ガルウイングにしたら230kg増!? 石原プロのスタリオンは、なぜ2人乗りになったのか

ガルウイングにしたら230kg増!? 石原プロのスタリオンは、なぜ2人乗りになったのか

1989年4月、石原プロモーション制作の刑事ドラマ『ゴリラ・警視庁捜査第8班』に、とんでもない三菱スタリオンが登場した。真っ黒なワイドボディに、上へ跳ね上がるガルウイングドア。舘ひろし演じる伊達健が乗る特殊車両「G2」である。

このクルマ、実は撮影用に造られただけではない。同年8月、一般向けにも5台限定で予約販売された。

ところが当時の販売資料を調べてみると、妙な数字が出てきた。ガルウイングにした結果、乗車定員は5人から2人へ減り、車重は230kg増加。室内長まで620mm短くなっていた。

ドアを上へ開けるために、ここまで変える必要があったのか? 石原プロの劇用車と一般向けの特装車を分けて調べてみた。

『西部警察』ではない。1989年の『ゴリラ』だった

石原プロのガルウイングといえば、『西部警察』のフェアレディZ「スーパーZ」を思い出す。しかし、スタリオンが登場したのは1989年4月放送開始の『ゴリラ・警視庁捜査第8班』だ。

『西部警察』では日産車が中心だったが、『ゴリラ』では三菱自動車が車両を提供。ギャランVR-4、デボネアV、パジェロなどが登場し、スタリオンはコードナンバー「G2」を与えられた。

ベース車は1988年登場の2600GSR-VR。2,555ccのG54B型直列4気筒ターボ、175PS、後輪駆動のスポーツクーペである。1987年の限定2000GSR-VRでも、350PSの4WDラリーでもない。

三樹書房によれば、劇用車は三菱自動車の特装部門と石原プロ側スタッフが協力して製作した。ガルウイングだけでなく、通信管制、早期警戒、武器管制などの特殊装備が劇中設定として盛り込まれていた。

「世界に5台だけ」ではなかった

このスタリオンは「5台限定」と紹介されることが多い。しかし、当時の販売案内を確認すると、その5台は一般向けの予約販売枠だった。

販売窓口は東京地区の三菱ギャラン店とパープラザ店。申込期間は1989年8月21日から9月30日までで、納車は締め切り後約4カ月と案内されていた。

日付を両端含めて数えると受付期間は41日間。つまり、41日間だけ申し込める、わずか5台枠の特装車だったわけだ。

ただし、この数字から劇用車を含む総製作台数までは分からない。撮影用車両が何台造られたか、追加改造車を含む総数、予約枠5台すべてが納車されたかについては、今回確認できた当時の販売資料だけでは確定できない。

「5台限定で販売募集された」ことと、「世界に5台しか存在しない」ことは別の話だ。

ガルウイング化で、3人乗れなくなり230kg重くなった

さらに驚いたのが、一般向けガルウイング仕様の諸元である。当時の販売案内を紹介した三樹書房の資料と、通常型2600GSR-VRのカタログ値を並べてみた。

項目 通常のGSR-VR ガルウイング仕様
乗車定員 5名 2名
車両重量 1,320kg 1,550kg
室内長 1,590mm 970mm
ドア開閉 通常の横開き 電動油圧式
ドアロック 通常方式 電磁式
開閉時間 ― 約4~4.5秒

※ガルウイング仕様は1989年の一般向け販売案内に記された諸元。通常車の1,320kgは5速MT仕様。劇用車に施された全改造内容を示すものではない。

計算すると重量は約17.4%増。室内長は620mm、約39.0%も短くなったことになる。ただし室内長はカタログ上の寸法であり、足元空間がそのまま39%減ったという意味ではない。

さらに、ベース車と同じ175PSの出力が維持されたと仮定すると、最高出力重量比は132.6PS/tから112.9PS/tへ、約14.8%低下する。

ガルウイング化は、最高出力を高める改造ではなく、車両重量と室内空間を大きく変える改造だった。

もちろん、追加された230kgをすべてドア機構の重量と考えてはいけない。どの部材が何kg増えたかという内訳は、今回確認できていない。


1989年型三菱スタリオン2600GSR-VRをモチーフに、左右のガルウイングドアと2人乗り室内を描いた創作イラスト
1989年のガルウイング・スタリオンをイメージした創作イラスト。2人乗りとなった室内と上方に開くドアを表現しています。ホイール、フロントスポイラー、ドア支持機構などの細部は実車と異なり、正確な構造図ではありません。

