日本はAI後進国なのか?――生成AIで出遅れた日本が「フィジカルAI」で逆転する可能性

ChatGPT、Gemini、Claude、そして中国のDeepSeek。世界で話題になる生成AIを並べてみると、日本企業の名前がほとんど出てこない。「日本はAIでも完全に出遅れたのではないか」と感じても不思議ではない。

実際、最先端AIモデルの開発では米国と中国が圧倒的に強い。Stanford大学の「AI Index 2026」では、2025年に登場した注目すべきAIモデルは米国59、中国35。現在のAI最前線は、かなり露骨な米中二強になっている。

しかし、日本がAIそのものを作れないわけではない。Preferred Networksの「PLaMo」、NTTの「tsuzumi 2」など国産基盤モデルは存在する。それでも世界の巨大AI競争で主導権を握れていない。ここまでは確かに、日本の「出遅れ」である。

米中の巨大AI開発と日本のロボット産業を対比したイメージ※AIによる概念イメージ。実在するデータセンター、工場、企業設備を再現したものではありません。

日本には、まだ「手足」という妙に強い分野が残っている

ところがAIをパソコンの画面から外へ出すと、話が変わる。AIがカメラやセンサーで周囲を認識し、判断し、ロボットや機械を実際に動かす「フィジカルAI」である。

日本はここで突然存在感を取り戻す。国際ロボット連盟(IFR)によれば、日本は世界の産業ロボット生産の約38%を占める世界最大級のロボット製造国である。FANUC、安川電機をはじめ、サーボモーター、減速機、センサー、工作機械、FA設備など、「AIに手足を付ける産業」の層が厚い。

しかも工場には、インターネットを検索しても手に入らないデータが眠っている。「この部品をどの角度でつかめば滑らないか」「この振動なら故障が近い」「この溶接条件なら不良になる」といった、現場で蓄積された知識である。

経済産業省がフィジカルAIを「日本の勝ち筋の一つ」と明記しているのも、この産業基盤と現場データがあるからだ。

フィジカルAIを活用して産業ロボットが稼働する日本の近未来工場※AIによる概念イメージ。実在する自動車工場やロボット製品を再現したものではありません。

ただし、中国を見ると楽観論は一気に吹き飛ぶ

「ロボットなら日本が強い。だから次は日本の番だ」と考えたくなるが、そこで中国が出てくる。

2024年に中国で新たに導入された産業ロボットは約29万5,000台。世界の新規導入の54%が中国だけで使われた。 稼働中の産業ロボットも約200万台に達し、日本の約45万台のおよそ4.5倍である。さらに中国国内では、中国メーカー製ロボットのシェアが57%まで上昇した。

これは相当に怖い数字である。中国はAIだけを研究しているのではない。巨大な製造業を実験場にして、AIとロボットを同時に育てられる。ロボットが増える→現場データが増える→AIが賢くなる→さらに自動化できるという循環を国家規模で回せるからだ。

大量の産業ロボットとAIシステムが稼働する中国の巨大スマート工場のイメージ※AIによる概念イメージ。中国の産業ロボット導入規模を象徴的に表現したもので、特定の工場を再現したものではありません。

日本製ロボットに「アメリカ製の脳」が載る未来

もう一つ気になる動きがある。日本を代表するFANUCは2026年、Googleと連携してAIエージェントによるロボット制御を進め、NVIDIAのフィジカルAI技術も積極的に取り入れている。これは世界最高水準の技術を早く実用化するという意味では、極めて合理的である。

ただし別の見方もできる。

日本が優秀なロボットという「身体」を作り、考える「脳」やAI基盤はGoogleやNVIDIAから借りる。 もしそこまで進めば、日本はAIロボット大国ではなく、「外国製AIを載せる優秀な機械メーカー」にとどまる可能性がある。

かつて日本企業は電子部品やディスプレイでは強かったが、スマートフォンのOSとプラットフォームはAppleとGoogleが握った。フィジカルAIでも、同じ構図になる可能性は無視できない。

そのため日本政府も、現場データを使える国産マルチモーダル基盤モデルや、製造業データをAIが学習しやすい形へ整える「AI-Ready化」を進め始めている。FANUCも富士通と、フィジカルAI分野での協業に向けた検討を始めている。

日本製ロボットと海外AI基盤、国産AI開発の関係を表した概念イメージ※AIによる概念イメージ。実際の企業間システム構成を示す図ではなく、AI基盤への依存という産業構造を象徴的に表現しています。

逆転の条件は「ロボットを作れること」ではない

日本にはロボット、工作機械、センサー、精密制御、製造現場という強力な資産がある。しかし、それだけでフィジカルAI競争に勝てるわけではない。

重要なのは、現場からデータを集め、そのデータでAIを学習させ、賢くなったAIを再び現場へ戻す仕組みまで日本側が握れるかである。

米国はAIモデル、半導体、クラウド、シミュレーション技術で強い。中国はAIに加えて世界最大の製造現場とロボット導入量を持つ。その間にいる日本が「昔からロボットが得意だから大丈夫」と構えていれば、むしろ危ない。

逆に言えば、巨大なChatGPTを作る競争とは違うゲームなら勝負できる余地は残っている。工場、自動車、物流、建設、介護など、AIが現実世界へ出てきた時、日本の古い産業資産が突然「AIの学習資源」に化ける可能性がある。

日本はAI後進国なのか。それを決めるのは、これからロボットを何台作るかではない。そのロボットが経験したことを、誰のAIが学習するのかである。

【編集者が思うこと】

正直、最初は「ChatGPTでは負けたけど、日本にはロボットがあるじゃないか」と思っていた。でも調べると、そんな簡単な話ではなかった。中国はとんでもない数のロボットを工場へ入れているし、日本のFANUCを賢くする頭脳にはGoogleやNVIDIAも入ってくる。

ただ、俺はここで日本は終わったとも思わない。工場の機械を何十年も動かし、壊し、直し、改善してきたデータは、日本が実際に持っている資産だ。問題は、それをまた紙の資料とベテランの頭の中に眠らせてしまうのか、本当にAIの餌にできるのか。そこを間違えたら、今度こそ「いい部品だけ作る国」で終わってしまう気がする。

参考資料

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