX-7ファンが物足りなさを感じたとしても不思議ではない。

しかし、経営再建による開発凍結、RENESISの開発、4人乗りの車体設計、販売価格まで追うと、違う姿が見えてくる。

マツダはRX-7をそのまま作り直したのではなく、ロータリーを使い続けられる商品としてRX-8を成立させようとしていた。

RX-8はRX-7と同じ答えを出したクルマではない。ロータリースポーツを続けるために、問題の解き方を変えたクルマだった。


低いスポーツクーペと4人乗りスポーツカーという、ロータリースポーツの異なる商品企画を象徴した創作イラスト
ロータリースポーツが模索した、低いクーペと4人乗りスポーツカーという二つの方向性を象徴するAIイラスト。RX-01・RX-EVOLVの開発構想を題材としているが、描かれた車両デザインは創作であり、実車の外観や実際の展示会場を再現したものではありません。

【編集者が思うこと】

正直、昔はRX-8を見て「なぜ4ドアなんだ?」と思った。RX-7のあの低いボディとツインターボを知っていれば、なおさらである。

ところが今回、いちばん引っかかったのは4ドアよりも馬力だった。1999年のコンセプトでは自然吸気280PSを目標にしていたのに、量産車は250PS。そして2008年には235PS。普通、スポーツカーの改良といえば馬力が上がるものだと思っていたが、そう単純ではなかった。

もう一つ面白いのは、ピラーを取り去っておきながら、ドアの中にピラーを作っていること。4ドアにするために、そこまでやるのか、と。

RX-7のような2ドア・280PSの新型車も見たかった。しかし、もしRX-8という商品企画が成立しなかったら、ロータリーの市販車そのものがもっと早く途絶えていた可能性もある。

RX-8を手放しでRX-7以上とは言わない。ただ、裏切り者と片付けるには、マツダの技術者たちはずいぶん面倒な仕事をしていたようだ。

ちょっと分かりにくい用語

フリースタイルドア
前後のドアが車体中央から左右に開くRX-8独自のドア方式。後部ドアは前部ドアを開いてから操作する。一般的な4ドア車のように後部ドアだけを単独で開くことはできない。
サイド排気方式
ロータリーエンジンの排気口をローターハウジング側面に設ける方式。従来のRX-7などで使われた外周排気方式とは排気の取り出し方が異なり、RENESISの燃費・排出ガス性能向上を支える技術の一つとなった。

マツダロータリー 7部作

1967年のコスモスポーツからコスモAP、ユーノスコスモ、RX-7、RX-8、そしてロータリーの復活まで。マツダが挑んだ夢と現実を、開発史、性能比較、販売実績、当時の記録、独自計算から全7部で検証します。

参考資料

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