ドアを上げるだけでは済まない改造だった

ガルウイングの最大の見せ場は、左右のドアが屋根ごと持ち上がる姿だ。しかし、そのためにはドアの支持方法や車体側の構造も変えなければならない。

実車を撮影した2018年の記録では、車体側面のサイドシル補強や、油圧シリンダーを使うドア開閉機構が紹介されている。後席部分には開閉装置が収められ、2人乗りとなっていた。

つまり後席を残したまま、ドアのヒンジだけ付け替えた車ではない。専用の機構を収めるため、車内レイアウトにも手が入っていたのである。

2018年12月の『ホリデーオート』取材記事は、保守管理を担っていた村山商事で劇用車の現存を確認している。掲載写真の説明には、左側ドアが手動になっていたとの記述もある。

これは2018年時点の取材記録であり、新車当時の構造的な欠陥を証明するものではない。現在の稼働状態も、この記録だけでは判断できない。

テレビの「G2」と一般販売車は同じではない

ここは混同しやすい。劇中のG2には、センターコンソールのモニターや特殊無線機、レーダー、武器管制システムなどが登場した。設定上はまるで走る秘密基地である。

しかし、一般向けに販売されたガルウイング仕様に、こうした劇中の特殊装備がすべて付いていたわけではない。

当時の販売資料では、劇用車の特殊な仕掛けは市販仕様にはなく、一般的な装備内容は通常車に準じるとされている。

つまり購入できたのは、伊達健の秘密兵器一式ではなく、あのガルウイングドアを備えた2人乗りのスタリオンだった。

この区別をしないと、劇中の電子機器や架空の武器システムまで実際の市販装備だったかのように伝わってしまう。


1989年の架空のテレビドラマ撮影現場で、三菱スタリオンG2の通信機器やモニターを描いた室内イメージ
刑事ドラマ『ゴリラ・警視庁捜査第8班』に登場したG2の特殊装備をイメージした創作イラスト。モニター、通信機器、スイッチ類の配置は実車の忠実な再現ではありません。撮影セットとスタッフも架空のもので、一般販売されたガルウイング仕様には劇中の特殊装備は付属していません。

なぜ生産終了間近のスタリオンに、ここまでやったのか

通常型2600GSR-VRが登場したのは1988年4月。その翌年に『ゴリラ』が始まり、ガルウイング仕様の限定販売が企画された。GAZOOの車種資料では、スタリオンの国内販売終了は1990年2月と記録されている。

つまりガルウイングは、スタリオンのモデル末期に実施された企画だった。

メーカーが全面協力する刑事ドラマの劇用車を、一般客も注文できる特装車にする。これは単なる改造車製作というより、テレビ番組と販売店を結び付けた商品企画として見ることもできる。

ただし、どれほどの販売促進効果があったのか、企画費用や改造採算がどうだったのかを示す資料は確認できない。

確かなのは、スタリオンが最後の時期に、速さとは別の理由で人を振り向かせるクルマになっていたことだ。

【編集者が思うこと】

石原プロのスタリオンと聞くと、ガルウイングが開いて、舘ひろしが降りてくる。まず浮かぶのはその絵だろう。

でも俺が引っかかったのは、車重230kg増という数字だ。せっかくの2.6Lターボなのに、ドアを格好よく開けるための仕様変更で、5人乗りが2人乗りになり、車まで重くなる。普通のスポーツカー開発なら、逆を目指すんじゃないか。

しかも41日間の受付で5台限定。こういう妙に本気な企画を販売店まで巻き込んでやってしまうあたり、昭和の終わりから平成初期の自動車業界らしい。

もちろん、速さを求めるならノーマルのGSR-VRの方が合理的だろう。でも、ガルウイングが4秒ほどかけて持ち上がるのを見たら、そんな理屈はどうでもよくなる気もする。

それにしても、ドラマの主役メカを本当に一般向けへ売り出すとは。こういう無駄に本気なところ、俺は嫌いじゃない。

スタリオン 5部作

1982年の誕生と開発思想、200馬力のDASH、限定GSR-VRと最終型2.6L、幻の4WDラリー、そしてガルウイング仕様まで。本編4記事+特別編1記事で検証します。

参考資料

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