2026年11月3日、アメリカ中間選挙でトランプ大統領率いる共和党が大敗した。民主党が上院と下院の両方で多数派を獲得し、トランプ政権は議会から強い制約を受けることになる。
関税政策に振り回されてきた日本企業にとっては、ひとまず朗報なのか。ドルが売られ、ようやく円高に向かうのか。
ところが選挙翌日の為替市場を調べると、ドル円は一時157円台まで下落したものの、同じ日のうちに158円台へ戻していた。 しかも、トランプ大統領には依然として強い権限が残る。
トランプ敗北! 怒りの矛先は民主党より先に身内へ?
11月4日のロイター通信によると、民主党は共和党の地盤だったテキサス州やカンザス州などでも勝利。背景には生活費の高騰、関税政策、イラン戦争への不満があった。
敗北を受けたトランプ大統領は、意外にも民主党を祝福し、選挙結果を受け入れる姿勢を示した。しかし、自分が候補者だったら圧勝していたと主張。敗れた共和党候補への批判も始めた。
一方、民主党が成立させた法案については、大統領の拒否権を使う考えを示している。11月4日には、自身のSNSに「VETO(拒否権)」と書かれた赤い帽子の画像まで投稿した。
イラン戦争についても敗因の一つと認めながら、開戦の判断そのものは正しかったと主張した。
現時点で確認できる矛先は、敗れた共和党候補への批判、民主党議会への拒否権、そしてイラン政策の正当化という3方向だ。
ただし、これらの発言から軍事行動の拡大や新たな報復措置を断定することはできない。
議会を失っても、トランプ関税は生き残る
2027年1月3日に新議会が始まれば、民主党は政権への調査や予算・人事への監視を強められる。では、関税も止められるのだろうか。
米議会調査局(CRS)の資料を確認すると、話はそれほど単純ではなかった。
2025年の日米合意では、多くの日本製品に15%の関税が適用された。しかし2026年2月、米最高裁が国際緊急経済権限法(IEEPA)には関税を課す権限がないと判断。その後、政権は別の法律を使って関税を導入した。
| 時期 | 日本向け関税を巡る主な動き |
|---|---|
| 2025年7月 | 日米間で原則15%の関税枠組みを合意 |
| 2026年2月 | 最高裁がIEEPAに基づく関税権限を否定 |
| 2026年7月 | 強制労働産品の輸入規制を巡り、通商法301条による新たな関税措置を導入。対象の日本製品は原則、通常関税と合わせて12.5%(一部対象外) |
| 2026年11月 | 民主党が議会多数派を獲得。ただし既存関税は自動撤廃されない |
自動車など一部製品には別の制度が適用され、日米合意に基づく15%の上限もある。つまり、関税は一律ではない。
なお、米国税関へ関税を納めるのは原則として輸入者だ。日本の輸出企業にも価格交渉などを通じて負担が波及することはあるが、関税を直接納める企業と経済的な負担を引き受ける企業は、必ずしも同じではない。

【制度のイメージ図】民主党が議会多数派となっても、大統領の法案拒否権は残る。関税措置にも個別の法律上の根拠があり、選挙だけで自動撤廃されるわけではない。実際の拒否権行使や議会の場面を再現したものではない。
民主党は関税制度の見直しを進められるが、トランプ大統領は法案を拒否できる。拒否権を覆すには原則として上下両院それぞれで投票者の3分の2が必要だ。
選挙で共和党が負けても、日本製品に課される米国の関税が翌日からゼロになるわけではない。
円高になるはずが、ドルは買い戻されていた
11月4日の東京市場で、ドル円は高値158円74銭、安値157円40銭をつけた。差は1円34銭、ドル円レートの約0.84%に当たる。その後、158円台を回復した。
この変動を、日本の輸出入企業の立場で計算してみよう。
例えば、100万ドルの代金を受け取る輸出企業。1ドル158円74銭なら1億5,874万円だが、157円40銭なら1億5,740万円となる。
その差は134万円。 同じ100万ドルの売上でも、円換算の金額はこれだけ変わる。逆にドルで支払う輸入企業なら、円高で134万円の支払負担が軽くなる計算だ。
さらに158円から150円まで円高が進めば、100万ドル当たり800万円の差になる。ただし、これらは為替予約などを考慮しない単純試算であり、今後150円になるという予測ではない。

【独自試算】2026年11月4日の東京市場の高値158.74円と安値157.40円を比較。100万ドルの取引では円換算額に134万円の差が生じる。為替予約や手数料などを考慮しないモデル計算で、グラフや人物・企業・設備は模式的な表現。
円高の邪魔をするのは金利差とイラン戦争か
選挙結果だけで円高が続くとは限らない。10月末時点の米国の政策金利は3.75~4.00%、日本は1.25%。日米には依然として2.50~2.75ポイントの金利差がある。
米国の金利低下が続けば円高材料になり得るが、米国の物価上昇が長引けばドルが買われる要因にもなる。
もう一つ気になるのがイラン戦争による原油価格だ。仮に原油1バレル100ドル、為替158円なら円換算で15,800円。円高で150円になっても、原油価格が110ドルに上がれば16,500円となる。
ドル円レートが約5.1%低下しても、円換算の原油価格は約4.4%上昇する。 円高になれば輸入コストが必ず下がる、とは言えないのだ。
日本企業がこれから警戒するべきこと
今回の選挙で変わるのは、トランプ大統領の政策を議会がどこまで監視できるかという政治構造だ。一方、関税の現行措置、米国の金融政策、イラン情勢は依然として日本企業の経営を左右する。
今後は民主党議会が関税権限の見直しを進めるか、FRBと日本銀行の金利差が縮小するか、そしてイラン情勢が原油価格にどう影響するかを見ていく必要がある。
選挙の勝敗だけで円高を期待して契約条件や仕入れ価格を決めるのは危うい。政治のニュースと、実際の企業収支は分けて考えるべきだろう。
【編集者が思うこと】
俺が最初に引っかかったのは、あれだけ強気だったトランプ大統領が、議会を失ったらどうするんだ、ということだった。
関税を振り回すのも、もうおしまいかと思ったら、調べてみると法律が何種類もある。最高裁に一つ止められても、別の法律で続けていた。まるで出口をふさいでも別のドアから出てくるような話だ。
それに、選挙で大敗した直後から身内の候補者への批判が始まる。今後、民主党とどこまで衝突するのかも気になる。
俺としては、せめて円高が進んで、日本の輸入負担が軽くなってほしい。しかし数字を追うと、それすら簡単ではない。アメリカの政治が変わっても、日本の商売が楽になる保証はない。 結局そこなんだよな。
参考資料
- Reuters(2026年11月4日):民主党が米議会の上下両院を掌握
- AFP(2026年11月4日):敗北後のトランプ大統領の発言とイラン戦争への言及
- FNNプライムオンライン(2026年11月4日):VETO帽を投稿したトランプ大統領
- 米連邦最高裁判所:Learning Resources, Inc. v. Trump(2026年2月20日判決・PDF)
- 米国通商代表部(USTR):2026年7月の通商法301条関税措置
- 米議会調査局(CRS):日米貿易協定と関税交渉(2026年9月22日更新・資料転載版)
- 米国税関・国境警備局(CBP):輸入者の関税納付責任
- フィスコ/株探(2026年11月4日):東京市場のドル円相場
- 米FRB(2026年10月28日):金融政策決定
- 日本銀行(2026年10月30日):当面の金融政策運営について(PDF)
