4G63はランエボへ。なのにギャランも240PS!? V6ツインターボに賭けた三菱の意地【第4部】

4G63はランエボへ。なのにギャランも240PS!? V6ツインターボに賭けた三菱の意地【第4部】

1992年、三菱自動車の高性能セダンに妙なことが起きた。

WRCで6勝したギャランVR-4の4G63型ターボエンジンは、新登場のランサーエボリューションへ受け継がれた。ところが、同年5月に発売された7代目ギャランにも「VR-4」は残っていた。

搭載されたのは、新開発の6A12型2.0L V6ツインターボ。最高出力は240PS。なんと、先代ギャランVR-4後期型の5速MT仕様と同じ馬力だった。

エンジンをV6に作り直してまで、なぜ240PSを維持したのか。ランエボに渡した技術と、ギャランに残した技術は何が違ったのか。

歴代VR-4と初代ランエボの仕様を比較すると、三菱が同じ2.0Lターボ4WDを、まったく違う方向へ育てていたことが見えてくる。

4G63からV6に変えても、240PSを守った

1992年5月に登場した7代目ギャランは、従来の直列4気筒中心の構成から、1.8Lと2.0LのV6エンジンを主力に据える方針へ転換した。

その頂点がVR-4の6A12型。排気量1,998cc、DOHC24バルブ、インタークーラー付きツインターボで、5速MT仕様は240PS、最大トルク31.5kg-mを発揮した。

三菱の会社史によれば、6A12はこの排気量クラスで初めてツインターボとインタークーラーを組み合わせたエンジンだった。先代の直列4気筒4G63とは、基本構造から異なる。

ただし、240PSという数値は5速MT仕様のもの。 同じVR-4でも4速AT仕様は215PSであり、7代目VR-4がすべて240PSだったわけではない。

最高出力だけなら、先代後期型から増えていない。しかし、4気筒シングルターボからV6ツインターボへの変更は、馬力の数字だけでは説明できない。三菱は高性能を保ちながら、V6ならではの回転の滑らかさも狙ったと考えられる。ただし、同条件の振動測定値までは確認できなかった。

ギャランは幅を35mm拡大。ランエボは5ナンバーにとどまった

ここで、先代VR-4、7代目VR-4、初代ランエボの5速MT仕様を並べてみる。数値は当時の国内向けカタログ仕様による。

項目 6代目
VR-4
1990年型
7代目
VR-4
1992年型
初代
ランエボGSR
1992年型
エンジン 4G63 6A12 4G63
気筒配置 直列4気筒 V型6気筒 直列4気筒
排気量 1,997cc 1,998cc 1,997cc
最高出力 240PS 240PS 250PS
最大トルク 31.0kg-m 31.5kg-m 31.5kg-m
全長 4,560mm 4,630mm 4,310mm
全幅 1,695mm 1,730mm 1,695mm
ホイールベース 2,600mm 2,635mm 2,500mm
車両重量 1,410kg 1,430kg 1,240kg
出力重量比 約170.2PS/t 約167.8PS/t 約201.6PS/t

※すべて国内向け5速MTの代表仕様。6代目は1990年10月型、7代目は1992年5月型、ランエボは初代GSR。車両重量は装備・変速機・グレードで異なる。出力重量比は最高出力÷車両重量(t)で独自計算した。

7代目ギャランは先代より全幅35mm、全長70mm、ホイールベース35mm拡大した。全幅1,730mmとなり、日本の小型乗用車の車幅上限1,700mmを超えて3ナンバー化。三菱公式は、この拡大によって居住空間を充実させたと説明する。

一方、初代ランエボの全幅は1,695mm。ギャランより35mm狭く、車体も320mm短い。

出力重量比を計算すると、ギャランの約167.8PS/tに対し、ランエボは約201.6PS/t。ランエボの数値はギャランより約20.1%高かった。

もっとも、これは市販車のカタログ値を使った比較で、実際の加速タイムやWRC競技車の速さを直接示すものではない。


1990年型6代目ギャランVR-4、1992年型7代目ギャランVR-4、初代ランサーエボリューションを並べた比較イラスト
左から1990年型6代目ギャランVR-4、1992年型7代目ギャランVR-4、初代ランエボ。3車の車格を対比したイメージイラスト。厳密な同一縮尺ではなく、外装の細部にも実車との差がある。正確な寸法は本文の比較表を参照。

馬力は同じ240PS。でも足回りは全面的に変わっていた

7代目で大きく変わったのはエンジンだけではない。前後サスペンションをマルチリンク式とし、操縦安定性と乗り心地の両立を図った。

三菱は7代目ギャランの4輪マルチリンクを、前輪駆動車として世界初の採用と説明している。VR-4の4WD仕様にも前後マルチリンクが用いられた。

先代VR-4の前輪マクファーソンストラット、後輪ダブルウイッシュボーンとは異なる構成である。一方、初代ランエボは前輪ストラット、後輪マルチリンクだった。同じ三菱の高性能4WDでも、足回りの構成は同じではなかった。

もちろん、マルチリンクという名称だけで性能の優劣は決められないが、三菱がギャランのサスペンション設計を大きく見直したことは確かだ。

さらに電子制御システム「INVECS」も投入。1992年4月に発表されたこの技術は、ファジィシフト4AT、トラクションコントロール、電子制御フルタイム4WD、アクティブ4WS、電子制御サスペンションなどを包括する技術群だった。

例えばファジィシフト4ATは、坂道やカーブなど走行条件に応じて変速を制御する。一部グレードに用意されたアクティブプレビューECSでは、超音波で前方の路面状態を検出してサスペンション制御に利用した。

ただし、これらの装備が全グレードに一式搭載されたわけではない。また、運転者の癖を学習する「INVECS-II」は1994年9月に発表された発展型で、1992年の初代INVECSと混同してはいけない。

ランエボが競技で培った4G63と4WDを小型車へ移したのに対し、ギャランはV6、4輪マルチリンク、電子制御によって高性能セダンの完成度を追っていた。


7代目ギャランVR-4のV6ツインターボ、4WD駆動系、前後マルチリンクサスペンションを示した透視イラスト
1992年型ギャランVR-4のエンジン、4WD、前後マルチリンクと電子制御技術を題材にした概念図。過給機、変速機、駆動系、サスペンション、電子制御装置などの形状や配置は模式的であり、実車の正確な設計図ではない。

1994年、ギャランは5ドアにまでなった

そして1994年8月、三菱はさらに変わったギャランを発売した。「ギャランスポーツ」である。

これはセダンにスポイラーを取り付けただけの車ではない。大型リアゲートを備えた5ドアボディに、ルーフレールやバンパーガードなどを組み合わせ、スポーツカーと当時のRVブームの両方を狙ったモデルだった。

荷室容量は最大660L(VDA測定法)。6対4分割可倒式リアシートも備え、荷物を運ぶ実用性を重視している。

しかも、普通の2.0L自然吸気FF「スポーツ」だけでなく、6A12型V6ツインターボを搭載した4WDの「スポーツGT」まで用意された。

スポーツGTの5速MT仕様は240PS。つまり、あのV6ツインターボを、リアゲート付きの実用車にまで載せていたのである。

ランエボが競技向けの高性能車として独自の道を進む一方、ギャランはセダンの枠を越え、走りと日常の使い勝手を組み合わせようとしていた。


1994年型三菱ギャランスポーツGTを題材に、開いたリアゲートと荷物を積んだ荷室を描いたイメージイラスト
1994年登場のギャランスポーツGT(E74A)の5ドアボディと荷室の実用性を表現したイメージイラスト。実車のリアゲートの傾斜、テールランプ、リアスポイラー、マフラーなどの形状・配置とは一部異なる。

1996年、ギャランの答えはさらに大きく変わる

こうして7代目ギャランは、WRCの主役をランエボへ譲りながらも、V6ツインターボ、3ナンバー車体、4輪マルチリンク、電子制御、5ドアモデルへと守備範囲を広げた。

1992年の新型VR-4と初代ランエボを比較すると、同じ三菱の2.0Lターボ4WDでも、目指す役割が違っていたことがよく分かる。

ただし、三菱が当時どのような社内判断で高性能技術を分担させたのか、直接説明する開発会議資料までは確認できなかった。ここで示した「役割分担」は、公式の車種開発方針と公開仕様を比較した編集者の解釈である。

そして1996年8月、次の8代目ギャランでは2.5Lの6A13型V6ツインターボが280PSを発揮する。ギャランの高性能路線は、そこでさらに別の段階へ進んでいく。

【編集者が思うこと】

俺が最初に疑問だったのは、ランエボに4G63を持っていかれた後、ギャランVR-4はどうなったのか、ということだ。普通なら高性能の看板も一緒に譲りそうなものだが、三菱はわざわざV6ツインターボを開発して240PSを維持していた。

しかも同じ1992年のランエボと比較すると、ギャランは車体を大きくし、ランエボは小さく軽くしている。出力重量比まで計算すると差は約20%。なるほど、同じ240〜250PS級でも目指す方向が違うわけだ。

さらに妙なのがギャランスポーツ。V6ツインターボの240PSを、荷物を積む5ドアにまで載せるとは。実用車なのかスポーツカーなのか、当時の三菱はずいぶん欲張りだったらしい。

しかし考えてみれば、ランエボに何もかも任せず、ギャラン自身も高性能と快適性を追求し続けた。その執念こそ、名門セダンが簡単には脇役にならなかった証拠なのだろう。

次回は1996年以降の8代目ギャラン。280PSのVR-4と世界初の量産GDIエンジンという、三菱の攻めた技術が同居した時代を追う。


三菱ギャラン 7部作

1969年の初代コルトギャランから、ギャランΣ、WRCで活躍したVR-4、GDI技術、そして車名の消滅まで。三菱自動車を支えた名門セダンの歴史と技術、ランサーエボリューションや現在の4WD技術への継承を、全7回で検証します。

ちょっと分かりにくい用語

複数のリンク(アーム)で車輪の動きを制御するサスペンション形式。車輪の向きや動きを細かく設計しやすいが、性能は具体的な構造やセッティングにも左右される。

参考資料

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